第57話 アルヴィンの意思《いし》


 4連休2日目早朝ぼくが朝食(母乳)を飲んでいると、昨日と比べて10センチぐらいかみが短いご機嫌ごきげんなリリアン姫があらわれ「アルヴィンさん!今日は王宮のカリスマ美容師を連れてきましたよ!」と元気に言った。

〈これって、例のほれ薬の材料取りに来たんじゃない?〉とリリオーネ、声に出さずに意思疎通魔法で言ってくる。

〈まさか!ほれ薬を作るならぼくの許可ぐらいとるでしょ?〉ぼくも声に出さずに意思疎通魔法で答える。

 そしてぼくたちが黙っている内にカリスマ美容師(男)が、ぼくと目を合わせずにリビングにシートと幼児用の椅子いすをセットする。

「ほら!アルヴィンさん! すわってください!」とリリアン姫が言うと、ソフィアお母様に持ち上げられて幼児用の椅子いすにすわらされるぼく。

 そこにカリスマ美容師(男)がぼくにビニールのような素材そざいのポンチョ風マントをつけ、リリアン姫についてきているメイドさんの内4人がマントのすみをかみが落ちないように持ち上げる。

「なんか厳重げんじゅうですね!」と言うぼくの言葉に「そっ、そうですか!?そんなことありませんよ!?」とカリスマ美容師(男)がどもりながら答え、ぼくに何の断りことわりもなくバリバリとぼくの頭にバリカンをかける。


 いきなりバリカンをかけられた時は「え?丸刈りまるがり?」と戸惑ったとまどったが、何とかスポーツ刈りスポーツがりにしてもらえた。

「アルヴィンさん、これでよろしいでしょうか?」とカリスマ美容師(男)がぼくの散髪さんぱつされた頭の後ろをかがみ映してうつして、ぼくが前のかがみで確認できるようにする。

「はいそうですね。カリスマ美容師と聞いていたのでもっとかっこいい髪形かみがたを期待してたのですが、その辺の床屋さんとこやさんでも出来そうな髪形かみがたですね。ぼくに選択権せんたくけんもなかったし」

「その辺の床屋さんとこやさんなんて、とんでもない! どんな錬金術の素材にされるか、分かったもんじゃないんですよ! そこをいくと、王宮のカリスマ美容師は安心安全です! アルヴィンさんの髪がまた伸びたらその時も、わたくしカリスマ美容師ダニエルが散髪さんぱつさせていただきます!」ここでカリスマ美容師ダニエルは自信じしんなのか使命感しめいかんなのか、ぼくと初めて視線を合わせ断言する。

 そのかたわらでリリアン姫についてきたメイドさんたちがぼくの散髪さんぱつされた髪をゆかに落とさないように集めて、その内の1人のメイドさんの収納魔法の中に消えリリアン姫にそのメイドさんがうなずき部屋から出ていく。

 リリアン姫とそのメイドさんのやり取りはぼくの視界には入っていないのだが、フィリオーネとリリオーネとフロレーテが視界情報を送ってくる。

〈どうする? アルヴィンの散髪さんぱつされた髪の毛かみのけ、どこに持っていくか気づかれないように追いかけれるけど?〉とフィリオーネ。

〈いや、英雄狩りに会うあうかもしれないしほれ薬と言っても多少なかよくなりやすくなるだけでしょ?〉

〈そうね、運命のパートナーのえんの強さにはかなわないわよね!〉とフィリオーネ、自信満々で楽しそうにしている。

〈まあ、そうだね〉


「リリアン姫さま! 特注特製ジュースおまたせしました!」と言って早朝に出ていった姫様付きのメイドさんが、ぼくとリリアン姫の前に500ミリリットルほど入っていそうなピンク色のポーションビンをそれぞれならべた。

 ちなみに今は日が沈んで夕飯の準備をしている時間で何故かソフィアお母様に母乳を拒否されて、「少しまちなさい」と言われていたところだ。

「さあ!アルヴィンさん!私も飲みますから特注特製ジュース飲んでください!」とリリアン姫が満面の笑顔でピンク色のポーションビンを2本もって、その内の1本をぼくにわたしてくる。

「いえ姫さま、ぼくお母様から6か月間は母乳だけを飲むように言われてまして……」

「大丈夫です! 許可はとってあります!」と笑顔のリリアン姫。

 ソフィアお母様の方を向くと、ソフィアお母様がぼくに笑顔でうなずく。

「いや、ぼくの許可取ってください! ぼくこの間、錬金術師の店でほれ薬の存在を知ったばかりなんですけど! このピンク色のポーションビン、ほれ薬でしょ!」とリリアン姫につめよって、ピンク色のポーションビンをリリアン姫の目の前に突き出す。

「アルヴィンさん! 前世の世界の女の事を、忘れたいんですよね!」と真剣な表情のリリアン姫が言ってくる。

「忘れたいというか仲良しの新記録を出すような女性が現れたら、自然に次に行けるんじゃないかと思ってるだけですよ? 忘れたいとは思いません」

「このほれ薬は、仲良しになりやすくなるだけのえんを強化するだけの薬です。特注特製で通常のほれ薬よりも強力ですが、それだけなんです! 飲んでくれますね?」と真剣な表情のリリアン姫。

「いや、気が向きません」

「これは言いたくなかったのですが、アルヴィンさんのお父様お母様父方母方のおじいさまおばあさま私のお父様お母様の承認を受けて国家予算の付いた国家プロジェクトなんです! アルヴィンさんの意思いしは関係ないんです! 飲みなさい!」と真剣な表情のリリアン姫が命令口調で言葉をしめくくる。

「はい……」

 ほれ薬の味だがそのままでは飲めないぐらいの苦さにがさ極限きょくげんまで濃くこくしたももの味でごまかしたとても飲みにくいジュース?だったのだが、リリアン姫と一緒に涙を流して吐きはきそうになりながら1時間半かけて何とか飲み干した。


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