戦闘指南

 どれほどたった?

 2年です。

 誰か来たか?

 3組ほどパーティが来ましたが、入り口のガーゴイルの群れの餌食になりました。

 そうか。

 その者は残念そうに呟いた。


 どれほどたった?

 5年です。

 誰か来たか?

 4組のパーティが謁見の間前の廊下まで来ましたが、リッチにより全員屍へと姿を変えました。

 そうか。

 その者は少し喜びながら呟いた。


 どれほどたった?

 7年です。

 誰か来たか?

 いいえ、誰も来ていません。

 そうか。

 その者は、つまらなさそうに呟いた。


────────────────


「つまり、わざわざお前ら冒険者の為にSランクのダンジョンマスター様に戦闘指南をして貰える事になったからしっかり目に焼き付けとくんだぞ!!」

「いつからあんたはそないな事言えるほど偉うなったん?」

「一応育成課の課長で冒険者育成学校の特別顧問なもんでな」


 ミヤさんが冒険者の皆さんに大雑把に今回の趣旨を伝えていると、横から姉御の横やりが入る。

 冒険者の皆さん……姉御見るのが初めてなのかテンション高いですね。

 和服狐っ娘キター、なんて声聞こえてきますし。

 中央街にある冒険者育成学校。

 そこの中央広場……グラウンドと言った方が分かりやすいでしょうか。

 私達はそこで冒険者の皆さんを前に待機中である。

 私と姉御が待機しているだけで冒険者は色めき立っているのがわかる。

 グラウンドの中央には大きな水晶が浮かんでおり、そこに映る映像を魔法で各地の学校に、同じく設置した水晶から投写している……らしい。

 専門外の魔法の知識などさっぱりだが、あの水晶だけで100人単位の魔法使いの力を借りているとか。

 今回の戦闘指南にどれだけギルドが力を入れているのかわかるというものである。


「んじゃ、とりあえず二人に自己紹介して貰って、指南をお願いします。」


 よろしく、とミヤさんに目配せされるが……聞いてませんけど? いいんです? こんな大勢になるなんて聞いて無くて割とテンパってますよ? ドラゴンです。なんて私言っちゃいますよ?


「ほなうちから。何人かのチビッ子は知ってんかもしれへんけど、神楽と呼んでや。Sランクのダンジョンマスターをしてんで。あっこの山の頂上の社におるさかい、いつか来てや」


 おぉーーっ! と拍手が沸き起こる。

 と、ミヤさんが私の元に駆け寄って来て耳打ち


「とりあえずダンジョン課にいる事と少し前までソロ冒険者って言っといて」ヒソヒソ

「分かりました」ヒソヒソ

「マデラ、と申します。少し前まではソロで冒険者をやっていましたが、現在はギルドでダンジョン課に就いています。よろしくお願いします」


 あんな冒険者見たことあるか? いやねぇな。でもダンジョン課では見たことあるな。対応丁寧なんだよなー。ヒソヒソ

 まばらな拍手とひそひそ声が聞こえてくる。

 まぁ怪しまれますよねー……冒険者としてなんて活動してませんし。

 ちなみに、当初は指南は学校の生徒のみの予定だったが、話を聞きつけた駆け出し冒険者や中堅冒険者もぜひ学びたいと見に来ているし、上級冒険者もSランクマスターの実力を見ておきたいと……。

 つまりほとんどの冒険者が各地で、又は現地で見ている。


「あんまり長う待たせるのもアレやし。始めよか?」

「は、はい!」

「固うならんでええで、最初はうちに合わせてや」


 カンラカンラと下駄を鳴らし、私から距離を取る。

 ちなみに姉御は丸腰であるが、私は一応冒険者に見せなければならない為、防具を装備している。

 可動域狭くて動きにくいんですよね……鎧って。

 がっつり重装備ではなく、軽装備のファイター……と言えばお分かりか。

 武器としてはガントレットナックルを装備している。


「はな始めるでチビッ子ども!しっかり見ときや!」


 いきなりだった。

 カッ! と下駄の音が聞こえたかと思えばすでに私の顎目掛けて正拳が飛んでくる。

 満面の笑みで殴り掛かってこないでくださいよ。全く、

 僅かにかがみ首を傾け拳を回避する……も目の前にちょうど膝が置いてある。

 読まれてた!? 思わず両手でガード、しかしガードごと文字通り吹っ飛ばされ。

 ダメージはありませんが、完璧に読まれていましたね……。

 空中で体勢を立て直し、着地。

 冒険者から拍手が上がるが、


「今のはあかん例やで? マデラやったからガード間に合うたけど、チビッ子らやったら頭吹き飛んでんで?」


 その言葉で拍手が止まる。


「モンスターの攻撃は受けるな、防ぐな。避けろ、受け流せ。が基本や。マデラ、次は回避だけしてくれるか?」


 無言でうなずく。


「ほな」


 ……シャン♪

 鈴の音と共に先程より早い速度で、やっぱり笑顔で突進してくる。

 先程と同じ正拳を後ろに跳んでかわせば、たった一歩の踏み込みでその距離を詰められ、下段の回し蹴りを仕掛けてくる。

 それを躱す為に上に跳んで……あ、マズイ。

 ニヒッ! と姉御の笑顔が一層大きくなり、空中で身動きの取れぬ私にアッパーカットがさく裂。

 またもガードはしたものの、上空に放り出され……そのまま地面に落下。

 姉御肉弾戦思ってたより強えぇ……。

 受け身は取ったしダメージより動きが読まれ続けているのがショックですね。

 しかも向こうのしたい事が出来るように誘導されてますし……。


「今のもあかん例やね。せや、せっかくチビッ子達がおるんや。どこがあかんかったか聞いてみよか」


 そこの。

 と一番前列にいた冒険者を指差し。


「えっと……最初に後ろに跳んだ……距離?」

「正解やね。後ろに跳ぶのは間違うてへんで? マデラみたく大きく飛んだのがあかん。あんなん着地に合わせて足元狙われたら上に跳ぶしかあらへん。んで、空中では動けへんさかい攻撃を受けざるを得ーひん」


 つまり、と煙管を吹かし、


「回避するときは相手から目ぇ離さへんで最低限の距離を飛ぶのが正解。横より後ろの方がええのは、ダンジョンを想定してみるとわかるで。横が直ぐ壁とかやったらそもそもそっちに躱せんしな」


 先程まで口笛吹いたり、ヒソヒソと話していた冒険者達も真剣に見ているし聞き入っていた。


「ちなみに、あてもマデラも、全然本気ちゃうからな?本気で動いたらチビッ子達見えへんからこの位に抑えとるんやで?」


 ハードル上げないでいただけますかね……その本気で無い姉御にいいように遊ばれてるのが私なんですけど。

ほな次は、と指南はまだまだ始まったばかりである。

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