第52話 消失と別れ
見えづらくなるぐらい、アルマの色が薄くなり始めていた。存在すら気付くことがなくなるのだろうか。
「そろそろか」
彼は何を言っているのだろう。
「別れの時が来たというわけですのね。その前にお聞きしても」
カエウダーラの台詞で感じた。本当にアルマは限界が来ていたのだ。だからこそ、力を振り絞って、話をしてくれていたのだ。ある程度、彼は話してくれていたはずだ。そのはずだが、カエウダーラが知りたいことは何だろうか。
「魂の強化が出来るというのなら、今も出来ていたはずですわよね。何故やらなかったのか。それを簡潔に教えてくださいませ」
魂に詳しい大魔術師であるアルマは定期的に魂を補強することぐらい出来る。そういった疑問をしても無理はないというものだ。
「それに何だかんだ薄々思っていたのではなくて? やっていたことが間違っていたと」
カエウダーラが追撃。反論ができないのか、アルマの視線が泳いでいる。
「見てきて変わらないってわけじゃないから。根本的にヒトだから」
そうだろうなと思いながら、アルマの話を聞く。
「時代は進みつつあった。あの時と同じで魔法技術が発達してきて、便利になってきた。だから魔力の有無で差別されるんじゃないか。虐げられる時代に入ってしまうのではないか。でもそうじゃなかった。一部の国はまだあるけど、少しずつ改善されつつある。そういうところも見てきたから、これでいいのかなって思うようになってたよ」
それなら少しは止めろ。そう言いたいが、これが正しいのだと思うところもあったのだろう。切り替えが上手く出来ていたら、滅びの獣を召喚しなかった。彼は大魔術師としてはエリートだったのだろう。そして優しい性格なのだろう。不器用なところもあったからこそ、アクセルを踏みっぱなしになってしまい、あの結末になったのだ。私はそう感じている。
「とりあえず色々な偉い方に叱られてくださいませ。えーっと」
我が相棒がため息を吐いた後、指で数える素振りをし始めた。何をする気だ。意図を読めないのか、アルマがぽかんとしているではないか。
「友に相談しなかったこと。後先を考えず暴走してしまったこと。大罪を犯したこと。他に手があったかどうかを考えなかったこと」
正論ばかりだと感じているのか、アルマは何も喋らない。
「そして上の者に殴り込まなかったこと」
「それは余計だったと思うよ!」
いつもの癖でつい突っ込んでしまった。物騒な発想というか、それは反逆行為に当てはまって、後先考えないことと大差ないものだと思うが。
「あっはっは」
アルマが笑いだす。肉体があったら、涙が出ていたぐらいのものだった。
「いや。ごめん。面白くてつい」
ホログラムに乱れが生まれる。消えるだろうと確信したアルマは手で涙を取る仕草をして、真剣な眼差しで私達を見る。
「そろそろ別れの時だね。神々の眷属の末裔さん。これは私の大敗北だよ。運も。力も。知恵も。全てに負けていた。それでもどうか忘れないで欲しい。死の世界に行く事無く、二度と生まれ変わることもない、哀れな罪人の私を」
別れの言葉を告げ、彼のホログラムが見えなくなってしまった。限界が来て、魂が消失したという表現が正確だろう。そう思いながらあることに気付く。最後の言葉を心の中で繰り返す。
「死の世界に行く事無く、二度と生まれ変わることもない、哀れな罪人の私を」
抽象的なものではない。この世界だとそのままの意味だろう。死の世界に行けない。つまりは誰にも叱られることがなく、消えてしまったことと同じだ。自分自身を哀れと表現した時の彼の顔は悲しそうにしていた。何故すぐに声をかけられなかったのだろう。
「ウォル、行きましょう」
「うん」
カエウダーラが静かに声をかけてきた。ここにいる理由はないし、立ち止まるわけにはいかない。グロリーアのところに帰還するため、歩き始める。
大魔術師アルマ。さようなら。ほんの少しだが、あなたと喋ることが出来て良かった。どれだけ後世の人々に伝えられるか不明だが、出来る限りのことはやってみようと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます