第60話 妖精使いアルヴィンの心証《しんしょう》をよくするドレス


「こんにちは~! フェアリーのクリームの様子を、見に来ました~!」休み明けぼくとフィリオーネとリリオーネとフロレーテとロロとルルとエマさんとルイーズさんで、まずは錬金術師の家にやっかいになっているフェアリーのクリームの確認に訪れたおとずれた

「ああ! 妖精使いのアルヴィン君! 許可をもらおうと、待っていたんだよ!」と錬金術師の店の、50才ぐらいの身だしなみのパリっとした男のレジ打ち店員さん(まーくん)。

「ええ? いや、今は取りあえず様子見でって事になってるんですが?」

「え? ばーちゃん、新しいフェアリーたちの事ちゃんと報告してくれたんですか?」と、不思議そうな表情のまーくん。

「いえ? 新しいフェアリーの事は聞いてないです」

「ああ、奥で確認してください。ばーちゃん~!妖精使いのアルヴィン君きたからフェアリーの部屋に案内して~!」と左胸に付いた三角フラスコ型のブローチをおさえながら大声を出す、まーくん。

「ちょっと待ってね! 今全館放送で呼んだから!」

 待つこと10秒。

「呼んだかい?まーくん? ちーちゃんが言うには『今度こそフェアリーの権利問題で、おおばあちゃんがしかられる! 妖精使いアルヴィンを怒らせないように、おもてなししなきゃ!』って言うんじゃけどの? 何か誤解があるんじゃないかいの~?」と90才ぐらいのおばあさんがレジの後ろの居住区きょじゅうくから出てきて、ぼくと目が合った瞬間。

「アルヴィンのぼうや! しばらく見ない間にリリアン姫とのえん大幅強化おおはばきょうかされたんじゃってな! わしは『アルヴィンのぼうやは出世する!』って家族に言っていたんじゃよ! 覚えておるかいの~? この間アルヴィンのぼうやと話した時、ぼうやはこんなに小さかったんじゃがわしの事おぼえとるかいのう?」と言ってニコニコと嬉しそうに両手を上下縦に50センチの幅に広げる、90才ぐらいのおばあさん。

「いやそんなに小さかったのは昔の事ですよ? 5日前来た時にはこれぐらいの大きさでしたよ?」

「そうかの? 子供はあっという間に大きくなりよるから、記憶違いかのう?」

 大人2人が並んで歩ける廊下ろうかからとびらなしで入れるリビングキッチンの20人がけぐらいのテーブルの上に、3匹のフェアリーがそれぞれの大きな鳥かごにおさまった状態でクッキーとエクレアとケーキとジュースを飲み食いしていた。

「3匹! ……。一応聞きますけど、クリーム以外のフェアリーたちってなんでここに入っているんですか?」

「ちーちゃんがクッキーを焼いておったら、キッチンの換気扇かんきせんが動かなくなったらしくての? 換気扇かんきせんを見ると、換気扇かんきせんと周囲に血しぶきと血のりがついておったそうなんじゃ。ちーちゃんはすぐ換気扇かんきせんを分解して中を見ると2匹分のフェアリーのバラバラ斬殺死体ざんさつしたいのようなものが出てきたそうなんじゃが、急いでエリクサーを振りかけると3分できず一つない2匹のフェアリーになったそうなんじゃ」と90才ぐらいのおばあさんが、暗い表情で話す。

「うわ~~~。ありがとうございます。うちのフェアリーがすいません。エリクサーの代金って、いくらぐらいになりますか?」

「エリクサーの代金はいいんじゃよ? 効果実証中こうかじっしょうちゅうの、実験段階のエリクサーをほんの少し使っただけじゃし。ただ効果抜群こうかばつぐんすぎて、新しいエリクサーの効果こうかなのかフェアリーの自然治癒力しぜんちゆりょくなのか解らなかったのが残念なんじゃが……」

「フェアリーは、10日で失った手足が生えてくるそうです。それはそうと、クリーム以外の新しく鳥かごに入っているフェアリーたちは名前を言ってどんな仕事をすることになっているのか教えてくれるかな?」

「あたしの名前クッキー! クッキーが好きだから!」

「あたしエクレア。エクレアが好きだから……」

「焼けてるクッキーのニオイに引き寄せられてきたんでしょ? クッキーの名前取り合いにならなかった?」

「ならないよ?」と、キョトンとしたフェアリークッキー。

「あれは魔性の食べ物だから……」と暗い表情を浮かべたフェアリーエクレア。

「それでクッキーとエクレアの仕事は?」

「キッチンと錬金部屋れんきんべや換気扇かんきせんが回っていない時は、キッチンの見張りみはり。回っている時は、換気扇かんきせんの外の見張り。あとは……」と言うフェアリーエクレアの後半の言葉にかぶせるように、フェアリークッキーが「コップによだれをいっぱい出す仕事もあるの~」

「ちょっと!おばあさん! よだれ集めてどうするの? ちょっと許可出せないよ!」

「違うんじゃよ違うんじゃよ? 変な目的じゃないんじゃよ?」と90才ぐらいのおばあさんが、不審ふしんなほどあわてだす。

「だから言ったじゃない、おおばあちゃん!」と言いながら20才ぐらいの美女が胸の谷間と背中を大胆だいたんに見せた真っ赤なドレスを着て現れあらわれ、お菓子のケーキとクッキーとエクレアをたくさん机にならべる。

「ちーちゃんさん! このおばあさん、フェアリーのよだれを何に使ってるんですか?」

「ちーちゃん!特許とっきょを取るまでないしょじゃよ?」90才ぐらいのおばあさんが、ちーちゃんを口止めしようとする。

「私たちおおばあちゃんの名声のおかげで、高級フロレーテ迷宮の世界樹の樹液小ビン1個と妖精たちのだ液入りの小ビン3個と世界樹キルヒアイスの樹液大ビン20個を買えたんだけど……」

「ちーちゃん!」90才ぐらいのおばあさんが、ちーちゃんのしゃべりをさえぎる。

「しょうがないじゃない!おおばあちゃん! 聞いてもらってから、ないしょにしてもらえばいいでしょ?」

「あ~~~。分かりました! それ以上はちーちゃんさんを信用して聞きません! 妖精たちのだ液入りの世界樹の樹液に何か役に立つ効果があったと理解して、他では特許登録がすむまで言わないように努力します! それでいいですか?」

「それで、よろしくお願いいたします」90才ぐらいのおばあさん、おおばあちゃんが語尾を正して真面目に答える。

「ほら!おおばあちゃん! 妖精使いアルヴィンの心証しんしょうをよくするドレス、効果こうかあったでしょ?」と言って20才ぐらいの美女ちーちゃんは胸の谷間と背中を大胆だいたんに見せた真っ赤なドレスがよく見えるように、両腕を開いてその場でくるっと回ってニッコリ笑顔をぼくたちに披露ひろうした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る