第9話 ゾンビ化したドラゴン
喋りながら腹ごしらえを行った後、どこかに行っていた緑色の鳥が森の案内人であるフランクの肩に戻って来た。
「そろそろ来るって。数に変化ないよ」
ここからだ。ここからゾンビ化したツインヘッド・ドラゴンを狩っていく時間になるのだ。
「よし。狩りの時間だ。最初に地上戦に持ち込むぞ」
「ちょっとお待ちを。前衛で最適な人がおりますわよ」
私のことか。きっと私のことを推薦つもりなんだろうなと察した。経験で分かってしまうのだ。こういう時、大体カエウダーラは私を推す。
「ほお。誰が最適だと言うのか、教えてくれ」
「ウォルファですわ」
やっぱりそうだった。
「魔法を使わずとも飛べますの。ダスティンの負担が少なく済むのも大きいですわ」
確かに私は空を飛べる。天地を駆ける種族とも言える者だ。しかしおとぎ話扱いである現状、信じてもらえる保証はない。大丈夫かという不安がある。
「空と大地を駆けたという話は本当だということか。分かった。あとは私とレナルドも前衛を務めよう。ダスティンは補助に回れ」
普通に信じていた。どういった話かはさっぱりだが、特徴ぐらいは物語に書いていたのだろう。
「フランクは周囲の警戒を当たれ。カエウは狙撃を頼む。これを使え」
キャサリンが大きい荷物の袋からマスケットを出した。白い。そして私達が想像するような太さではない。
「これは……ただのマスケットではありませんわね」
受け取ったカエウダーラが冷や汗をかいている。相当な代物のはずだ。
「その通りだ。デストロイアという名の魔弾を撃つために作られた代物だからな」
仕組みはさっぱりだが、高火力となると、筒などを頑丈にする必要があるのかもしれない。
「ま。今回は違うものだがな。浄化用のものを使う。お前たちが持つ物と違って、特別性だからな。弾は四個しかない」
浄化用の弾でも特殊なものなのか、かなり数が少ない。カエウダーラは縦に頷く。どれだけ初めて使うものでも、一発で仕留められるはずだ。
「分かりました」
「よし。行くぞ。狩りの時間だ!」
上空に骨だけのドラゴンが出現した。いや。通りかかったが正確だろう。とにかく見え始めた。私は一足先に飛んでいく。感覚は大して変わらない。蹴って。蹴って。上に行く。空も大地も、やることは変わらない。
「うっわ。改めて見るとでっか」
対面する。皮がなく、肉がない。骨だけの二つ頭のドラゴン。博物館でありそうな、確か骨格標本だったか。それに似ている。しかし動いているため、迫力が桁違いだ。ちびっこが見たら確実に泣く。
「おっとあぶな」
右にいる一体の口が大きく開いたと思ったら、明るい紫の光弾のようなものが出てきた。反射的に避けられるが、もしくらったらどうなるのだろうか。地に落ちるだけでは済まされない。死ぬ。思ったよりも素早くないため、余裕を持って避けることが出来る。それだけでマシだ。
「待たせた」
ここでキャサリンとレナルドがやって来た。前衛はこれで揃った。自分の仕事を果たすだけだ。
「それじゃ行くぜ!」
レナルドが二体のドラゴンに突っ込む。二体の注目を寄せ付けていく形だろう。前足による攻撃を避けながら、対応している。その隙に私達はドラゴンの上に行く。全力の蹴りで地上に落とす。かなりの高さなのでもう一発を加えておく。思ったよりも重く、役割遂行が出来るのか疑わしい。何か他にもやるべきかと思った時だった。
「クリエイト! ドラゴニックチェイン!」
ダスティンの声が微かに聞こえた。それと同時に鎖のようなものがツインヘッド・ドラゴンを巻き付いていく。傷を与えられないだけで、魔法による拘束は問題なく効くようだ。というよりかは特殊なものだと捉えた方がいいかもしれない。レナルドの反応からして、間違いないだろう。
「流石だぜ!」
少しずつ引きずっていくようだが、これだけでは足りない。
「ダブルウィンドスラッシュ!」
レナルドの二刀流。同じタイミングで切り裂いていく形だが、風も発生している。魔法剣士という名の通り、魔法と剣術を合わせたものを扱えるみたいだ。本来は小さな傷すら付けられないが、物理的に落とすだけだから関係ない。実際押している。
「ウォルファ、もう一度行くぞ!」
「うん!」
さっきと同じように蹴りを入れる。更に落ちていく。それに鎖がより強力になっている。これはどういうことなのだろう。いや。今は気にする場合ではない。
「よし、次の段階に行くぞ!」
キャサリンのその言葉で安全圏にいるカエウダーラの元に行く。既にドラゴンは地上にいた。鎖による縛りがどれだけ強いかが分かる。それでも限界がある。いつまで保つか。
「そろそろ撃って良いぞ!」
「了解しましたわ!」
私達はカエウダーラのところに着いた。キャサリンの指示を聞いたカエウダーラは引き金を引く。鋭い爪で黒板を引っかくような不快な音が一瞬だけ聞こえ、銃口から銃弾とは思
えない異質なものが飛び出してきた。着弾はばっちりだ。狙い通りにドラゴンの骨に当たる。
「眩し!」
白い光がドラゴンを包みこむ。あまりの眩しさに目をつぶってしまう。それでもほんの数秒だけだ。すぐ開けることが出来たが、驚きの光景を見た。粉々になっている。たったの一発でこれだけの威力。恐ろしい。
「完了しましたわ。本当に凄まじいですわね」
本当にそうだ。絶対希少性が高いものだ。キャサリンは当たり前だと言わんばかりの顔をする。
「当たり前だ。金貨3枚で頼んだ代物だからな」
べらぼうに高いものだった。
「消失確認。周囲に異常なしです。腕の良い王都の職人が手掛けてるから妥当なんですよね。実は」
フランクがさらりと報告しながら、ついでに教えてくれた。強い獲物を狩ろうとすると、コストがキツイのは世界共通なのかもしれない。
「そういうことだ。フランク、周囲の警戒ご苦労だった。あとは報告して帰るぞ。油断するなよ。ギルドに戻るまでが仕事だ」
帰還して報告出来なかったら意味がないので、帰りも油断せずに森の中を通っていく。戦った後とは思えないぐらい、とても静かなものだった。耳と目を駆使して、周囲の警戒をしていたのだが、危険な時が一切なかったぐらいだ。
「ただいま戻りました」
そういうこともあってか、無傷でギルドに帰ることが出来た。女性事務員が出迎えてくれた。夜でも遅い時間帯なのか、冒険者の人はいない。事務員たちが静かに片付けを始めている最中だった。
「おかえりなさい。どうでしたか」
「ああ。問題なく」
硝子の小瓶に小さい粉。戻る前、キャサリンが回収したものだ。
「鑑定します。少々お待ちください。アリサは森の番人に連絡を」
確認は大事ということなのか、かなり丁寧である。私達がやれることはもうない。待つだけだ。
「お疲れ様でした」
十数分程度、ようやく討伐完了が認められた。報酬は銀貨13枚。夜遅い時間となったため、報酬を受け取って静かに解散である。
「機会があったら模擬戦やろーな!」
「ええ。ぜひ!」
訂正する。レナルドの時は普通に騒がしかった。残っているのは私達二人とダスティン、ギルドの事務員だけとなる。
「お疲れ様でした。シルバーランクの昇格等については後日報せますのでお待ちください」
報酬を受け取った時点ではまだ分からないらしい。とりあえず仕事が終わったし、待つしかないだろう。
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