第2話 ダイエットしたとでも伝えたら、なんとかなると思うわ。

「風早礼央さん」


(俺の名前が呼ばれた気がする)


 そう思い、目を開ける。


 すると、現実世界とはかけ離れた景色が一面に広がっていた。


「な、なんだここは!?」


「ようやく目覚めたわね」


 俺はその声を聞いて、声がした方を向く。


 そこには金髪の髪を腰まで伸ばした美少女がいた。


「あの……ここはどこですか?」


「ここは死後の世界よ」


「死後の世界!?ってことは俺、死んだのか!?」


「えぇ、あなたは車に轢かれて死んだわ。轢かれそうになっていた女の子を助けてね」


 そう言われて思い出す。


(そ、そういえば、あの時、女の子が轢かれそうになってたから、慌てて助けようとしたんだ!)


「な、なぁ!俺が助けようとした女の子は無事なのか!?」


「えぇ、あなたが突き飛ばしたおかげで、女の子は無事よ」


「そうか。よかったよ」


 俺は一安心する。


「じゃあ、あなたは神様とか?」


「えぇ、そう思ってくれて構わないわ」


(なるほど、やっぱり神様か)


「とりあえず、女の子を助けて死んだことは理解した。でも、なんで俺はここにいるんだ?」


「それはね、あなたにお願いしたいことがあるからよ」


「お願い?」


「そう。あなたが地球で暮らしていた頃の生活を見させてもらったわ。人のために動くことのできる、優しい方。そう思ったわ。だから、あなたには地球とは違う、別の世界へと転生してもらうことにしたわ」


「は、はぁ。異世界に転生みたいな感じでしょうか?」


「えぇ、その通りよ。と言っても、今回は違うケースになるわ」


「違うケース?」


「えぇ、まずはこの人を見て」


 そう言いながら神様は水晶を取り出して、ある人物を映し出す。


 20代くらいで、いかにも悪者という顔の、太った男が見えた。全身金色のキラキラした服を着ており、アクセサリーもたくさん身につけている。


「こ、これはなかなか性格の悪そうな方が出てきましたね」


「えぇ、ホントに性格が悪いわ。コイツの名前はレオナルド•ザーク。奴隷商人をしてるわ」


 そう言って、神様はレオナルドの性格や悪行を教えてくれる。


 奴隷たちへ傷をつけない程度の暴行や、手に入れたい奴隷を見つけたら、盗賊等を使って集落を潰し、意図的に奴隷にする等々、聞いただけでイライラすることをたくさん言われた。


「処女の方が売れるから、性奴隷としては扱わなかったらしいけど」


「それにしてもやりすぎだな」


「えぇ。そして、ついにコイツは許容できる範囲を超えたため、消えてもらうことにしたわ」


「な、なるほど。神様ってそんな権限もあるんだな」


「そうね。地球では神隠しって形になってるわ。あれは、神様である私たちが、許容できる範囲を超えた人に対して消すために起こしてるものよ」


「へ、へぇ……知らなかった」


(じゃ、じゃあ、今まで神隠しに遭ってた人たちは何かしら、やってはいけないことをしてたってことか)


「それで、一度、コイツに消えてもらったわ。すると、その国に反乱が起こり、その反乱を引き金に各国がこの国に攻め入ったわ。それにより、収拾のつかない戦争が始まったの」


「なぜですか!?」


「根本的な原因は突然コイツが消えたことよ。国が抹殺し、死んだことを隠蔽したと思ったお得意さんたちが、反乱を起こしたわ。実際は本当に消えたんだけどね」


「な、なるほど。コイツ、それなりに有名人だったんだな」


「えぇ、だから神隠しという方法が使えなくなったの。そこで、消すはずだった所まで過去に戻って、消した後、誰かがコイツを装って生活する必要が出てきたわ」


「なるほど。つまり、俺にレオナルド•ザークとして生きてほしいということですね?」


「えぇ、話がはやくて助かるわ」


 ここまでの話を聞いて俺は考える。


(俺がコイツを装って大丈夫なのかはわからない。だが、これ以上、コイツによる被害をなくし、国が混乱に陥らないようにする必要がある!)


「わかった!引き受けよう!」


「あなたならそう言うと思ってたわ。じゃあ、さっそくアイツの前に転移するわ。あ、言語は問題ないようにしたから安心して」

 

 そう言って神様が指で“パチっ”と鳴らす。


 すると、一瞬で視界が変わり、目の前に水晶で見た男がいた。


「な、なんだね!?君たちは!?」


「私は神様よ。突然だけどレオナルド•ザーク。あなたには消えてもらうわ」


「神様?はっ、笑わせるな。どうやって目の前に現れたかは知らんが、本当に神様ならあり得ないことをしてみろよ」


「わかったわ。じゃあ、さよなら」


「へ?」


 そんな言葉を残して消えるレオナルド•ザーク。


 俺は一瞬で人が消えたことに驚く。


「えーっと……これでアイツは消えたのか?」


「えぇ、存在ごと消えたわ」


 あっけなく終了。


「じゃあ、今からあなたはここでアイツの代わりとして生活をしてもらうわ。体型とか色々変わってしまったけど、ダイエットしたとでも伝えたら、なんとかなると思うわ。幸い、あなたは20歳、この男も20歳だから問題ないわ」


(絶対なんとかならないレベルだと思うが……)


「じゃあ、あなたがレオナルド•ザークになるにあたって、スキルを授けるわ。この世界は15歳で成人するとされており、15歳になったと同時に一つだけスキルを授かることができるの。今回の場合、あなたは奴隷契約のスキルになるわ」


「アイツが持ってたスキルでないと、装うことはできないからな」


 俺が納得すると、神様は俺に近づいて、手を握る。


 すると、何やら身体の中から力が溢れてくるのを感じた。


「はい。これで完了よ。あ、早々に死んでしまうのは申し訳ないので、体を丈夫にしておいたわ」


「ありがとうございます」


 他にも、この世界のことやスキルのこと、昔のレオナルド•ザークのことを聞く。


「じゃあ、あとはお願いね。時々、様子を見に来るから」


「わかりました!」


 そう言って神様は消える。


(ふぅ、やるだけのことはやってみよう。どうせ1度死んだ命だ)


 そんなことを思いながら、俺は地下にある牢屋へと足を運ぶ。


 理由としては、今、地下牢に奴隷となれず、閉じ込められている女の子がいるからだ。


(それにしてもデカい屋敷だな)


 地下牢に向かっている途中だが、もうすでに3分は歩いている。


 なぜ、20歳の奴隷商人が大きな屋敷に住むことができるかと言うと、奴隷契約が行えるスキルはかなりレアらしく、そのスキルを得ると人生勝ち組が約束されるらしい。


(この世界じゃ奴隷にかなりの需要があるんだな。変な世界に来たものだ)


 そんなことを思いながらしばらく歩くと、一つの地下牢へと辿り着く。


「やぁ、君がルビアだね」


 そこには鎖で逃げ出さないようにされた、1人の女の子がいた。

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