そんなに泣かないで

東雲三日月

第1話

ーー泣かないでーー


 春が来て、私橋田茜はしだあかねは念願叶ってどうしても行きたいと思っていた共学の埼玉県立カクヨム高校に入学する。


 どうしても行きたいと思っていたのは、私の母の母校でもあり、見学に行った時の学校の雰囲気が凄く良かったというのも理由の一つであったけど、この学校の制服が凄く可愛いからだった。


 どうやら私立の高校でもないのに、有名デザイナーの人がデザインしてくれた制服らしく、それも、最近新しい制服に変わったばかりとのことでSNSでも話題沸騰になるほど………。


………こんな可愛い制服私も絶対着たい!


 それが本当の志望理由だった。


 ところが、この学校の偏差値は少しばかり私からしたら高くて………先生や親からは他の学校を受験する方が良いのでは無いかと散々言われてしまい、気付けば諦めモードに突入しようとしていた………。


「茜がその学校の受験諦めるの勿体ないよ!」


 そんなある日、諦めモード前回の私にそう声を掛けてくれたのは親友の津田麻衣つだまい


「そ、そうかな………でも、皆に無理だって言われてるんだよ」


「皆って誰のこと………無理とか言ってるのって担任の先生と親だけじゃん。  そもそも茜ってその高校行きたいって言ってるだけで普段勉強してるの?」


「そ、其れはその………まぁそれなりに………学校のワークとか提出物出したりしてるけど」


「それって勉強とか言わなく無い!  やるのが当然だからね。  茜ってさ、そもそも記憶力が良いんだから、もっと勉強頑張れればテストで良点数取れると思うんだよね」


「そ、そうかな…………えへへ」


「そうだよ!  この間、漢字の勉強会一緒にした日があったじゃん、その次の日がテストだったけど凄く良い点だったから茜の記憶力って凄いんだなって思ったんだよね、だからさ、次のテストで挽回して、先生と親に受験しても大丈夫って言ってもらえるように私と一緒に勉強会しない」


「麻衣ちゃんと一緒に勉強会!?」


「うん、そうだよ。  分かんないところがあったら私が全部教えてあげるね、そしたら茜の分からない所が分かるようになるし、私の勉強にもなるし一石二鳥、絶対に大丈夫じゃん。 私も埼玉県立カクヨム高校希望してるんだけど茜と一緒に通いたいって思ってるよ」


「ありがとう。  まだ諦めるのは早いよね!  私、麻衣ちゃんと一緒に勉強する」


 何だかやる気が全身からふつふつとみなぎってきた気がする。


 こうして埼玉県立カクヨム高校に入学したい私は、その日から麻衣ちゃんと一緒に毎日学校の放課後は図書室で勉強会をした。


 勿論、休みの日だからといって二人の勉強会にお休みなどはない。


 麻衣ちゃんが休んでる暇なんて無いんだからと言って、私の無勉強会は開催されて、図書館やお互いの家に行って朝から夕方迄、休み休み勉強をする。


 そのお陰もあって、次の私のテストでの点数は担任の先生も親も声を揃えて驚く程グンと上がって一気に良くなり、これならと志望する高校受験に賛成して貰えることに。


「麻衣ちゃん勉強教えてくれてありがとね、私、麻衣ちゃんのお陰で成績上がって受験できることになったよ。  だからこれ、お礼のお菓子、ここのお店のワッフル美味しいんだよ食べて!」


「やだなお礼なんて要らないのに、わざわざ買ってきてくれてんだね、ありがとう。 それに、テストで良い点取れたのは茜が頑張ったからだよ、ほら、よしよし」


 そう言って嬉しそうにワッフルを受け取ると、麻衣ちゃんは私の頭を撫で撫でしてくれる。


「………えへへ!」


 大好きな親友の麻衣ちゃんに褒められて何だかとても幸せを感じる。


 麻衣ちゃんの手が頭から離れるまでの間ニマニマが止まらなかった。


 こうして、私は志望高を受験することが出来、晴れて麻衣ちゃと一緒の高校に入学できたのだった。


そんな私達は、クラスも同じになり、今は部活の話をしている最中なのである。


この学校に入学したら一年生には帰宅部というのは無く、入学した生徒全員が部活に入ることになっていたのだ。


「ねえ、茜は何か気になる部活とかあるの?」


「うーん、特にこれってのは無いかな………でも運動部はちょっと苦手というか……」


「あっれー、茜って運動苦手だったっけ?」


「麻衣ちゃん、私は運動音痴だよ………えへへ」


「そうだっけか、あのね、私入学する前にこの学校の部活調べてたから知ってるんだけど、この学校には弓道部があるみたいなんだよね」


「弓道部………茜ちゃん興味あるの!?」


「うん………実はさ、私、中学生の頃親に連れられて市民体育館で弓道やったこがあってさ、それでちょっと興味持ったっていうの……だから、この学校にある弓道部がどんな感じか気になってるんだよね!  だからさ、折角だし茜も私と一緒に体験入部しに行かない?」


運動は苦手な私、ハッキリ運動音痴だと伝えたのに寄りによって弓道の体験入部を誘ってくる麻衣ちゃん。


「えええっ。どうしよう、私大丈夫かな………」


「へー気、へー気、全然大丈夫っしょ、そもそも体験入部なんだからさ、弓道出来なくて当然なんだし……ね、お願い!」


なんの根拠も無しに麻衣ちゃんは私に大丈夫だと弓道を推してくる。


「えええー、でも、でも………」


「お願いだよぉ、ほら、一人で行くのって勇気がいるんだよね、次は茜の興味持てたとこに私が一緒に付き合ってあげるからさ、ね、お願いだよぉ」


そう言って私の目の前で手を合わせる麻衣ちゃん。


親友からそんなことされたら断れないじゃないか!


とはいえ、そもそもこの学校に入れたのは麻衣ちゃんのお陰だし………入部する訳じゃなく、体験だもんね。  た・い・け・ん!  


「うん、良し分かったよ麻衣ちゃん、私麻衣ちゃんと一緒に弓道部の体験入部しに行くよ」


「本当ー!  わーぃ、嬉しい、ありがとう」


そう言ってぴょんぴょん飛び跳ね喜ぶ麻衣ちゃん。


麻衣ちゃんは経験したことがあるって言ってたけど、もう弓道部に入るつもりでいるのかな………もし麻衣ちゃんが入部決めても私はちょっと遠慮しとこう。


未だ体験してもいないのにそう強く思うと、運動音痴な私は不安な気持ちのままドキドキしながら麻衣ちゃんと体験入部向かうことに。



………その後、気付けば私が入部したのは弓道部だった。


その弓道部で私は運命の出会いをする。


その人は私の二つ年上の三年生の葉山貴俊はやまたかとし先輩。


私は葉山貴俊先輩に出会った瞬間、人生で一度も感じたことのなかった一目惚れをしだ。


 先輩は弓道部の部長でもあり、高校の弓道部入部体験で最初に私にレッスンをしてくれた人。


 元々弓道に興味があった訳では無く、少し経験のある親友の麻衣ちゃんの誘いでただ何となくお供のように付いていき、体験入部に参加しに来た私は全くの初心者で………。


 そんな私は運動神経が良くないこともあってか、初めての弓体験に不安が募りドキドキしてしまっていたのを覚えている。


 そんな私に手取り足取り丁寧に優しく教えてくれたのが葉山先輩でした。


 最初弓を渡され、その弓を持ってみただけなのに自分でも驚く程身体がガチガチに固まる私。


やばい、身体が動かない…………。


「ほらほら、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ!」


 そう言われても緊張の取れない私は、身体がガチガチのまま先輩から弓の持ち方を教えてもらう。


「大丈夫、自信もってもっとリラックスしてやってご覧!」


「はい、でも………私運動神経もセンス無いもので………」


「あははっなにそれ、そんなの初めてなんだから皆一緒だよ。  センスって………最初からそんなこと全然気にしなくて大丈夫だよ!  ほら僕が弓道のお手本をやってあげるから傍で見ててご覧」


 そう言って弓を構える姿勢をとる先輩は、袴を着ていることもあってかその姿は凛としていて凄くカッコよくて………傍で見てるだけで更に緊張してしまった私。


その後、構えの姿勢から的に向かって暫く集中すると、先輩が矢を放った瞬間ズバンと音がして…………ドキッとする私。


 そして、目の前に射った矢が的の真ん中に命中しているのを見て凄くカッコイイと感じた私は、単純かもしれないけど何故か「これなら自分にも出来そう、自分もやってみたい!」そう思わせてくれたのだ。


 それから体験入部で弓の持ち方 、構え方を葉山先輩から手取り足取り丁寧に教えてもらい、実際に弓を引いて、的を狙って射ってみると真ん中では無いものの命中していて………。


 その時、何だか心身が研ぎ澄まされていくような不思議な感覚を覚えた私は、この部活の明るさと、賑やかな雰囲気と、先輩の優しさが心地よくて、何故か入部を辞めた親友の麻衣ちゃんとは打って変わって私は入部を決意し入部することに。


 弓道部は人数が少ないこともあってか練習は男女合同でやる為、私は何時も葉山先輩から教えて貰っていたけれど、簡単そうに見えて実際はそうでは無く………。


 少しずつしか進まない練習に心が折れそうになる私は、良く辞めたいと言って先輩を困らせてしまっていた。


 気が付けば、入部して半年が過ぎ夏になる頃には、途中で辞めてしまう子が出てきてしまい、一年生の人数が半分に………そんな中で今まで練習してこれたのは葉山先輩とペアだったからかもしれない。


「大丈夫、無理しないで出来るところまでで大丈夫だからね」


 何時もそう言ってくれる葉山先輩に甘えさせて貰っていた。


 そのせいでかは良く分からないけど、同級生からは皮肉を言われることもあって、でも、そんな時は何時も先輩が庇ってくれて事なきを得て来たことも、私がこの部活を続けられた一因である。


 そんな先輩は弓道部の部長なだけでなく、県大会に出場する程の腕前でもあり、爽やかなイケメンで筋肉質の胸を半分抱けさせて弓を射る姿がビジュアル的にカッコイイのだろう………良く部活の練習中に見学に来る女子生徒が多くいた。


 そのせいで、私は部活内の同級生の女子や女子の先輩だけでなく、何時しか見学に来る子達からも、葉山先輩に優しくされているのを嫉妬されて反感を買い文句を言われ、仕舞いには虐めを受けるようになる。


 気付けば私と葉山先輩が付き合っているのだという間違った嘘の情報が影で噂になって広まり、何時しか部活内だけでなく、学校中の女子達の態度が冷たくなっていき、仕舞いには親友の麻衣ちゃんかも無視されるようになっていった。


「もうこんなの嫌だ!  もうこんなの耐えられない!」


 本当に心が折れそうになる頃、その噂を聞きつけた葉山先輩が私にその事実を確認して来た。


「ずっと気付かなくてごめん、女の子達から虐められてるって知ったんだけど其れは本当なの?」


「………」


「やっぱりそうなんだね」


「えっ………?」


「だってほら、目から涙がボロボロと………橋田さん泣いてるよ」


「………」


 暫く何も答えられずにいる私だったけど、身体は反応してしまい、気付けば涙がボロボロ流れ落ちている。


(あれ、あれれ、何で、何で私こんなに涙が………)


涙は自分では止められなく、どんどんどん溢れ出てくる。


「あ、あれれ、私どうしちゃったんだろ!  すみません、こ、これはその、何でもありません」


「馬鹿だな!  良いんだよそのままで、辛い思いさせてごめんね」


葉山先輩は頭を下げて私に謝ってきた。


「な、なんで葉山先輩が謝るんですか、葉山先輩は何も悪くありません………」


「気づかなかったことに原因があると思ってる。それに、守れなかったことも………」


「先輩はこのままで大丈夫ですよ!  私がこの部活を辞めればそれで解決すると思ってるので」


 皆は先輩を取られたくないのだから、私がこの部活を辞めればそれで解決するに違いないと思ったのだ。


「橋田茜ちゃん、茜ちゃんに非が見当たらないのに、辞めるなんて可笑しいと思うよ。  それにここまで弓道続けて来れたのに辞めるなんて勿体ないんじゃないかな」


「でも………」


 その後私はワンワン子供のように泣いた。


 どうしたらいいか自分でも良く分からなくなっていたから。


「ほら、もう泣かないで!   僕が皆に話すから、僕が君を守ってあげるから」


 そう言って葉山先輩は地べたに座り込んで泣いている私の頭を優しく撫でてくれた。


 それから先輩は部活の女子と、見学に来た女子達を集めると、こう言い放った。


「今日僕は色々と噂になっていた事実確認をして、橋田さんのことを知りました。皆には、何も非がない橋田さんに対してして今までしてきたことを謝罪して欲しいです。  それから、僕は今日から橋田さんと付き合うことになったので、もう、僕に付き纏うのは迷惑なので金輪際辞めてください!  今後、僕の彼女である橋田さんに何か危害が加えられた場合には、それなりの処分を受けてもらおうと思ってます」


 その言葉に驚く私………。


 だっていきなり彼女になっているんだもの。


 驚く私の耳元で「彼氏ってのはマジだから」って………。


 どんどん身体が火照り出して顔が赤くなる私。


 その後、先輩のお陰で虐めは無くなり、皆からの冷たい態度は無くなり、親友の麻衣ちゃんとも普通に会話ができる日常に戻れて、先輩の追っかけも無くなり毎日が平和に戻った気がする。


「あの、葉山先輩………本当に私なんかが彼女で良いんですか?  私なんかが彼女だと釣り合わないと思うんですけど………もしかして無理してませんか?」


 あれから一ヶ月が過ぎた頃、私は葉山先輩との帰り道に勇気を出して確認する。


「無理なんかしてないよ、僕は体験入部で茜ちゃんと知り合ってから、茜ちゃんに一目惚れしたんだもの。  大丈夫もっと自分に自信もって!  もう茜ちゃんを泣かせないからね、それと、葉山先輩じゃなくて二人の時は下の名前で呼んで欲しいかな…………」


 少し照れながらそう言った。


「ありがとう先輩………えっと、貴俊くん!」


 私が照れながら先輩の名前をうと、先輩の顔が近づいてきて一瞬のうちに唇を奪われた。


 何だか気持ち良い感触………。


 先輩は私のハートを射抜くのもカッコイイ。


 私はもう泣かないで頑張れそうです。


 これからも宜しくお願いします貴俊くん!



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そんなに泣かないで 東雲三日月 @taikorin

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