救援要請
ここが……娯楽の町?
賑わってはいるようですけど、カジノなどは見当たりませんね。
いいや、こういったところは温泉とカジノが一緒になってるもんだ。よーし、温泉宿を探すぞー。
疲れがどうのこうの言っておいて、結局戦士がカジノしたいだけじゃないの。全く。
と、とりあえず追いかけようよ! はぐれちゃう!
────────
平和の祭典も終わり、長期休暇明けで私たちはモンスターの補充も依頼も当然無いのでゆっくり仕事を……出来るはずが――ありませんでした。
ダンジョンの紹介を希望する冒険者達が列を作っているのは休み前と変わらないのですが、問題はその数といいますか、密度といいますか。
長期休暇明けという事は、今は全てのダンジョンが空いているという事で。
つまり早くいけばダンジョンが選び放題という事で。
希望するダンジョンを取る為に、ギルドが開くかなり前から並んでいたらしく、本当に戦場としか言えない程人がごった返していました。
希望する条件を冒険者から聞き、ツヅラオに要点をまとめて伝え、ツヅラオに選んでもらった資料を冒険者に渡し、ダンジョンの説明と注意事項を伝えて次の冒険者達へ。
これだけの数が来ているのです。流石に紹介するダンジョンは一つのパーティに1つとさせて貰っています。
しかしそれでも目が回るほどに忙しい。
ちなみに他のギルドの部署であるが、こちらもかなり大変である。
特にミヤさんの教育課はこの時期は大変だ。今回の平和の祭典を一区切りとし、冒険者育成学校は卒業と入学を行う。
卒業後の新冒険者達の為の様々な資料の配布や案内、卒業証書から始まり、入学希望者の為の試験問題や試験官となる冒険者への協力要請。試験場所の確保など、それこそミヤさん含め教育課の人の姿を見ない日もあるくらいには様々な場所へ行っている。
新冒険者が増えればその新冒険者達の支援も当然増えるわけで、冒険者保険の受付、拠点とする町の登録や冒険者となり親から独立したと戸籍を変更する冒険者も居る。
なので今のギルドの状況はといえば、冒険者としての先輩方が私達のダンジョン課へ列をなしている所を、新人の冒険者達が動き回る必要があり、ギルド内は秩序の無い混沌と化していた。
昼頃にはようやく落ち着いてきたので先にツヅラオをお昼に行かせ、一人で対応していると、
「マ、マデラさん! これ! これ!」
と、速達で届いたらしい書類を私にバタバタと走って来てギルドの職員が渡してくる。
すみません。と冒険者達に断りを入れ、書類を確認すると、朝方雪山のダンジョンへ向かったパーティからの遭難報告と、救援要請だった。
*
これ、正確には私の仕事では無いのではないですかね?
吹雪で視界が驚くほど見えない中、書類の詳しい内容を思い出しながら思わず頭を抱える。
ダンジョン内での遭難ならば私の仕事ですが、ダンジョンへ向かう途中の雪山での遭難ともなればそれは救援隊などの仕事では無いだろうか。
全く、私も私にこの書類を渡した職員も、忙しすぎてうまく頭が回っていなかったという事ですか。
さて、いったいどうしましょうか。こう吹雪いていてはろくに捜索など出来ないですが。
今回遭難したのは女性のみの4人パーティの内2人。前衛を務める戦士と罠師で、救援を出した後衛2人によればモンスターを追っていたところ吹雪が強くなりはぐれてしまった。との事。
すぐさま山を下りて待っていたが一向に姿が見えない為、救援要請を出したそうだ。
とりあえず風の精霊に命令し、風を止めさせて視界を確保。
とはいえ吹雪で足跡すら消えていますし、下手すると凍死も考えられますが。
ダンジョンに向かってみますか。はぐれたと知って付いて来ているだろうとダンジョンに向かった可能性もあります。
雪に足を取られながら、いつもより少し時間がかかるもダンジョンの入り口へ到着。
飛べたら早いのですが、いつ冒険者達と会うか分かりませんし、翼、出せないんですよね。
雪の
しかし、山の中腹に吹雪をしのげる
結構時間が経ってしまったが、ようやく冒険者二人の姿を確認。やはり、洞穴で吹雪をやり過ごそうとしていたようだ。
お互いに身を寄せて、寒さを耐えている。
「あなた方の仲間から救援依頼を受けてきました。二人とも無事ですか?」
そう私が洞穴に顔を入れ、尋ねた時の彼女たちの顔の変化は凄かった。
今にも死にそうな絶望の顔から、まるで花が咲いたように明るい顔になった。
話す気力も無い程消耗しているのか僅かに顔を上下させて応える女戦士。
衰弱している場合に飲ませようと、持って来ていたポーションを二人に渡す。
「吹雪が止まるまでは動けません。飲んだら横になり、体力の消耗を抑えてください」
洞穴の一番奥に行き、壁から拳程度の大きさの石を引っ張り出し、炎の精霊に命令し、石の中に火を宿す。
即席の暖を取れるアイテムの完成である。彼女らも寒さ対策はしてきたのであろうが、今現在寒さに震えている所を見ると甘く見過ぎていたか。
もう一つ同じものを作り、それぞれ二人へ。
握りしめ、胸に押し当て、ホッと息をつく彼女たち。
「Aランクともなれば、周りの環境も危険になります。次挑むときは、もう少し準備をしてから挑んでください。我ら冒険者は、準備し過ぎるくらいがちょうどいいのです」
「はい。身に沁みました」「ごめんなさい」
「まだ無事に助ける事が出来たわけではありません。吹雪がいつ止むか次第です」
それから二言三言、会話をしたが、寒さと疲れと安堵からか、静かに寝息を立て始める二人。
空間自体を暖気で包み、彼女らの安全を確保したうえで一旦洞穴の外へ。
――少し、精霊たちと話し合いをしなければ。
*
翌日、すっかり吹雪が止み、マデラの打ち上げた魔法を確認した救援隊に2人は無事に保護され、近くの町の病院へ。
特に異常も無く、やや弱っていただけと判断され、一週間後には無事に退院したとの事。
パパラ以外にも私の事をお姉さまと呼ぶ存在が出来てしまった事を付け加えておく。
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