第47話 まさかの帰国!? まだ間に合う! 待ち焦がれた約束の『デート』へ!

 そんな光景を目に焼き付けながら俺は一人協会の休憩室のベランダでくつろいでいた。


 いや、物思いにふけっていたというのが正しいか。


 ずっと俺は左腕の〈龍紋〉について考えていたからな。


 侵食は今でこそ止まっている。とはいえそれは【霊象術】を使わなければという話だ。


 会合で《天雷の矢》の廃棄がきまったとけど、依然として【霊象】の乱れは治まっていない。


 これから何時なんどき危機が訪れるか分からない。


 そうなった場合、俺は力を使わないなんてことが出来るだろうか?


 もし【皇帝級】が現れたら? それでアセナやみんなに危険が迫ったら?


 やっぱり、探しに行くか……。


「おーい、黄昏少年、こんなところでなにやってんだ?」


 ノックもせず、例のごとく女性姿のナキアさんがだるそうに入ってきていた。


「おかえりなさい。ナキアさん。出張お疲れ様です」


「おう! ったく、慣れねぇ仕事すると疲れるぜ。つーか、今日デートじゃなかったのか?」


「待ち合わせの時間まで時間があるから」


「それでこんなところでノスタルジックにひたっていたわけか?」


 あながち外れてもいない指摘で、言い返す言葉がなかった。


「ったく、嬢ちゃんが去るっていうのにそんなんで大丈夫なのか?」


「は? 去る? どこに?」


「なんだキサマ、聞いていないのかよ?」


 なんでもレアさんからアセナに宮廷の【霊象予報士】をやらないかと打診があったらしい。


 すぐという話でもないし、まったく会えなくなるというわけでもないけど、ただ。


「もし行ったらしばらくは帰ってこられないだろうな」


「それをアセナが受けたんですか?」


「さぁな? でも悪くない話じゃねぇの? 少しは慣れたとはいっても、やっぱ住み慣れた土地で過ごすほうが良いだろ?」


「そんな……カサンドラさんっていう家族が出来たばかりなのに」


「きっと姐さんも理解しているだろうよ。で? アンシェル、お前はどうするんだ? このまま帰したくないんだろ?」


 いってもたってもいられず俺は財布やらなをやらを手に取り、出かける支度をした。


「すいません。俺、行きます!」


「おう! ったく世話の焼ける弟弟子だぜ」


「俺は頼もしい兄弟子を持ててよかったです」


 互いに微笑み合うと、俺は協会を飛び出した。




 待ち合わせの噴水前に着くと約束の時間の30分前にも関わらず、既に彼女は一人せわしない様子で待ってくれていた。


 いつだってカワイイのに、おろしたての服着て、メイクして今日は一段と輝いてみえる。


「アセナ!?」


「えっ!? エルくん!?」


 全力疾走してきたから、着いて早々肩で息をしてしまった。くそっ、体が鈍っているな。


「ごめん、どうしてもじっとしていらなくて、早いとは思ったんだけど、待つの嫌いじゃないし、いいかなって――ちょ、エルくん!?」


 言いきる前に俺は彼女を引き寄せて抱きしめた。


「行かせない! 君をどこにも行かせない!」


「エルくん、何を言って――」


「帝国に帰るなんてイヤだ! せっかくこうして一緒にいられるようになったのに」


「エルくん……」


「もう誰にも奪わせない」


「うん……」


 まるで子供みたいにひとしきりさけんで、あやされて、ほんとうにみっともなかった。


「宮廷の【霊象予報士】がなんだよ! そんなの……」


「うん……私はどこにもいかないよ」


 だから落ち着いて、と耳元にささやかれ、ようやく俺の中で不安が和らいでいった。


「本当?」

「うん……確かに殿下からそういう打診があったけど、断ったから」


 よかった。安堵のあまり俺はその場で今までの人生の中で一番重いため息をついた。


「ふふ、心配してくれたんだね」


「当たり前だろ! そんなの」


「そうだね。エルくんのそういうところ私は大好きだよ」


 そうアセナは優しく愛らしく微笑んでくれた。そしてはっきり俺のことを――。


「俺もアセナのことが好きだ」


「知っているよ。ずっと言ってくれていたものんね」


 その細い指で俺の手を握る。ほのかに伝わる体温に照れ臭くなって頬をかいた。


「でも、それをどうしてエルくんが知っていたの?」


「あ、ああ……ナキアさんが教えてくれたんだよ。帰っちまうかもって」


 う~ん? と不思議そうに首をアセナはひねる。


「それ変だよ。だってそれお義母さんには言ったけど、その場にはエルくん以外全員……」


 やべっ、という声を地獄耳がキャッチする。後ろで今まさに逃げる人影が4人もいて。


「てめぇら! ダマしやがったな! 待ちやがれ!」


 逃げろ逃げろ、と散り散りになっていく。つーか何でレアさんもフェイも悪のりしてんだよ。


「あははっ! おっかし~!」


 しかもアセナにまで笑われる始末。ったく、覚えていろよ。


 パーンと夜空に花火が弾ける。ちきしょー、もう始まっちまったたじゃねぇか。


「ほら、エルくん!」


 俺の腕にアセナが自分の腕を絡んでくる。


「行こ! みんなで回ればきっと楽しいよ!」


 まったく、またデートが台無しじゃねぇか。くそっ! 3回目は絶対成功させてやるからな!

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