第2話 朝から耐えられない!
朝の満員電車から吐き出されて、僕はふらふらと高校の最寄駅の改札を出た。これをこれから毎日続けるとか、僕の心臓が持たないかもしれない。
人波とキヨくんに押し付けられた身体は身動きが取れなくて、僕の顔がキヨくんの首元にぶつかりそうになるのを必死で堪えていた。キヨくんのドキドキする様な体臭を感じて、僕は思わず息を止めたんだ。
でも、勿論ずっと息を止めるなんて無理で、僕は思わず上を向いて息を吐き出した。それがキヨくんの耳元の髪を揺らして、キヨくんの身体がビクッとして、それはそれで居た堪れなかった。
電車を降りてから、キヨくんと僕は顔も合わせずに人波に押されて改札を出た。僕はこのまま話もしないのも不自然な気がして、キヨくんの方を見た。するとキヨくんも、僕をじっと見ていて…。何だかその眼差しが、ちょっと怖い感じで、またドキドキしてしまった。
「…玲と一緒に登校すると、嬉しいけど困るな…。」
ボソリと呟いたキヨくんの声は辛うじて僕に届いた。僕は少しムッとして前を向いて言った。
「…困る?嫌なら一緒に登校するの辞める。」
僕がそう言い放つと、キヨくんは困ったように僕に話しかけた。
「そうじゃないって。玲は案外怒りっぽいな。昔はおっとりしてたのに。…身体がくっつき過ぎて身が持たなくて困るってこと。」
僕がハッとしてキヨくんを見上げると、声を顰めて言った。
『ドキドキするだろ?』
やっぱり僕は、キヨくんと登校するのは無理かもしれない!後ろからドヤドヤ見知った顔が近づいてくるのを感じて、僕たちは何でもない顔を取り繕った。
「おはよー。お前たち仲良いな。地元一緒なんだっけ?」
そう声を掛けてきたのは、三浦君のグループのサッカー部の申し子の山口君たちだった。それから、ワイワイと文化祭の打ち上げの話で盛り上がったので、僕とキヨくんの間に張り詰めていた空気は霧散した。
昼休み前にスマホのメッセージにキヨくんから届いたのは、一緒に学食へ行こうって事だったけれど、思わず僕は箕輪君たちと行くと返信してしまった。何だかこれ以上キヨくんと一緒にいたら、僕が弾け飛びそうな気がしたんだ。
文化祭という非日常は終わりを告げて、いつもの日常が訪れた今、僕は自分で作り上げた殻をぶち割れないでいたんだ。でもそう思っていたのは、僕だけだった。僕のモブとしての生活は突然終わりを告げたんだから。
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