強さの秘訣
ほう、これまた珍しい。
今まで一度たりとも来なかった妹からの念話とは。
かなり遠くからやっているな。……うまく聞こえん。
何々? そうか。人が、冒険者が神殿を目指してくる可能性があると。
面白いなぁ。退屈過ぎる日々の刺激に、少しでもなればいいなぁ。
────────
2人を呼んでくるよ。
と勇者が残りのパーティのメンバーを呼びに行き、この場には私と姉御と戦士さんが残った。
「そういえば、戦士さんのレベルはおいくつ何ですか?」
勇者さんのレベルは先ほど確認しましたが、そういえばこの人は勇者よりは経験があったはず、と思い出し尋ねてみます。
「ん? 俺? ……勇者よりちょっと上くらいだな。勇者の上がるペースが早くてもうすぐ追い付かれちまう」
「それなのにあのチビッ子は悩んでんのか。稀に見る真面目さんやなぁ。いや、焦りすぎとでも言おか」
いえ本当に。私と姉御の指南を見てからやる気を出した連中とは大違いですよ。
「実際かなり気を張ってるみたいでな。息抜き含めて娯楽の町に行ったってのにレベル上げ三昧で……しかも途中でさっき話した勝てない相手。ますます最近鬼気迫る感じになってしまってさ」
一人で抱えて悩んでしまっている……と。
「ごめん。お待たせ」
「いきなりついて来てって……か、神楽さん!? マデラさんも!?」
「ど、ど、どうしたのですか!?」
勇者パーティここに集まれり。
「さっき僕の悩みを相談したら、神楽さんがヒントをくれるって言ってくれて。みんなで聞こうと思って呼びに行ったんだよ」
「どうすれば強くなれるのか、ですか。私にも、教えてください!」
事情を呑み込んだらしい僧侶さんが姉御に深々と頭を下げる。
「確かに強い人に聞きたいって言ったけど、マデラさんはともかく、よりによってモンスターの神楽さんに普通聞く? 素直に教えてくれると思えないんだけど」
一方で、半信半疑と言ったところの魔法使いさん。
いいですね。モンスターを安易に信用してはいけないと理解されているようで。
「心外やなぁ。うちはいつでもチビッ子の味方やで?」
信じていません。と視線で語る魔法使いさんに姉御は続ける。
「そもそもうちのダンジョンにはほとんど冒険者は来いひんさかいね。少しでも強なって、挑戦しに来て欲しいんよ」
それに、と人差し指で自身を指差し、
「年長者の言う事には耳を傾けるべきやで?」
とにこりと笑いながら言い放つ。
「分かったわよ。聞くだけ聞く」
その姉御の言葉に、魔法使いさんは折れました。
「ほなチビッ子」
突如として勇者さんを指差し、
「経験値てなんや?」
姉御が問う。
「え? ……レベルが上がる為に必要なもの?」
そして、少し困惑しながらも出した勇者の答えを――、
「ハズレ。そらどうしたら強うなれるか、なんて悩むはずやわ」
一刀切り捨てる。
「変な誤解しとるみたいやけど、文字通り経験したという値やで? ほんなら経験とはなんや?」
「えっと…………」
不正解を突き付けられ、さっきとは異なる問いに考え込んでしまう勇者さん。
「経験とは知る事。多くの事を知り理解すれば、それが自分の
見てられない、と首を振った戦士さんが横から助け船。
「あ、……そうだった」
「強なる事考えてモンスターを倒し続けてたんと違う? そればっかやっとったらそら伸び悩むやろ」
姉御って指南中も思いましたけど、教えるというか、諭すというか……慣れ過ぎてませんかね?
「そないなわけで、うちからのヒントとして、こう言わせて貰うわ」
カツカツと勇者さんに近づき、
「固定観念に邪魔されすぎ、やで」
モフっ。
と勇者さんを抱きしめる。
「~~~~っ///」
バタバタともがくも、結構強く抱き疲れているのか抜け出せない勇者さん。
後ろで魔法使いが怖い顔しているのでそろそろ辞めてください姉御。
「そこの怖い顔しとるチビッ子には、ヒントよりもっといいのをやるわ」
ようやく勇者さんを解放し、魔法使いさんの方を向く姉御。
ぷはっと息をし、顔を真っ赤にする勇者さんと勇者さんに感想を聞いている戦士さんは一旦無視しましょう。
「な、何よ」
せっかく薄くなった警戒心がまた強くなってますよ? 先ほどの行為のせいで。
「うちらの指南の映像はみたか?」
「当たり前でしょ。どこ行っても流されているもの」
「ほんならそれ踏まえたうえで聞くわ。
「当たり前じゃな……い」
……人間なら当たり前でしょうね。
「何が言いたいか分かったみたいやね。マデラはあの時、詠唱なんてしとったか?」
……姉御相手にしているのに詠唱する暇なんぞあるわけないでしょうに。
「してない……火柱……出した時……」
「うちは独立した魔法を使ったさかい、詠唱と舞が必要やったが、マデラは火系統の魔法は無詠唱でぶっ放すで」
「ど、どうやったら無詠唱で呪文を!?」
魔法使いさんどころか僧侶さんまでこちらを向いて聞いてくる。
とても真っ直ぐな瞳で。
姉御は目線で説明してやり、と言ってますし……人間に出来るか分かりませんが、まぁ、いいでしょう。
「そもそも、魔法の仕組みは理解していますか?」
聞く人が聞けば
「な、当たり前です! 詠唱して精霊に呼びかけ、具現して貰うのが魔法です!」
すると、魔法使いさんではなく僧侶さんの方が、ムッとした顔で答えてきた。
「正解です。呼びかけるという行為が詠唱で、それが無ければ精霊に具現化して貰えません」
「それで? 無詠唱はどうすれば出来るんですか?」
早く教えろと言わんばかりの僧侶さん。
もう少し考えて欲しいものですが。
魔法使いを見れば何やら考えているみたいですし、少し待ちましょうか。
「呼びかけなくても具現して貰う……
ヒントは出しましたが、そこまで考えが及んだのであれば合格としましょう。
「はい。
まぁ精霊を従えるなんて、よほど強くないと出来ませんけど。
せめてAランクダンジョンくらいはクリア出来る様にならないと、精霊は相手にすらしてくれないでしょうね。
これくらいでええか、と姉御は呟き、
「こっちのチビッ子は狭かった視野を、そっちのチビッ子は強なった先にある扉を、それぞれ教えたんや。はよ強なってうちのダンジョンに遊びに来てな?」
ちなみに、とまるでイタズラをする子供みたいな笑みを浮かべて、
「うちは風と火の精霊を従えとるで?」
と勇者たちに言い放った。
「2属性……の精霊を……」
改めてその背中は遠い、と勇者たちに認識させた姉御は満足そうに煙管を吹かす。
「ま、悩みがこれで無くなったかは知らんけど、少なくともゆっくり休む余裕は出来たやろ? どうせ焦ったって今はどこもダンジョンなんかやってへんし、もう一泊していったらええ。」
サービスしとくで。
とこれまた満足そうに告げて、
「ほなな。ゆっくりしていってや」
番傘をぐるりと回せば、姉御の姿はどこかへと掻き消えた。
「ていうか、よく考えればあんな化け物とやりあってたマデラさんって、ほんとに規格外なんじゃないの……」
魔法使いのポツリと言った呟きに、
「そ、そうだ! マデラさん!僕のパーティに……」
「申し訳ありません。体を壊して冒険者を退いた身です。お役に立つ事は出来ません」
ええ、予想通りの反応です。
ギルドに来ていただければミヤさんが、これまた
「強い人入れて、パーティが強くなっても、結局俺らが強くなってないから意味ないだろ。神楽さんも言ってたがちょっと焦りすぎなんだよ」
わしわしと勇者の頭を乱暴に撫でる戦士さん。
なんだ、居るじゃないですか。立派な仲間が。
「では私も部屋に戻ります。連休明けにいつも通りダンジョン課でお待ちしておりますね」
ペコリと頭を下げてその場を後にする。
さて、どの程度まで強くなりますかね、あの方々は。
せめて……せめて、魔王様の元へくらいは辿り着けるようになって欲しいものですね。
など考えて部屋に戻り、入れば――。
ベフッっと顔面に枕が直撃した。
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