第3話 僕って有名人?
「橘って、一気に有名になったな。」
そう、呆れるように言う箕輪君たちと一緒のテーブルに座って、定番のカレーライスを食べながら、僕は不貞腐れていた。僕が願った訳ではないのに、コンテストで優勝したせいなのか、学食に入った途端にあちこちから声が掛かった。
大概は僕があのメイドなのだとヒソヒソと言い合ったり、じろじろ見てくるくらいだったけれど、最悪なのは僕の前に立ち塞がってちょっかいを掛けてくる下級生達だった。
「橘先輩、今度一緒にデートしませんか?」とか、「橘先輩って、メイド服着ていなくても可愛いですね。」とか言って揶揄ってくる。大抵そんな事を言ってくるような相手は、運動部に所属するいかにもマッチョな奴らなので、僕はウンザリした気持ちで、モゴモゴ言いながらかわして歩き進んだ。
すっかり精神的に疲弊してしまった僕が、ようやくテーブルでカレーを食べているのに、やっぱり周囲からの視線を感じる。目の前の箕輪君はクスクス笑いながら、周囲を見渡して隣のクラスメイトと話し出した。
「しょうがないよな?橘のチョコバナナ騒動はもはや伝説だからなぁ。」
僕が何を言っているんだと、眉を顰めて顔を上げると、箕輪君は不味いと言うような顔をして誤魔化そうとしていた。
「ね、どう言う事?」
箕輪君とクラスメイトは顔を見合わせて、どうしようかと躊躇っていたけれど、僕が引かないのを見ると渋々スマホの動画を見せてくれた。それは、僕がチョコバナナを食べさせられている動画のひとつで、いつ撮られたのか分からないけれど、かなりはっきりと映っていた。
僕はじっとそれを見ていたけれど、それがどうして話題になっているのか分からなかった。僕がそう言うと箕輪君たちは顔を見合わせて、言いにくそうに小さな声で言った。
「その、それって橘がエロいって話題になって、あっという間に拡散したんだ。実際、橘って髪も短くなったら顔もはっきり見えて、案外可愛らしいからさ。ますます皆、気になるんだよ。なんと言っても、ここって男子校だろ?
橘がこの高校の癒しの存在になったんだよ。でもこんなに注目されると、不埒な奴が出てこないとも限らないよなぁ。あ!良い奴が来た。おーい、委員長。三浦君たち、こっち!」
そう言って箕輪君がトレーを抱えたキヨくんたちを隣の空いたテーブルに呼び寄せた。僕はドキンとしたけれど、呼ばないでと言うのもおかしいので、キヨくんがこっちへとやって来るのを、何とも言えない気持ちで見つめた。
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