第2章 シルバーランクに至る道
第6話 昇格テストを兼ねた仕事
ここに来てから1週間経った。計画は順調に進んでいると思う。仕事をこなしていくことで信頼を築き上げており、あと1回の達成でシルバーランクに上がる。外の国に移動しやすくなるので、気合を入れたくなるものだ。そう思って仕事を選ぼうとしたのだが、事務員が私達の仕事を決めてしまった。まだ拒否できる段階らしいが。
「あれ。自分達で決められないんですか?」
と聞いてみた。
「はい。申し訳ありませんが、シルバーランク昇格を目指しているのですよね」
「まあそうですけど」
「昇格前提となると審査員が必要です。過去に問題を引き起こして、危うく戦争になってしまった事例がありましたので、大丈夫かどうかの判断が必須です。そのあとに昇格申請を行うという形なんですよ」
「あー……そういうことですか」
強いか弱いか。仕事が出来るかどうか。そういった指標も多少はあるだろう。どちらかというと他者とやり取りが出来るのか。立場を考えて行動できるのかどうか。この辺りが大事なのだ。今更気付いた。
「仕方ありませんわね。それでどういった内容で」
カエウダーラはお嬢様ということもあり、行動次第で国への影響が響くことを知っている。納得して切り替えてくれている。
「ゾンビ化したツインヘッド・ドラゴンの討伐です」
ドラゴンは魔力を持つ獣、魔獣の中でも最強とも謳われるものだ。それはグロリーアから教わっている。ただゾンビとは一体何だろう。
「ゾンビ?」
思わず口に出してしまったが、カエウダーラの声と重なっていた。
「はい。死体のままですので、見た目は骨だけとなっております。放置しても問題ないのですが、村に悪影響を及ぼす可能性がありましたので、急遽作成しました。あと、お二方には関係ないのですが……ほとんどの一般的な魔法が通用しないので厄介です。浄化魔法が必須ですね。周辺環境の影響を考えますと」
浄化魔法とやらだけが通用するらしい。
「要は物理で叩けば問題ないとおっしゃるのですね?」
カエウダーラが脳筋思考で発言した。事務員はどう答えるのだろうか。
「はい。その通りです。あと浄化用の魔法銃の弾があれば」
一部肯定をした。グロリーアの家にある本を思い出す。骨だけとなると、博物館の展示場のような、骨で組み上げたものなのだろう。叩くと粉々になる想像をしたが、そう簡単にはいかないはずだ。浄化用の魔法の弾がいることを頭に入れておく。
「ですが空を飛びます。強い魔獣を倒してるあなた達でも難しいでしょう。二体もいるからなおさらです」
後ろから歩く音。誰かが近づいてくる。
「エリート魔術師の出番というわけだ」
とてつもなくうさん臭さを思わせる男の声が聞こえてきた。
「紹介します。こちらが自称エリート魔術師のダスティンさん、今回の審査員としての役目もあります」
「いやー酷くないそれ」
さらりと事務員が紹介してくれた。世話になるみたいなので、後ろを見てみる。顔の彫りが深い、黒髪黒目のニンゲンの男。つばが広く、高い帽子を被っている。革で出来た服とブーツ。洒落てはいると思うが、警戒してしまうのは職業柄だろう。悲しいことに。あと、太い眉も特徴的だろうか。
「そりゃグロリーアより低い位置にいるけどさ」
苦笑いをしながら言っている。ダスティンという男がエリートかどうかは不明だが、ある程度の地位にいるかもしれない。
「初めまして。審査員として見させていただくことになったダスティンと申します。よろしくお願いします」
「ご丁寧にありがとうございます。私はカエウダーラと申します」
流石はお嬢様である。丁寧に返している。……感心している場合ではなかった。
「ウォルファです。よろしくお願いします」
「ああ。こちらこそ。新入りとしては相当腕が立つという話を聞いてるよ。楽しみにしてる」
ダスティンの目が細くなる。期待の目ではない。見定めている目だ。この時点から審査が始まっているのだ。
「ダスティンさん、プレッシャーを与えないでください。まだ彼女達が受けるとひと言も言ってませんから」
事務員はそう言いながら笑っているが、目が笑っていないように思える。並みの人ならここで怯えるかもしれないが、ダスティンはあまり気にしていないようだった。
「いや。受けるよ。だってグロリーアが抜擢した人材なんだ。あれぐらいでビビるような人じゃないさ」
グロリーア本人がいたら、悲鳴をあげていたかもしれない。それはそれとして、こちらから答える必要があるだろう。
「その仕事、やります」
シンプルな言い方だがこれでいい。私達は依頼でかつての先祖がいた世界にやって来たのだ。達成するために必要なことだから、躊躇なんていうものは一切ない。
「分かりました。討伐メンバーが集まり次第、こちらから連絡をします。集合場所はここです。その間に出来る限り、準備等を行ってください」
かなり大仕事なので普段以上に準備をした。武器屋に行ったり、傷薬の補充を行ったりもした。グロリーアへの報告も済んでいる。あれでも上司なのだ。やっておかないといけない。
「あーダスティンか。なーんでプレッシャーかけるのかな彼奴は!」
さらりとダスティンのことを話すと、グロリーアは嫌そうな顔になっていた。期待の目で見られるのが嫌なのか。その割にやり遂げてしまうから、余計に悪化しているのではないか。そう思うのだが口には出さないでおこう。
「ま。気を付けて行ってきて。いつも以上に見られていることを頭の中に入れながら、他の人と協力するんだ」
集団での狩りは慣れている。しかし魔法という空想のものがあるここでは私達の常識が通用するとも限らない。いつも以上に慎重に動くべきだろう。
「分かった。気を付けるよ」
招集が終わり次第、仕事に向かう。飛ぶ獲物はいくらでもあった。しかしそのターゲットとなるものは知らないものだ。正直カエウダーラといるので不安は特にない。油断せずに、挑んでいこう。
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