第10話 ゆっくりする予定が
ゾンビ化したツインヘッド・ドラゴンを討伐した翌日。仕事をいくつもこなしていたため、ゆっくりとする日のはずだった。雲があるが、晴れている空の下。白い線で引かれた村外れの原っぱ。冒険者ギルド所有の敷地の一つらしい。
「えー。これより模擬戦を行います。一つ。武器と魔法の使用禁止。二つ。場外から出た、あるいは地に背中が着いた場合は負けとする。以上でよろしいでしょうか」
そこで何故か早速カエウダーラとレナルドが模擬戦を行うのだ。疲労感は全くないが、普通はやらないだろう。レナルドもバトルジャンキーの類だったのか。あと、どうやって今朝に試合会場を確保したのだろうか。
「両者承諾とみなします。それでは……開始!」
ほぼやけくそな自分の合図で模擬試合が始まる。戦場と化すので素早く場外に移動する。のんびりと過ごせるようなところだというのに暑苦しい戦いが始まった。ため息を吐きたい。
「おらあ!」
「はあ!」
カエウダーラは拳とかを扱う流儀なんてものを習得していない。レナルドも同じようなものだと聞いている。ただの喧嘩みたいになるがいいのだろうかという疑問を持つのだが、二人とも気にしていない。殴り合い。避けるとかそういう発想がないみたいだ。くらったら倒れるような殴りだ。短時間でケリが付くだろう。
「はぁ」
そう思っていた。体感として三十分経過。二人ともまだ立っていた。へばってすらいない。勘弁してほしい。
「やりますわね」
「そりゃ鍛えてるからな」
互いに称えるような光景。競技ものなら素晴らしいものだ。そもそもこの世界にそういった文化があるのかさっぱりだが、とりあえずさっさと決着つけて欲しい。こちらの気持ちを考えて欲しい。
「おーいたいた。レミィちゃんの言った通りだ」
もうやだと思い始めた時、ダスティンが来た。レミィちゃんは確か事務員の人だったはずだ。場違いな彼がここに来た目的と絡む可能性が高いだろう。
「えーっと。何しにここに」
「それを話す前に」
ダスティンは黒い鉄球のようなものを戦場に投げた。明らかに魔法を使う奴だ。
「デプロイメント、グラヴィティゾーン。レベルアップ。フェイズフォー」
魔法の呪文の後、試合をしていた二人がひれ伏せた形になった。一定の範囲でしか発動しないのか、私には何も感じない。
「おっも!? このおお!」
レナルドが気合でどうにか立ち上がろうとしている。根性が凄い。カエウダーラは特に抵抗する気配がない。これに関してはすぐ分かった。呪文は何故か共通語で訳されている。意味として重力範囲展開、四まで段階上げを行う。そういうものだろう。
「待ちなさい。レナルド。これ重力操作ですわよ! そう簡単に対応が出来る代物ではないですわ!」
ビンゴだった。重力操作。物理学等が必須なはずだ。言葉だけで変化させることが出来るものなのか。そういう疑問を持ってしまうが、私が知らないだけで事前に準備をするものがあったりするのかもしれない。
「重力の意味はさっぱりだけど、お前がそう言うのなら間違いないな」
レナルドが諦めた。重力のことはさっぱりらしいが、カエウダーラの発言で判断したのだ。強いと認めているから、そうなのだろうという感じなのだろう。
「で。ダスティン、あなた何の用で邪魔しに来たのですの?」
我が相棒よ。そのままの体勢で聞く気か。シュールだと思うが、話が別の方に行ってしまいそうなので、敢えて言わないでおこう。
「テレッサ村の貴族、ペイリャル家からパーティーの誘いが来た」
ダスティンは招待状の封筒を見せつける。物好きが定期的に行うものなのか。そう思ったのだが、レナルドの反応を見る限り、違うだろう。
「この時期にパーティーっておかしくないか?」
「どういうことですの」
「あ。そっか。知らないのか。ペイリャル家がパーティーを行う時期は決まってるんだ。葉っぱが赤くなる、秋の時期に周りの村の貴族を招待するって感じの。今はまだ暑くなる前の時期だ。やった前例がないんだ。何かあると考えてもいいだろ」
貴族絡みの何か。庶民の私にとって、あまりにも遠い世界の話だ。それでも縁のなさそうなレナルドが不審に思っている時点で怪しい。
「かと言ってね。応じないわけにはいかないでしょ。警戒をしながら参加するしかないね」
そういうわけで折角の休みを返上。私達は貴族のペイリャル家のパーティーにお邪魔する事になったのだ。夕方からなので、間に合うようにドレスを確保する。ダスティンのツテで集めたものをギルドで試着した。お腹に圧迫感がある。髪飾りが重い。普通の格好ではだめなのか。ダメなのだろう。
「おー」
男性陣が感嘆の声を出している。気楽な恰好でいいという救いの言葉を誰一人も言ってくれない。
「これはちょっとキツイですわね」
カエウダーラですらキツイらしいが、我慢することを選択したみたいだ。私も我慢しておこう。
「ところで作法とか大丈夫ですの? この辺りのこと、全然知りませんわよ」
貴族となると作法が大事だと聞いたことがある。世界が異なっていても、変わらないはずだ。しかし異なる部分もあると思って、レナルドとダスティンに聞いたのだろう。ダスティンが答える。
「国の役人と接するわけじゃないんだ。気負う必要はないよ」
気楽に望んでも問題ないらしい。それだけでホッとする。本で読んだボディガードのように警戒をするだけでいい。身分とか性別とか知ったこっちゃない。
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