第31話 もっと力を。奴に勝つための『条件』
わざとか天然なのか。とにかく自重はしてほしいと切に願っていると――。
「ま、さっきも言ったけど安心しろ。嬢ちゃんは天守閣じゃなくて、広場の公開処刑場へと移送中だ」
場所の変更があったと、くそ、こんなところでじっとしてられるか。
「エ、エルさん!?」
「……いかねぇと」
「ば、ばか! なにっ言ってるんエルやん! ダメだって言ったばかり――」
二人の静止を無視して立ち上がった俺の前に、今度はナキアさんが立ちはだかった。
……何のつもりだよ?
「今のキサマが行って何になる? そんなボロボロの身体で、どうにかできると思ってんのか?」
冷めた口調のナキアさん。
「関係ねぇ、助けなきゃいけねぇから助けるんだ」
「自惚れんじゃねぇ。今のクローディアスの力はオレ様以上だ。あの【皇帝級】の力を手にしたやつを相手にして、ここに居る誰一人敵うのはいねぇ」
襟をつかんで壁に押し付ける。
「関係ねぇつってんだろ! アセナが待ってんだ! 邪魔するってんなら――」
「うるせぇよ」
その言葉が聞こえるか聞こえないかという一瞬。身体が宙に浮いたと思えば、床に叩きつけられた。
「……げはっ! ごほっ!」
「暴れんな。せっかくふさいだ傷をまた開くぞ」
激しくむせる俺を冷ややかにこけ下ろしてくる。い、今の方が開くっつーの。
数秒前に自分がしたことなんてすっかり棚に上がっていた。
「話は最後まで聞け、キサマをここに連れてきたのは、傷を回復させる以外にも理由があんだ。まず公開処刑の日にちまであと2日猶予ができた」
そうなのか。どおりで話の温度差があると思った。だけどあったといって何だ?
どうにかして作戦を考えなきゃならないんじゃねぇのか?
「とはいえ、さっきも言った通り、【皇帝級】の力がどれくらいか姫さんから聞いているだろ?」
それがなんだっていうんだ。関係ないだろ。
「……その2日があれば、キサマなら瞬間的だがやつを上回ることができるかもしれねぇ」
「なんだって! どうすればいいんだ!」
ったく、都合の言い耳だな、なんて悠長に肩をすくめている場合じゃねぇだろ。
「これから2日間、キサマを鍛える。そのために姫様からここを教えてもらったんだ」
ナキアさんの後ろでレアさんがコクり。
「あの力を手にしたクローディアスを野放しにしたら、再び戦火に包まれる」
助けだしたとしても、やつが生きていてたら、本当に彼女が自由になったとはいえない。
「キサマがやつを倒して、みんなを守れ、そして今度こそ嬢ちゃんを救いだせ。アンシェル!」
回復を待っている暇はない。自力で立ち上がれるようになると早々に訓練を始めた。
訓練というか前回と同じレッスンだな。
「まず始める前に一つ聞く。アンシェル、お前の【自然大行】はなんだ?」
「何って……知ってんだろ? 【太陽】だよ。それがどうかしたかよ?」
「……いや、毎回思けどよ。ネクラなアンシェルには似合わねぇなぁって」
「バカにしてんのか!」
「本気にすんなよ。ジョーダンだ」
この状況で、けなすためにだけにそんなことを聞いたんだったらぶん殴っているところだ。
自然大行。簡単に言えば霊象気の【性質】だ。〈太陽〉とか〈火山〉とか〈結晶〉とか。
基礎修練の後の修行で、大自然の中で自分に合った万物の力を探すんだ。
「――でだ、いまキサマの中には【霊象術】と【継約術】、二つの術があるわけだ」
「もったいぶってないで早く教えてくれ、あのクローディアスに対抗できる方法を」
「だな。んじゃ、それらを融合させることができるって知っているか?」
――って知るわけがないだろ。つーか融合だって? 【継約術】は単に【霊象術】を底上げするだけじゃないのか。
「その顔は知らなかったみてぇだな。つってもこいつばかりは誰にも教えられない。自分で見つけるほかねぇんだ」
そこまでたどり着くためには普通10年かかるって言われた。でもそんな時間もない。つまりそれをたった2日で体得しなければならないということ。
「いまからキサマを鍛え上げるうちに、なんとかそれを見つけ出せ。さもなきゃ――」
「さもなきゃもねぇよ」
両拳を打ち合わせ、言葉の端を俺は断った。
もう外は夕刻。残りおよそ31時間。悩むヒマもおしい。
「それしかねぇならそれをやるだけだろ」
「いい根性だ――んじゃ、覚悟はいいか?」
「もともと覚悟なんて出来ているよ。そっちこと手加減すんなよ」
遠慮なく俺はナキアさんへ打ち込みに行った。
それから何度もボロボロの状態になりながらも、シャルとレアさんの二人に回復されつつ、訓練を続け1日目を終了した。
「ふぅ~~~~………まさかこんな場所に風呂があるなんてな」
ひと汗かいた後に湯で汗を流せるこの瞬間は格別だよな。
冷えた体にこうチクチクと刺激されて、ぎちぎちだった筋肉がほぐれていくのが気持ちいい。
こういうこと言うとマゾか、ってナキアさんなら言ってくるところだけど。
「殿下……さっきは申し訳ありませんでした」
唐突に岩一枚隔てた向こうからシャルの低くつぶやき声が聞こえてくる。
つ、つーか混浴だったのかよ!?
あぶねぇ……何も知らずあっちに行っていたら、今度こそ迷惑防止条例で捕まるところだった。
「いえ、ほんと気にしていませんから」
レアさんもいんのか。参ったな……。
会話はそれっきり、すんとした静けさが包む。その気まずさといったら、胃がぎゅってつかまれたみたいになるほどだったよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます