第5話 冒険者として初めてのお仕事
冒険者ギルドにやって来た。グロリーアが言うには掲示板に貼ってある紙を取って、事務員に渡し、仕事を遂行する流れのようだ。解釈として、冒険者は個人事業者扱いであり、面倒な手続き等を支援するのが事務員である。そういう形だ。
「予想しておりましたが」
「うん」
ここで問題発生である。
「読めないね」
「ですわね」
文字が読めない。グロリーアに頼るしかない。
「短期間で業績を上げないといけないとなると……難しいねぇ」
彼は困ったように笑う。指名どうこうは歴と功績がないと来ないところは変わらない。ちまちまとやっていくしかないだろう。
「効率が良いのはこれなんだけど、違反者を捕らえる任務なんだよね。人と戦闘することになるけど……別のにするかい?」
「大丈夫。私達の代だと未登録とか禁止のを狩ってる密猟者とかを捕らえるのも仕事になっちゃってるから」
本当のことだ。大戦争で生まれた獣であるキメラを狩る仕事以外にも、狩人の未登録者や禁止された動物を狩る密猟者を取り締まるのも仕事として振られるようになった。警察の仕事だろと突っ込みたいが、彼奴らは森や海など自然の戦場に慣れているわけではない。しょうがないところだ。
「そうか。それじゃ。手続きしていこうか」
グロリーアが依頼任務の手続きをしてくれた後、私達は村から出発した。今頃知ったが、テレッサ村という名前だった。北にある森に向かっていく。
「北にあるノース・テレッサの森には水晶を食べる熊、ベアークオーツが生息している。かなり希少種で売ると高価格だ。魔法で人が入らないようにしているが、たまに掻い潜る時があるんだよね」
とグロリーアの解説を聞きながら、森の入り口にいる人に、入る許可を貰う。魔法を使う人が察知して、人に知らせる仕組みなのだろう。
「頼みました」
フードのせいで顔が見えていないが、必死にお願いしていることが分かる。早速森の中に入っていく。小鳥達がさえずっており、平和な森と言った感じだ。
「周辺にはいないみたい。奥に進むしかないね」
「空から見えますかしら」
「ちょっとやってみる」
重い荷物をカエウダーラに渡し、木々の太い枝を足場にして、飛んでいく。上には青い空、見事な晴天だ。下は木々で覆われていて、見通す事が出来ないだろう。地道に探していくしかない。そう判断した私は地上に下りていく。
「おかえりなさい。どうかしら」
「いや。あれだと見えない」
「地道に探すしかないということですわね」
「そうなるね」
カエウダーラと軽く話す。その後は捜索しながら、奥に進んで行く。
「で。グロリーア、ベアークオーツはどういう獣ですの。水晶を食べる以外、何も聞いておりませんわよ」
出来る限り情報を得ていく。私達は何も知らない。グロリーアから聞いておくべきなのだ。
「毛をよく見るとね。水晶みたいに透明でキラキラしてるんだよね。なのに自然に遂げこんでいる。素晴らしいものさ。他の熊と違って、襲うなんてことはしない。とはいえ、子供を育てる時期になると、荒々しくなるみたいだけどね」
獣あるあるだ。子育て時期になると、めちゃくちゃ攻撃的になるあれである。経験が浅い時に何度かやらかした。
「今は子育ての時期?」
「いや。違うかな」
危険なタイミングではないようだ。密猟者もその辺りは把握しているだろう。問題は奴らをどう早く見つけるのかだ。出来るだけ数を抑えておきたい。
「いつものあれ、使います?」
「だね。操作よろしく」
グロリーアが置いてけぼりになっているが気にしない。カメラ搭載の手のひらサイズのドローンと画面搭載のコントローラー。動く範囲に限界があったりするものの、世界が異なっても使える。テストをして驚いたことである。
「気を付けますわね」
ただし誰も直せない代物だ。慎重にやっていく。見つけたらすぐに捕まえる必要があるため、私達も移動していく形だ。歩きづらいところが少ないだけマシだろう。
「いましたわね」
頭に細い木の枝をつけており、服の全身に葉っぱや土を付けている瘦せ型の男5人が画面に映っていた。手慣れている。何度も密漁をしているかもしれない。
「ドローンは見えますの?」
「うん。見えてる。それじゃ行ってくる」
すぐに奴らのところに行く。音を立てずに枝から枝へ飛び移る。移動時間はそこまでかからない。ドローンがあるところまで到着する。
「ベアークオーツは見つかったか」
「いや。まだだ」
様子を窺うと、密猟者は探すのに夢中だった。マスケットを背負っている以外、武器を持っていない。静かに下りて奇襲を仕掛ける。出っ歯の男を後ろから手刀で首にトンとやっておく。
「おい!? お前ら、がはっ」
次は腹に拳を入れる。流石に二人も仕留めるとバレる。どう出るか分からないため、一旦距離を取っておく。
「奇妙な恰好だが相手は女だ! 問題なくやれる!」
大声で言っている一人の足が震えている。マスケットを持っても構える仕草がない。攻めるタイミングは間違いなくここだ。落ちているマスケットを借りる。
「がはっ」
撃つのではなく、鈍器として使う。持つ部分で思い切り顔を殴る。
「やろう!」
二人で同時に襲い掛かる形だ。三人もやられたとなると怒るだろう。冷静さを欠けている。判断を誤りやすいのでこちらとしては好都合だ。一人の足を崩して、マスケットの持つ部分で腹を打つ。ここでカエウダーラが駆けつけてきた。決着だ。後ろからの首を絞めて気を失わせて依頼完了だろう。指示する者がいなかったらの話だが。
「よーし。これで問題ないだろ」
周囲を警戒しながら、グロリーアが動かないように縄で密猟者を縛る。蛇のように動く光景は慣れないといけないだろう。
「あとは運んで連絡して終わりでしょうけど」
「うん」
移動しようと思った矢先、殺気を感じた。隠すのが下手くそだ。というよりワザとだろう。
「ほお。俺の殺気に気付くか」
三白眼で白い肌、金髪を逆立てている自己主張の激しい野郎だ。丸みを帯びた耳なのでニンゲンだろう。恰好は捕らえた奴らと大差ない。だが体格の差はかなりある。恐らく鍛えている。そしてあの感じではリーダー役だろう。
「ここはわたくしが」
カエウダーラが意気揚々と長槍を持ち、男に近づく。この状態で手を貸すのは経験上よろしくない。
「あーうん。よろしく」
棒読みになってしまった。無意識は恐ろしい。
「二人がかりでもいいんだぜ?」
男は何も持たずに構えている。拳で戦うタイプなのだろう。
「それでは参ります」
カエウダーラが先手を打つ。素早い槍の突き。狙いは足だ。
「おっかねえおっかねえ」
男が余裕な表情をして後ろに下がる。木があるので得策ではないと思う。大したことがない相手だという判断は軽率だ。何かあっての行動だろう。
「ワープ!」
男が叫んだ。カエウダーラの前から消えた。魔法の類だ。仮に追撃があっても避けられていたから、あのような行動を取っていたのだ。色々と甘いが。
「甘いですわよ」
カエウダーラは冷静だった。相手の動きを予想していた。後方を見ないで石突と呼ばれるところで無防備となっている男の腹を殴打していた。
「カハッ。そうかもしれねえな」
致命傷にはなっていないのか、男は喋ることが出来ている。
「だがお前の方が甘い」
どういう意味だろう。どちらかというと、男の方が甘い。
「性別が女という時点で決してるんだよ。俺が本気を出せばな。チャーム!」
自信はないが、男は魔法を発動させたと思う。この空気のしらけ具合は何だろうか。
「へ?」
切り札だったのだろう。男はだいぶ焦っている。
「ほべっ」
トドメの一撃。カエウダーラとしては軽めだと思うのだが、男は地に伏した。この後は捕縛した奴らをテレッサ村駐在の騎士に引き渡した。報酬等は冒険者ギルドで受け取ったのだが、何故かグロリーアが事務員から説教をくらっていた。……何故?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます