第7話 もうお終い
背中をゆっくり直に触れられて、僕は少し焦れた。もっと触れて欲しい場所があるのに、キヨくんはそこには来てくれない。唇が不意に離れて、キヨくんは僕に尋ねた。
「何?何か足りない?」
僕は少し意地悪な顔をしたキヨくんを見上げて、口を開いたけど恥ずかしくて言えなかった。するとキヨくんが反対の手でシャツの上からそっと僕の胸元を撫でた。
「これ?これ好き?」
そう言いながら、摘んだり擦ったりするから、僕の胸は只々疼いた。思わず甘いため息をつくと、キヨくんが僕をぎゅっと抱きしめて言った。
「はぁ、俺自分で自分を追い込んじゃったよ。もうすぐ授業始まっちゃうからお終い。玲が抵抗しないし、可愛いし、もうどうしようもない。ちょっとはダメって言えって。」
そう言って、狼狽える僕にもう一回唇を押しつけた。もっと美味しくて甘いキスが良かったけど、たしかにこれ以上は僕も無理だった。ここは学校で、これ以上興奮したら本当困る。
ぼうっとした僕に、キヨくんがシャツをズボンに入れる様に言うと、僕は慌ててぐいぐいとシャツを手で押し込んだ。はぁ、僕学校で何しちゃってんの。僕は我にかえって、急にとんでもない事をしてるって気がついた。あそこも何だか兆してるし。
僕に背中を見せながらキヨくんはジュースを飲み干すと、自販機のところまで戻ってダストボックスへ放り込んだ。僕はその黄色い缶を見る度に、ひどく甘い味を思い出すだろうと思った。
教室に戻ると、いつもの様にありふれた日常が待っていた。さっきの特別な昼休みが、まるで僕の妄想だったんじゃないかと思ってしまいそうな気がするくらい普通だったんだ。
二学期の選択授業でキヨくんと教室が別々になると、僕はホッとする様な、寂しい様な、矛盾する気持ちで周囲を見回した。三クラス合同の選択授業は始まったばかりで、見知らぬ顔も多い。
僕はまた学食の様に注目されている気がしたけれど、それは自意識過剰なのかもしれないと苦笑いして、前の席の長谷川君の背中を見つめた。文化祭から話す様になった長谷川君が僕に優しくしてくれるので、正直心強かった。
困った時はガタイの良い陽キャのクラスメイトだなと笑みを浮かべていると、プリントを回して来た長谷川君が眉を上げて僕の顔を見て囁いた。
『何?めっちゃ笑ってる。』
僕は慌てて何でもないと言うと、次の人へプリントを回した。僕はやっぱり文化祭から、じわじわと殻が割れているみたいだ。キヨくんに自分の弱い気持ちを知られたくなくて、自分の感情を見せない様にしてきたのは、何もキヨくんに対してだけじゃなかった。僕にそんな器用なことは無理だ。
結局僕は、キヨくんへ自分の感情を隠さなくなったのと同時に、周囲へも素の自分をさらけ始めていることに気づいたんだ。それはきっと良い事なんだよね?
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