3
「日向さんは随分過と過保護なんですね。お兄様を私には任せられませんか?」
菊子が日向に向かってはっきりといやみを言ってやると日向は、「そりゃ、あんたみたいなガサツそうな女と、あにきが出掛けるとなると過保護にもなるだろ!」と菊子を軽く睨みつけた。
日向の台詞を聞いて、菊子は眉間に皺を寄せながらも、口元に笑みを浮かべる。
「そんなに心配なさらなくても大丈夫ですよ。家政婦としては分かりませんが、友人としては、目黒さんの扱いには慣れていますから。ちゃんと二人で買い物して帰って来ますよ」
菊子の台詞に日向が噛みつく。
「はぁ? 何言ってんだよ、あにきの扱いなら俺の方が慣れてるに決まってるだろ! あんたと俺とじゃ、年季が違うんだよ。あんたなんかに務まるか!」
「何と言われても、私の方が目黒さんの扱いには慣れてます」
「俺の方が!」
睨み合う二人。
二人の間に火花が散るのが見える様だ。
そんな二人を、雨は呆れた顔で眺めている。
「お前達、俺の事を、まるで物みたいに……」
雨の呟きは無視して、二人は睨み合っている。
菊子と日向、二人の間に結ばれた休戦協定は早くも危うい。
不穏な空気の中、ぱんっ、と雨が手を打った。
それに菊子と日向は、はっとして雨の方を向く。
「二人とも、喧嘩は止してくれ。菊子、俺の扱いに自信があるならさっさと出掛けるぞ。そういう事だから、日向も心配するな」
「あ、あにき……」
「目黒さん……」
雨の前で醜態を晒してしまって、二人はシュンとなる。
そんな二人に、雨は優しく笑い掛けると、「じゃあ、出掛けるか」と、車椅子を動かした。
日向は急いでシューズボックスから雨の靴を適当に選んで雨に履かせる。
菊子は、それを横目で見ながら、次は自分がやらなきゃと思う。
「菊子も、靴、履いちゃいな」
雨に言われて、菊子もシューズボックスから自分の靴を取り出すと素早く履き替えた。
菊子が靴を履くのを待って、雨が玄関扉を、よいしょ、と開けて外へ出る。
その後に菊子が続こうとすると、「おい、エプロン掛けたままで行く気かよ!」と日向の声が菊子の背中に掛かる。
「いけない、忘れてました」
菊子はエプロンを外そうとする。
両手を背中に回してエプロンの紐を掴む。
しかし、焦ってか、上手く外れない。
それを見ていた日向が、苛立った表情をする。
「全く、何やってんだ」
日向の手が、菊子の背中に伸びた。
「ひぁ!」
日向の手の感触がくすぐったくて菊子が悲鳴を上げる。
「ばか、変な声出すなよ。手伝ってやるから」
日向は器用な手つきで菊子のエプロンを外した。
その手つきは意外にも丁寧で菊子を驚かせた。
「あの、ありがとうございました」
菊子は礼を言うと、日向の顔を見上げてみた。
日向の顔は、雨とは似ていない。
母親似なのだろうか、と菊子は考える。
「いつまで人の顔見てんだ」
日向が菊子から視線を逸らす。
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