第10章 異世界狩人の帰還
第53話 帰還する前に
依頼を受けた狩りの途中でイレギュラーなことが起きて、実質五体討伐という形になった。それでも達成したことは事実である。アルムス王国を含む数か国はそう判断し、報酬を贈ることを決定。現在、グロリーアのダイニングのテーブルの上に莫大な報酬が置かれている。溢れている。落ちそうだ。
「予想外だねこれ」
金貨。宝石。草や種などの香辛料。この世界だと高額で取り扱うものばかりのものだろう。正直依頼をこなした側としてはグロリーアから報酬を貰うだけで十分だった。ある程度価値を理解している唯一の男なので。因みに報酬は狩人の協会のお偉いさんに渡していた。戻ってきたら渡してくれという言付けをしていたとか。つまり最初からグルだった。戻ったら奴らに関節技でもお見舞いしてやろう。
「宝石の成分はそこまで変わらないっすね。微々たる差ぐらいかな。金貨は国によって、質が異なる感じっすね。純金じゃないから価値は低いかも。てかもうグロリーア達魔術師に渡せばいい的な発想でやってねえっすかね?」
黒い箱型の機械で成分を調べているソーニャがぶっきらぼうに言った。あまりにも邪推な発想ではと思うが……あり得そうなものなので否定出来ない。
「手紙でみんなに渡してって書いてた! やっばい! 僕のことを便利な犬と見てるかも!」
グロリーア、完全に開き直っている。ダメな方向なのがアウトである。
「この方、エリートですわよね?」
カエウダーラの台詞を聞いて改めて思う。確かにこの人は本当にエリートなのだろうかと。
「そのはずだけどねー……気質が割と残念というか。弄ってもいいや的な部分を醸し出しているというか。要するにヘタレだね」
「お別れの前とは思えない発言!」
しゃがんで魔法陣を書き込む作業に入ったグロリーアがシャウトしていいのだろうか。
「それに関しちゃドーカンっす。でもやっぱヘタレだと思うっすわ」
ソーニャよ。君はどっちの味方だ。
「どっちの味方なんだい!?」
ほら。グロリーアが突っ込みを入れてきたではないか。それにしても器用な男だ。喋りながら、難しそうな図をチョークで床に書いている。
「そう言えば……いつから僕はヘタレになってたんだろうな」
ふと思ったのか、グロリーアは問いかけてきた。正直それを私達に聞かれても困る。出会った時点でヘタレなのだから。
「知りませんわよ」
カエウダーラが即答した。いくら何でも早すぎる。
「早いな!? それもそうか。付き合いはそこまで長くないしね。君達とはあくまでも仕事でつるんだだけだ」
グロリーアの言った通り、付き合いは一年も経っていないだろう。下手したら半年も経っていないかもしれない。同行している時もあったが、離れて活動する時もあった。恋愛どころか友情すら生まれないものだろう。私はそれでいいと思う。
「それはお互い様だよ。仕事で来てるわけだし。結婚とかなら別のとこ行くし」
茶目っ気を出す為、珍しく自分でウインクをやってみた。久しぶりだが、出来ているのだろうか。結婚は話がややこしくなるので、相談所などの存在は伏せておいた。
「そういうものか。これで完成っと」
グロリーアは普通に納得していた。そして予想外に作業スピードが早く、魔法陣の書き込みが終わっていたようだ。畳んでいた足を伸ばし、身体全体も伸ばす仕草をしている。
「お疲れ様ですわ。ほら。お茶を入れましたから」
いつの間にか台所にいたカエウダーラがお茶を入れていた。温かいものを入れたカップをグロリーアに渡している。
「あー……ありがとう。ていうか珍しいね。君から」
自由奔放というか、やりたい放題だった彼女しか見ていなかった彼にとっては珍しいものだった。
「あっちだとご令嬢ですのよ。これぐらいは出来て当然ですわよ」
確かにお嬢様モードのカエウダーラは品行方正だ。気遣いも出来るし、見た目も良いとなると、異性にモテる。ただし狩人モードの彼女を見て、付き合いを止める輩ばかりだが。
「そっちも見せて欲しかったなー……すっごい今更だけど」
「パーティーでお見せしましたけど?」
「……」
この黙り具合である。グロリーアは完全に忘れていたみたいだ。
「ごほん」
咳払いで誤魔化すエリート。
「あと少しで君たちはここから離れていくわけだけど……やり残したことがあるなら今の内にやってくれ。神様とやり取りをしないといけないから」
やり残したこと。王都まで出向きたいところだが、時間はないだろう。テレッサ村で仲良くしてくれた人に挨拶する程度だろう。
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