第7話 お姉ちゃんがミュアだけは絶対に守ってあげるから
〜リリィ視点〜
私とミュアは、ここから遠い、森の奥深くにある、猫耳族が住んでた里に暮らしていた。
私のお父様は、その里のトップだった。
ある日、お父様とお母様、そして私とミュアの4人で里周辺を散歩していた。
その時、盗賊に襲撃され、私とミュアが捕まってしまう。
「へぇ、コイツらは高く売れそうなんじゃないか?」
「あぁ。まだ成長途中だが、こっちの方が好きな奴もいるからな」
不敵な笑みを浮かべる盗賊たち。
「あ、そうそう。お前、この先に住んでる猫耳族の長をしてるんだってな?」
「そ、それがどうした」
「俺たち、その集落見つけちゃってさ。今から集落に住んでる奴らを皆殺しにしようと思ってたところだったんだよ。あ、売れそうな奴は生かす予定だけどな。でも、この2人をくれるって言うなら、集落を襲うのを辞めてやるよ」
お父様は盗賊の質問に対して…
「そうか。なら2人を差し出そう。だから、集落を襲撃しないでくれ」
迷わず即答した。
私はお父様の返答に絶句する。
(え……私たちを助けてくれないの?娘だよ?)
私は必死に目で伝えようとするが、お父様とお母様は私の顔を見てくれない。
「そうか、素晴らしい判断だ。その判断に免じて、集落を襲撃するのは辞めてやるよ」
盗賊はそう言うと、私たちを抱えてお父様たちの下から離れる。
「お父様!お母様!私たちを見捨てないで!」
「ウチ、お父様とお母様、お姉ちゃんと一緒に暮らしたいよ!」
「すまない!リリィ、ミュア!お前たち2人と里のみんなの命を比べると、お前たちを見捨てなければならない!」
「そ、そんな……」
「お父様……」
「へっ、素晴らしい親子愛じゃねぇか。ま、お前たちは親から捨てられたがな。これからは新しい主人の下で可愛がってもらいな」
「待って、お父様!お母様!」
私は攫われながら叫ぶも、お父様たちが顔を上げることはなかった。
その後、私たちは盗賊に抵抗を試みるが……
「お前たちはもうすぐ売られる運命なんだよ!」
「うっ!」
私はお腹を蹴られてうずくまる。
「お姉ちゃん!」
「おいおい、それは大事な商品になるんだ。丁重に扱えよ」
「そうだった。つい、頭に血が上ってしまって」
私たちがこの人たちから逃げる事はできないと思った。
「お姉ちゃん。これから、ウチらどうなるの?」
涙目となり、不安そうな顔でミュアが聞いてくる。
「大丈夫。お姉ちゃんがミュアだけは絶対に守ってあげるから」
この世界での奴隷の扱いはヒドイ。餓死しても主人の責任問題とはならないため、サンドバッグにする人、性奴隷にする人、さまざまな主人がいるが、どの人も共通して、奴隷への扱いは悪い。
「やっぱり、ウチらはお父様とお母様に捨てられたのかな?」
「仕方ないよ。お父様は長だから。でも……ぐす……娘である私たちの命の方が大事って言ってほしかった……」
私はお父様から言われた言葉を思い出し涙が溢れる。
「多分、私たちは捨てられた。もう、お父様たちのことは忘れよう。会える事はないと思うけど……」
「うん、そうだね。ウチらを捨てた里のことは忘れよう」
私たちは住んでいた里を、帰りたい故郷と思わなくなった。
「おい、さっさと立て。もうすぐでレオナルドっていう奴隷商人の家に着く。まずは奴からしっかり可愛がってもらうんだな」
「おいおい、それは無理な話だろ?アイツ、俺たちから買った奴隷の買い手が決まるまで、その奴隷で遊ぶって言ってたぜ。弱いものをいじめるの好きだからな」
「ははっ!違いねぇ!」
盗賊たちは笑い合う。
私は盗賊たちの会話を聞き、レオナルドという商人に対して、嫌な人というイメージが植え付けられる。
(その人に会いたくないけど、私がミュアの分の痛みを引き受ける。お姉ちゃんだから!)
私はそう決意して、レオナルドの屋敷へと向かう。
「着いたぞ。ここがお前たちの一時的な住処だ」
そこはものすごく大きな屋敷だった。
「おい、門番がいねぇ」
「ってことは、俺がレオナルドの奴を呼ばないといけねぇじゃねぇか。はぁ、めんど」
盗賊は大きな声でレオナルドを呼ぶ。
(せめて、ミュアだけは守らないと!)
私は震えながらレオナルドの到着を待つ。
すると、優しい顔をした男性と、胸の大きな美女が現れた。
男性が盗賊と話していると、突然…
「おい!お前ら!なんでこんなことするんだよ!」
男性が叫んだ。
(この人、盗賊の人攫いに対して怒ってる?)
私が想像していた奴隷商人と違うことに困惑する。
その後は冷静さを取り戻したのか、盗賊と取り引きを終え、私はレオナルドに引き取られた。
そして、男性はすごく優しい顔で…
「俺の名前は風早礼央。訳あってレオナルドを名乗ってる。君たちの名前は?」
そう聞かれた。
(あれ?この人、レオナルドじゃないんだ)
その後は驚きの連続だった。
一生縁のないものだと思っていたお風呂に入り、豪華な食事を提供され、街では服を買ってくれた。
(レオ様って、ものすごく優しい方だ。私たちのことを大事に思ってることが伝わってくる。それに、盗賊たちに怒っているところから、奴隷に否定的だと思う)
私たちは街での買い物が終わり、屋敷に戻ると、レオ様から呼ばれる。
そして…
「2人は奴隷となる運命から解放された。だから、2人には自由に生きてほしい。自分の家族の下に帰ってもよし、旅に出てもよし。旅費等は俺があげるか……ら……」
レオ様からそう言われ、私はレオ様から捨てられたと思った。
どうやらミュアもそう思ったようで、必死にレオ様から捨てられないようお願いする。
(私たちに故郷はあるけど、帰りたい故郷ではない。家族にも、今は会いたくない)
だから、行く当てのない私たちは、レオ様に捨てられないよう、必死にお願いする。
すると、突然、レオ様から抱きしめられる。
「ごめんな。俺の言葉が悪かったよ。俺は2人にここから出て行くという選択肢があることを伝えたかっただけだ。俺が2人を追い出したいとか、そんなこと思ってないから」
その言葉を聞いて、捨てられたわけではないことを理解する。
ただ、私たちにこれからの人生をどう過ごすか、選択肢を与えたかっただけのようだ。
(そういうことなら、私の選択は決まってる)
ミュアも私と同じことを考えているようだ。
「じゃあ、私たちはレオ様のそばにいてもよろしいのでしょうか?」
私の言葉にレオ様は困った表情をしながら…
「…………ま、まぁ、2人がこれからどうやって生きていくか、決めるまでだが……」
承諾してくれた。
私たちはその言葉を聞いて、嬉しくなり…
「これからよろしくお願いします!ご主人様!」
「よろしくお願いします!ご主人!」
元気にレオ様……いや、ご主人様に返事をした。
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