第34話 甘いお菓子で返せない大きな借り《かり》


「あたしたち勝っちゃった?」と光の球を視界に入れないように後ろを向き、嬉しそうに言うフロレーテに。

「いや、それはどうだろう? おそらく英雄ではない妖精の電撃を十数本受けるよりも、時間を止める方が魔力を使うからよけなかった? まあ全方位に敵がいて避けられなかったってのもあるかもしれないけど。だけど結界に使っていた空間の切り離し、あれ防御にも使えるんじゃないかな? 使えるとしたら相手はどれだけ攻撃を受けようと時間経過の魔力消費だから、先にぼくたちの魔力が尽きるんじゃ? あと、あの英雄狩りさんは英雄ではない妖精を殺すつもりはないみたいだね。まあ、自分が追い込まれた時までその自分ルールを守ってくれるとは限らないけど……」ぼくも光の球を背にして状況分析してみる。

「じゃあ英雄狩りに勝てる英雄探してくる? 王宮に行けばいるよね? いなくても王様つれてくればいいし?」とリリオーネも光の球を背にしてしゃべった所で。

「いや、王様は王宮を守らないといけないし、連れてきてはだめだぞ?」と言ってジョンさんが、空中の見えない足場を駆け下りて話に入ってきた。

 それと同時に周りの光量がおさえられ、電撃の光の球を見てもまぶしくなくなる。

「英雄狩りを生け捕りにするから、妖精たちに攻撃をやめるように言ってくれないか?」ジョンさんが、困ったようにぼくを見て言う。

「妖精のみんな~~~! 英雄狩りを生け捕りにするそうだから、攻撃をやめて~~~! ジョンさんが来てくれたから、攻撃をやめて~~~! 今ぼくたちが英雄狩りを追い込んでいるように見えるのは、英雄狩りが英雄以外を殺すつもりがないから追い込んでいるように見えるだけだから! 英雄狩りの気が変わらないうちに、攻撃をやめて~~~!」ぼくは半径1キロメートルに自分の声を届けて相手の声も聞こえるようにする魔法で妖精たちを必死に止めようとすると、半径5メートルの光の球の中にすき間ができ始め妖精たちが周囲に広がっていく。

 周囲にいる妖精の数は2500匹ぐらい? まだ1000匹以上の妖精たちが電撃を放ち続けている。

「みんな! ダメよ! 英雄狩りはここで殺しておかないと! また仲間を殺しに来るわよ! 大丈夫! 妖精ダンゴの陣形なら、勝てる!勝てる!」すき間ができ始めていた半径5メートルの電撃で出来た光の球の中からのよくとおる妖精の声に、周りにいる妖精たちが電撃の中に戻り始める。

「ダメだってば! 外からの攻撃にびくともしない結界を、内側に回って壊したばかりだろ?十中八九じゅちゅうはっく英雄狩りはあれ使ってるから! ぼくたちが魔力切れになった所で出てきて、ぼくたちを虐殺ぎゃくさつできるから! 今、格上の英雄であるジョンさんが、英雄狩りを生け捕りにしてどうにかしてくれるから! みんな! 攻撃をやめて!」ぼくの言葉に大部分の妖精たちが英雄狩りから半径5メートルの位置から離れ遠巻きに見守っているが、10匹前後の妖精たちがまだ英雄狩りの結界に電撃を放っているのが見えるようになってきた。

「みんな! 今は休憩していていいから! だけど、魔力切れになった仲間が出たら交替こうたいするのよ! みんなで交替して攻撃を続けたら、時間経過の魔力消費だろうと1年も耐えられないから!」とオオムラサキの羽を持ったフェアリー、声から見てさっきからみんなを先導していたのはこのフェアリーだったようだ。

「ダメ! ダメだよ? キミってさっきから地下のルートを見つけて結界を解除するための仲間を連れてきてくれたりした子だよね? それは感謝してるけど、王宮につながっている交差点を1年間も封鎖するのはだめだからね! その1年間の内に、他の英雄狩りにあったらどうするの!」半径1キロメートルに声を届ける魔法ではなくただの真空でもしゃべれるマ●ドライブの声だけで、オオムラサキの羽を持ったフェアリーを説得する。

「しょうがないわね~~~。どうしてもやめてほしいなら、貸しかしだからね?」そう言いながら、電撃を放つのを止めこちらに飛んでくるオオムラサキの羽を持ったフェアリー。

「貸し? 甘いお菓子を用意すればいいんだよね?」

「あたし100年も前に花の蜜も甘いお菓子も卒業してるから……何か別の事で返して?」

「別の事と言われても、すぐに思いつかないんだけど?」

「あたしとアルヴィンの中じゃない! 気長に待ってあげるから! 心配しないで!」

了解りょうかい! でもそうか~。花の蜜を卒業しているフェアリーは、甘いお菓子も卒業している可能性があるんだよね。どうやってお返ししたらいいんだろう? それはそうとキミの名前って、ぼく聞いた事あったっけ?」

「聞かれた事ないけど、スミレだよ! フェアリーたくさんいるし、名前は無理に覚えなくていいよ!」

 話している間にジョンさんが英雄狩りのひそんでいる透明な結界に魔法で出した自動で巻き付くロープを巻いたのだが、その事によって結界は半径2メートルほどの円柱状だと言う事が解る、ロープのもう1つのはしはジョンさんが持ったままだ。

 妖精たちのあの陣形は、ぎちぎちに密集して電撃を放っていたようだ。

 英雄狩りの結界にジョンさんがロープを巻いても中にいる英雄狩りは全くあせっていなかったのが見えていたのだが、ロープが光り始めると状況が変わった。

 英雄狩りの空間の切り離しをしてあると思われる結界に巻き付いた光っているロープが、結界をしぼませたのか透過したのか、急に英雄狩りをぐるぐる巻きにして魔力を吸い上げロープのもう1つの端を持ったジョンさんが魔力を吸収する。

 ほとんど待つ事もなく英雄狩りは身体に魔力の層をまとえなくされて、無力化されてころぶ。

「え? 空間の切り離しをしているから、外側から何をやっても無駄なはずなんですけど? え? もしかしてあの英雄狩り、防御に空間の切り離しを使ってなかったんですか? え? そんな事ありえる?」ぼくは戸惑いながら、ジョンさんに疑問を投げかける。

「空間の切り離しはしてあったよ? でも、中の様子が見えただろ?」ジョンさんが英雄狩りから視線を外してぼくを見て問いかけてきたので、ぼくは英雄狩りを視界に入れながら答える。

「はい、見えてましたけど。それが何か?」

「あの英雄狩りがやった空間の切り離しは光をふくまない空間の切り離しで、私がしたのは光を含む空間の操作だったんだ。 つまり光で侵食しんしょくする事で、空間の支配権を奪って空間の切り離しを無効化したんだ」ジョンさんは、何でもない事のように言う。

「ああ~~~。英雄としての格の違いってやつですね」ぼくは英雄の力をそこまで使いこなせるようになるか、果てはてしない気持ちになった。

「さあ!そんな事よりドングリをしまって!」ジョンさんが、ニッコリ笑ってぼくを見ながら無茶をいってくる。

「あたしもコレクションの回収したいんだけど、すぐには無理じゃないかな?」フィリオーネが、交差点と周りの建物が外側に押し出された半径20メートルのドングリの広がる広場を見渡していった。

 ちなみにドングリをかたづけようとしているわけではない妖精たちが、自分のコレクションに入れるドングリを求めて広がっている。

「ほら! 英雄になっただろ? 今ここの空間を支配しているのは私だが、君たちが時間のすき間に入り込んでドングリを片付けるのを許可するから! やってごらん!」

 そのジョンさんの言葉で時間のすき間に入り込めたのは、フィリオーネだけだった。

 フィリオーネだけが時間のすき間に入り込み身体も瞳も動かせなくなった止まった時間の中で、フィリオーネがぼくの視界をビュンビュン通り過ぎるのとお互いの位置と心の状態を感知する魔法だけが、止まった時間の中でぼくに分かる事だった。

 お互いの心の状態を感知する魔法で顔の表情を見るように、フィリオーネの心の状態を観察する。

 どうやらフィリオーネは、『自分のドングリコレクションを誰にも渡さない!』と言う強い意志を持って時間のすき間に入り込んでいるようだ。

 英雄に空間を支配された時に空間を開くような魔法を使うときにも、空間を支配している英雄よりも強い意志が必要?ぽかったが強い意志が英雄の力を使うときの基本かもしれない。

 そんな観察を続けていると、すぐに時間がもと通りになった。

「終わったよ~~」とフィリオーネがにこやかにジョンさんに報告するのを聞いて、ぼくも周りを確認するがまだ合計10トン分ぐらいのドングリがんである。

「フィリオーネ?まだ残ってるよ?」

「残ってないよ?傷がついたのや割れたのを外周から内側にもってきて積んだから、片付いていないように見えるだけだよ!」

 確かにドングリに群がっていた妖精たちが1度ドングリの山に降り立って何かを確認した後、遠巻きにして悲しそうにしている。

「いや、こんなにどうすれば……」と言いながらジョンさんに視線を送ると。

「いらないならゴミ焼却場に持っていくよ? キミたちは王様との謁見があるんだろ?報告はしてあるからもう行っていいよ? 急ぐ必要はないけど、あまり待たせないようにね?」


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