第二幕十二話
キモイおじさんとあたることもなく、それから四試合程が経過した。俺とティナは無事に快勝して準決勝まで来た。ティナは思っていたよりも強くて、強そうな人達を次々と倒していっていた。俺たちは対戦表を見に行っている。
「えっと……次は」
「私だね。」
後ろから急に声が聞こえた。
「ね……ネージュ。」
まさか、ネージュもこの大会に参加していたとは……。振り向くと、ティナとヘスティアはいなくなっていた。ヘスティアがネージュを見て退散したのだろう。
「私達が闘うのは久しぶりだね。容赦なく『恩寵』を使うからね。」
この三週間、ネージュは『恩寵』を徹底的に強化したらしい。果たして、どのような能力になっているのだろうか?
「えらく自信満々だね。」
「だって、キースさんに私なら勝てるって言ってもらえたからね。」
キースさんも来ていたのか、正直会いたくないな。
「キースさんにはよろしくって伝えといて。」
「うん、分かった。」
これで、キースさんには会わなくて良いだろう。
「じゃあ、三十分後。」
拳を重ねて、俺らは一旦別れた。
「ネージュさん、来ていたんですね。」
ヘスティアはこちらを見て、ニコニコしている。
「ヘスティアはいつから、気づいていたの?」
「いつでしょうね。」
もし、エントリーする前から知っていたならかなり恐ろしい。
「ティナの対戦相手は誰なんだ?」
「レパード。」
「確か、獣族の騎士ですね。まだ、十六歳みたいですよ。決勝リーグは皆さん、若いようですね。」
キモイおじさんじゃなくてホント良かったと思う。
「ヘスティア、ティナ、勝ってくるぞ。」
「がんばってくださいね。」
「ガンバレ。」
「ついに、準決勝だぁぁ。ロージェン対ネージュ。二人とも人族の少年少女だ。おっと、今入った情報によるとお二人は兄弟みたいです。」
俺らは目を合わせて入場する。
「さて、姉が年上の意地を見せるのか?弟が男の意地を見せるのか、どっちでしょうか。それでは、開始。」
俺は今回、この大会初めて魔法を使うことを決めていた。魔法といっても、加速と筋力強化の二つだ。自分の魔力を身体に纏ってネージュに突っ込む。
「はぁぁぁぁぁあ。」
ネージュは正面から俺の剣を受けて、目に動揺が走る。昔なら、俺が力負けして吹き飛ばされていたのに今は俺の方が力が強そうだ。
「強くなったね、ロー。」
「まだまだこんなもんじゃないからな。」
「じゃあ、私もそろそろ本気を出していくね。」
ネージュの周りに無数の糸が現れた。
「なんと、ネージュ選手『恩寵』を利用した。」
ネージュの出した糸が色んな場所の壁に刺さった。この糸を触れてはいけないと本能が叫んでいる。糸のもう片方の端を掴んでいるのはネージュだから、ネージュが動くと糸の配置もかなり変わってくる。攻撃を仕掛けるなんておろか、避けるので精一杯だ。
「じゃあ、ギアあげてくよ。」
今度はネージュの動きと関係なしに糸が俺を絡め取ろうとしてくる。あれ……なんで避けてるんだろ?糸って斬れるんじゃない?そう、気づいて剣で糸を斬っていった。糸はかなり硬いが、魔力を込めれば斬れない硬さではない。
「気づかれたか……。」
俺は、糸を斬ってどんどんネージュに向かっていく。しかし、ネージュは切れた糸同士を繋げて俺の妨害をする。糸の壁は次第に近くなっていく。
「行くよ。」
少し加速して残りの糸を斬りながら、ネージュに突っ込む……ように見せて、ネージュの裏に回る。ネージュが警戒して糸をこちらに回そうとした瞬間に加速魔法でネージュの反応を置き去りにする。
「「あ……」」
気がつけば、剣はバラバラに折れていて腕が二の腕までしかない。
「あぁぁぁぁあ。」
やばい、痛い。
「ネージュ選手の勝利です。医療……」
「私が治しますよ。」
ヘスティアは俺の痛みから止めて、バラバラになった腕を修復していき、輸血をした。だが、体の感覚が少しおかしい。
「ロージェン、しばらく休んでいてください。一日もあれば治ると思いますので、安心してくださいね。」
後半はヘスティアの後ろにいるティナを見て言った。俺はどうしてこんな状況になったのかは理解できていない。確かにネージュの攻撃は全て避けたはずだ。しかし、気がつけば腕が斬られている。俺は救護室に一人で運ばれていった。
ヘスティアとネージュの間に二秒程沈黙が流れる。
「あの……あなたは」
「少し黙ってくれませんか、ネージュさん。貴方はロージェンを殺す気ですか?」
「え……そんなわけないじゃないですか。」
この人にまた助けられたから、お礼を言いたかっただけなのに……。
「貴方はまだ『恩寵』を得てから、三週間しか経っていないのに、未完成な『フィルター』を使ったからこうなったのですよ。」
「う……。」
確かにまだ、私の『フィルター』は完成していない。そもそもフィルターは普通の騎士が三十代になった時くらいに完成する技だ。
「貴方の無責任な行動がロージェンを殺しかけたのですよ。」
「はい……。」
事実が一番、自分の胸にすとんと刺さる。薔薇の棘が刺さったような痛みが走るが、そんなものはロージェンに比べると痛くも痒くもないだろう。
「まあ、反省しているようなのでこのくらいでいいでしょう。貴方は今回のことをちゃんと覚えて、今後失敗しないようにしてくださいね。」
「分かりました。」
かっこいい……。謝るのは今じゃない。いつか、胸を張って喋れるようになったらちゃんとこれまでのお礼を言おう。
俺が病室で休んでいると、ティナが入ってきた。
「大丈夫?」
「ああ、ヘスティアのおかげで痛みは全くないよ。」
「そか。」
ネージュにヘスティアに会っていないって嘘ついたのバレたかな。今回の件でチャラにして欲しいものだ。
「そういや、準決勝は?」
「さっき、辞退してきた。」
「は……準決までいったのに勿体ないじゃん。」
ティナなら優勝だってネージュに勝てれば優勝だって狙えるだろう。
「ロージェンがいないなら、しなくていい。」
自然に頬が緩んでしまう。ティナはヘスティアに懐いたと思っていたが、俺にもかなり懐いていたようだ。ティナに近づいて感覚が戻っていない腕で頭を撫でる。
「んっ。」
ティナは気持ちよさそうに尻尾をふる。
そんなティナを見て、俺はとずっと一緒にいたいと願う。
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