第15話 現れた強敵!? 僕らは『生き残れる』か?
甲高いシャルの声が鼓膜を打った。
「なるほど、あの口でここに来た【歩兵級】ごと飲み込むってことか」。
「差し詰めランドワームって言ったところだね」
「よっしゃ! さっさと片付けるぞ!」
ナキアさんの雄叫びに合わせ、地面を蹴って仕掛けた。
先制、紅蓮の【霊象気】をまとったフーリガンバーの一閃――。
「――イスタ流六式
駆け抜けた先から大地が割れ、爆炎が炸裂する。
火山の噴火を思わせる衝撃にワームの巨体が炎に飲み込まれる。
『GUOOOOOHHHH――ッ!!』
焼け焦げ、ひび割れた体表から黒煙があちこちから立ち昇り、明かに動きが鈍くなった。
すごい――たった一撃で動きを止めた。
「ぼさっとしているな! 追撃!」
――あまり時間がない。今できる最高の技で一気に片付ける。
来る前にトロイラス大佐が言っていた。ひきつけてられるのもせいぜい2時間。
到着するまでに大部分を使ってしまった。体制を立て直すヒマはない。
地面を踏み砕く震脚。発生した力を【霊象気】を針のように細く鋭く研ぎ澄ませた。
「――【日輪絶火・
中段に構えた正拳をひび割れ表皮にたたきつける。
針状體功は霊象気を一点に集中させた熱線で貫く技。
更に収束した力は体内で炸裂。それは即ち衝撃と打撃がずれる〈遠当て〉となる。
ヒビというヒビから緑色の血飛沫が噴水のように高く舞った。
『GUOOOOOッ!!』
咆哮が空気を震わせる。立て続けの攻撃に逆上したのか、【完成体】が反撃してきた。
全身を波打つように地中と地上を行き来する。巨体からは想像できない驚異的な速度に俺たちは回避を余儀なくされた。
掘り進める際に地下から発せられる地震が、俺らの足元をふらつかせる。
まるで船の上に立っている気分。足腰を鍛えてなかったらすぐに膝を付いていた。
「……ぐっ!」
出現と同時に飛散する岩石を避ける都度骨がきしみ、腱が突っ張る。
練り上げた【霊象気】一気に圧縮解放する【日輪絶火】は技の威力を一段階上げる。
瞬間的な【霊象力】は普段の約2倍。けど日に二度しか使えない。骨と筋肉が壊れる。
「――【
地上に出たところをシャルが狙い撃つ。三節棍で無慈悲な連打を浴びせる。
トゲ状に結晶化した【霊象気】を肉叩きのごとくワームへ叩きつける。
「しぶといなぁ!」
珍しくシャルが悪態をつく。それでもあと一撃加えればすぐにでも倒れそう。
虫の息のはずのワームが体を揺らし始める。地中に潜る気か! 逃がすか!
トドメを刺しに向った俺を、青い影が追い抜く。
――ガン!! 無防備な頭へアセナの剣が突き立った。
「逃がさない――【
世界が真っ白になり、音が消える――。
青白い稲妻がワームを貫く。のたうつ体へ植物の根を思わせる雷紋が走る。
俺にはそれが地竜を閉じ込める雷の檻にも見えた。
黒煙がくすぶる。案外あっけなかった。四人でかかればこんなもんか。
それから過保護だった自分を猛省したよ。アセナは俺よりはるかに強い。出る幕なんて最初から無かったんだ。
「やったな! アセナ!」
「うん! 言ったでしょ? 私も戦えるって」
立ったまま絶命するワームの頭部へ降り立った俺は、ほほ笑む彼女と手を合わせた。
「バカ野郎! まだそいつは生きている!」
「二人ともすぐにそこから離れて!」
血相を変えた二人の叫びですぐにその場から離れた。
謎の装置に降り立った俺たちが見たものは、焼け焦げた表皮を脱ぎ捨て新しい身体を獲得するワームの姿だった。
「――そうか! 脱皮か!」
驚く間もなく大口を開けたワームが強襲する――速い!
すかさず俺たちは跳躍してかわした。さっきより明らかに速度が増していた。脱皮を繰り返すごとに成長するってことか!
「あっ! 【
地面ごと装置が飲み込まれる。帝国の言葉でアセナが恐らくあの装置の名前を叫んだ。
なんか響きが兵器みたいだな、と余計なことを考えていたら、ワームの姿を見失う。
「――な!? どこ行った!?」
「あぶない!! エルくん!!」
突如として悲鳴が聞こえ振り返る。
アセナが俺に向かって手を伸ばそうとしたまさにその瞬間――地竜のあぎとが俺たちを飲み込む――ちっ! ここまでか!
死を覚悟した俺は薄れゆく意識の中。彼女の身を守るようにしっかりと抱きしめる。
せめてアセナだけは――と願って……そして――。
「エルくんっ!?」
悲痛なアセナの呼び掛けが現実へと引き戻した。
まぶたを開いた先に彼女が不安げに俺の様子をうかがっていた。
「生きている? 一体何がどうなって、ここは……?」
「ランドワームの体内……」
周囲を見渡すとピンク色の肉壁がうごめく。まるでクジラの体内。入ったことないけど。
それにさっき飲み込まれた謎の装置がほぼ原形をとどめたまま存在していた。
その他には緑色のゲル、あれは多分食った【歩兵級】の残留物。
「なるほど胃袋のなかってわけか」
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