第24話 獅子のような滅びの獣 前半戦
到着して翌日の昼、最短パターンで獣が目覚めた。私達は予め準備されていた転移陣に魔法で移動。そこから整備されて灯りのある地下道を走っていく。単純な道のお陰で、迷いはない。
「出口あった!」
体感としては数秒程度しかかかっていない。左側の小道の先に小さい光の穴が見えたので、そこから様子を窺う。何があるのか分からない今、突っ込むのは危険だからだ。私達がいる位置はかなり高いらしく、並みのエルフェンなら着地して骨折するだろう。大きい穴みたいな感じで、下には獰猛な獣がいた。獅子と呼ばれるたてがみが特徴的なものだ。二本の尻尾。牙が大きく、噛まれたらひとたまりがない。爪も鋭く大きい。
「ターゲット確認、予定通り試すよ」
使い慣れている狙撃銃ウルル13からだ。銃弾は一般的なものを使う。流石に対人戦想定の弾だと火力不足だ。当たっているが、傷を付けることが出来ない。合計六発撃った後、着脱式のマガジンを取り換えする。合成獣キメラを想定したものを使う。背中の皮膚に当たり、出血している。
「対人戦の弾は使わない方がいいみたい。カエウダーラ、魔法銃の準備は」
「出来ていますわ」
カエウダーラは既にマスケットを座って構えていた。引き金を引いて、頭を狙って撃つ。音の大きさが段違いなので恐る恐る聞く。
「ねえ。カエウダーラ、使った魔法弾は」
「破壊系ですわね。火力があるものをぶつけた方が手っ取り早いですもの」
にこにこと答えてくれた。頭はいいが、脳筋思考だ。とはいえ、これは正しい。早めに仕留めておくに越した事はない。着弾したら恐らく脳みそがぐちゃぐちゃになってそうだ。
「バ火力でぶつける考えは相変わらずだね」
呆れながら魔法弾を見る。最初は勢いあったように思えるが、徐々に落ちていっている。射程距離が短いからかと思ったが、魔法銃の射程距離を考えると、問題なく届くはずだ。それにあの獣は少し元気になっているようにも見える。互いに目が合い、獣は口を開く。舌が見える。奥が見える。着火するようなものが増してきている。これは非常にマズイ。
「カエウダーラ、一旦後退!」
狙撃銃を持ち、素早く後ろに下がる。地下道付近にいるグロリーアとタファはこの行動に困惑している。
「おーい。何が起きたんだい?」
グロリーアの質問に答えようとした時だった。炎が上がってきた。私達が狙撃していた所まで届いている。
「なるほど。確かにこれは下がるね」
これで私が答える必要がなくなった。
「あとちょっといいかい? 気付いたことなんだけど」
「何」
「周辺のマナが無くなっている」
地面や空中の魔力が無くなっているらしい。夜に言っていた魔力を喰うという最悪なパターンだ。
「マジで? ってことは魔法弾の勢いがなくなったのも」
「ああ。少ない量だが、魔力を喰ってた可能性が高い」
魔法という物が通用しない。魔法弾も例外ではなかったみたいだ。
「恐らく神々が君たちを指名したのもそういうことだろうね。最悪僕達の魔力も持ってかれて絶命する」
今とんでもないことを言いやがった。絶命する。心臓や脳などにやられているわけでもないのに。とはいえ、昨夜に魔術師の家系が滅んだ云々があるので、可能性はなくもなかった。察してくれたグロリーアが説明し続ける。
「夜の解説をもう少し追加だ。微々たる魔力量なら問題ないさ。けど膨大な魔力を持ってると、ショック現象みたいなのが起きるんだよ。究極魔法というものを使い、細枝のような見た目で絶命した魔術師の記録もあるわけだしね」
大量出血で起こるショック死みたいなものらしい。私達にとって縁のないものだが。
「恐らく近接戦で使う武器の付与程度なら問題ないはずだよ。少量しか魔力がないものだからね」
魔力を食べる量で変わるらしいのか、付与程度なら問題ないらしい。だが魔法銃は撃つもので回数を重ねていく。今回の狩りにはいらないものだ。
「……魔法銃の管理をお願いしますわ」
カエウダーラが自己判断で魔法銃を片手で放り投げる。タファが慌てて受け取る。ついでに使う事がなくなった魔法弾も投げておく。頑丈なケースに入れているので問題ないだろう。
「ま。どっちにしろ。そういう問題は私達にとって問題ないですわね」
「だね」
魔力を喰う。魔術師にとって厄介なものだろう。しかし元々私達は科学技術の結晶というか、大戦争の副産物で獣を狩って来た。狙撃銃。レーザー銃とレーザーソード。やたらと頑丈で切り裂けるナイフ。合成獣キメラよりかなり厄介ではあるが、大した問題ではない。全力で狩るだけだ。
「いくらバケモノだからといって、所詮は獣でしかない」
手早く接近戦の準備を行う。両脇にホルスター。背中に狙撃銃。腰のポーチに拳銃用と狙撃銃のマガジン数個を入れる。カエウダーラは狙撃用のレーザー銃を背負う。歩きながら狙う所を言っていく。
「だからまず足を削ぎ、移動を封じるよ。その後は喉を潰して、脳と内臓を狙う」
「分かりましたわ」
まだ一体目だ。油断せずに行こう。
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