第35話 魔術師同士の喧嘩
今いる都は狭い。どこでやるのだろうかと疑問を持ちながらも、保険をかけた後、グロリーアとフルルに付いて行く。夜という時間なので道には人がいない。街灯があるとはいえ、雰囲気がやや暗めだ。その一方で建物から喋りの声が聞こえてきて、明るい雰囲気が出ている。団欒していると言ったところか。
「何処に行く気っすかね。ここ狭いから決闘しようにも」
「出ないとありませんわよ。流石に」
「だね」
数分程度歩いたら、本当に都の外に出てしまった。明かりは空のマニに近いものだけで、その下に草と木だけという自然そのものの世界だ。獣はいない。ひょっとしたら獣払いの結界ぐらいはやっているのだろう。
「さあて。この辺りなら問題ないだろう」
「ええ。久しぶりにやりますね」
周りの被害を考え、外に出たという形だろう。しかし万が一の事もある。彼らから離れた位置にいるべきだろう。そう思って歩きながら、私はひと言。
「最悪この二人気絶させよっか」
「賛成ですわね」
「何で物騒な方法しか提案しないんすか二人とも」
ソーニャからしたらよくない案かもしれないが、こういう酔っぱらい対処は大体気絶させていた方が楽なのだ。
「そういえば二人とも私より早くこっちに来てるんすよね。どうなんすか。魔法のバトルって」
実はあまり魔法と魔法のぶつかり合いというものを見た経験がない。強いて言うなら、パーティーの時ぐらいか。しかしあれは分かりづらかった。そもそも該当すべきかどうかも不明だ。
「さあね。魔法を使える人とやり合ったことはあるけど、お互いに使えるってなるとないかも」
「そうですわね。言われてみれば、見たことなかったですわ。そろそろ始まりますわね」
カエウダーラが言った通り、彼らの準備が終わった。ドーム状の緑色の透明のものが広がる。私達の前まで。指先で触れてみたが、ガラスのようにツルツルして固い。防御系の結界の魔法だ。
「一種の防御壁みたいなもんすね。物質がどういったものかが分からないからこれ以上の推測は無理っすけど」
様子を見てみると、両者の距離はかなりあるように思える。長距離だからかと考える。
「同じタイミングだ!」
両者の右手が前に出る。口を動かし、詠唱みたいなことを行っている。複数の光の球。そこから光線が発する。ぶつかり合って、どちらも怪我を負う様子はない。
「挨拶代わりのブローですわね」
「そうだね」
カエウダーラの言う通り、最初は簡単なものからやっているみたいだ。次からが本番だろう。グロリーアの傍に異変らしきものを目で捉える。何も無いところから火が生まれ、人に模したものを形成されていく。
「自然発火。いや。この位置からだとあり得ないっすね」
「ですわね。光が集まった位置は二人の中間地点ですもの。距離を考えると不自然でしょう」
科学的にはまずあり得ない現象らしい。そうなると考えられるものは一つだろうか。
「ひょっとして精霊魔法?」
「あり得ますわね。どういった感じかは全く分かりませんが、可能性としては十分にあり得ますわ」
二つ結びの女の子のようなものが出来上がっていた。それだけではない。いつの間にか姿の見えない者、一つに纏めたような女の子の水の人形、土で出来た太めの女の子の像も。簡単な物を使いながら、他のこともやっていたのかもしれない。
しかしそれはフルルも同様。両手で色々と何やかんやして、魔法陣をいくつもグロリーアの方に投げつけていた。その魔法陣から何かが出ている。最初はガスだと思っていたが、氷の風みたいなものだろう。それだけではない。地面から炎の柱だ。
「あらまあ。派手に行きますわね」
カエウダーラよ。それは派手ではなく、過激と言うのではないか? いくら何でもグロリーアでも無傷とはいかないだろう。そう予想していたのだが、これはいくら何でもないだろう。信じられない。何故グロリーアは無傷で平然としていられる。
「あり得ねえっすよ!? 明らかに無防備そのものだったじゃないっすか! 絶対何かあるって!」
ソーニャが叫ぶ気持ちが分かる。エルフの身体で耐えられるものではない。魔法という力があっても、身体能力などの差がないことを知っているからこそ、何故という気持ちが強くなっていく。
「おらああ!」
フルルの荒ぶる声が聞こえる。それが合図となったのか、白くて眩しい光の円柱が出てくる。
「魔法って詠唱とかその他諸々のステップを踏んで起こすはずなんすけど……雑っすね。いや。技量があるからこそ、ショートカット出来るが正確かもしれないっす」
ソーニャの考えがもし当たっていたとするなら、フルルはかなりの力量を持つことになる。連続で滅茶苦茶なものを撃つとなると、戦い慣れているのはグロリーアよりフルルの方になるか。
「あああ!?」
グロリーアの悲鳴。流石に対策が出来ていなかったか。形成するような音が聞こえる。勢いのある風の音と別の何か。グロリーアは手でコントロールをしている。
「くそったれ!」
グロリーアらしからぬ非常に汚い言葉である。それと同時に水が混ざった突風がフルルに襲い掛かる。大人でも吹き飛ぶクラスだ。しかも水の火力も相当だ。ひょっとしたらグロリーアは防御を捨てて、攻撃を仕掛けていたのかもしれない。それにしては代償が重い。致命傷にはなっていないが、傷だらけになっている。
「無茶苦茶ですわね。そしてフルルは端に吹っ飛ばされましたわね」
カエウダーラはフルルを見ている。私も彼女を見る。防御結界にぶつかったから、背中に打撃を受けているだろう。また前から水の打撃も受けているはずだ。外に血は出ないが、内出血ぐらい起きてそうだ。
フルルはゆっくりと起き上がりながら、何かを投げて詠唱する。グロリーアが地面に伏せた。まるで押されているかのようだ。重力操作の魔法だろう。ダスティンよりも更に簡略化している可能性が高い。
「くらいやがれ! ばーか!」
フルルの罵倒と共に上から鋭い刃がたくさん降っていく。これは流石にマズイだろう。酔っぱらっているからか、まともな判断が出来ていない。防御をしておくべき場面で、グロリーアはやっていない。土を操作して、フルルの足を固める。その後に何かをするつもりだ。
「何でノーガード戦法なんすか!?」
ソーニャが悲鳴に近い声で叫ぶ。これはヤバいなと思う。強制的に試合終了をするべきだろう。加減するかと思ったら、ノーガード戦法だった。保険として準備をしておいて正解だった。あとはどのタイミングで駆けつけてくるか。
「すみません。お待たせしました。喧嘩を止めます」
鎖鎧の若い男がやって来た。魔術師の喧嘩を止められる駐在騎士だ。
「いえ。こちらこそありがとうございます」
本当にいいタイミングで出てきた。彼は結界を簡単に解き、宙に魔法陣を描く。薄い桃色の霧が出てきて、その下にいる二人はバタリと倒れた。近づいて様子を確認したら、ぐっすりと寝ていた。
二人の傷を治癒魔法とやらで治して目が覚めた後、駐在騎士から説教をくらっていた。当たり前だ。何発も強力な魔法を使っていたら迷惑ものになる。それに防御を捨てて、攻撃だけというのもよろしくない。ここまで酒癖が悪いとなると、気を付けるべきなのかもしれない。
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