第六一編 邂逅
〝
「(つってもコレ、どうやって桃華に渡せばいいんだ……!?)」
ハッ、ハッ、と白い息を切らして街の中を走り抜けながら考える。腕に大事に抱えた、桃華が
「(まさか、バカ正直に『忘れてたぞ〜』なんて直接渡すわけにはいかねえし……!)」
大前提として、今日は桃華と久世が二人きりで過ごすことに意味があるのだ。そのために俺はあのお嬢様まで利用して自分の存在を
そんなせっかくの
「(かといって、桃華が今日のために用意したクリスマスプレゼントを渡せないまま終わっちまうのもダメだ!)」
おそらくあのイケメン野郎も、今日のためにプレゼントの一つくらい用意しているだろう。そして
『あれっ!? ご、ごめん、久世くん……プレゼント、忘れてきちゃった』
『えっ、あっ、そうなんだ? 大丈夫だよ、気にしないで……』
「(――みたいな微妙な空気になっちまう!?)」
最悪の未来予想図に、俺は走りながら頭を抱える。それはそれで、せっかくのクリスマスデートが台無しだ。
なんとしても、このプレゼントは桃華の手元に届けなくてはならない。久世がプレゼントを渡そうとする前に、桃華がプレゼントを忘れたことに気付く前に。ただし、決して俺は表舞台に上がってはならない。
「(どう考えても無理だろそんなの!? いや違う、ダメだ、ヤケになるな俺! なんとかするんだ! どうにかしてなんとかするんだッ!?)」
息が切れ、思考が乱れる。
早く桃華たちに追いつかなくては、しかし追いつくまでに考えを
結局良案が浮かばないまま一〇分ほど走った俺は、やがて大きな橋へと差し掛かる。この橋を渡って川を越えた向こうはもう中央公園だ。例のレストランもすぐ近くにある。
つまり、もはや一刻の
「(くそ、どうする!? どうすれば――)」
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
ロクに前も見ずに走っていた俺の身体になにかがドンと接触し、慌てて意識を現実に引き戻す。どうやら前からやってきた通行人に肩をぶつけてしまったようだ。
「だ、大丈夫っスか!? すみません、ちょっと考え事してて……!」
謝罪の言葉とともに、ぶつかった衝撃でよろけて座り込んでしまったらしい相手に手を差し伸べる。そして顔を上げたその人の
「(す、すっげー美人……それにこの髪と
まず目を奪われたのは、黄金を
瞳の色は綺麗な青。水色というよりは
明らかに日本人離れした容姿に対して、顔立ちはどちらかと言えば童顔寄り。年頃はたぶん俺とさほど変わらない。流石に七海レベルではないものの――あんな女がこの世に二人もいてたまるかという話だが――、それでもとんでもない美少女だ。金髪が目を引くこともあってか、街行く人々のほとんどがいったい何事かと顔を振り返らせている。
そして当然、そんな美少女を転倒させてしまった俺は内心汗ダラダラだった。
「(や、やべえどうしよう、どうすれば……というかなんて言えばいいんだ? とりあえず『ごめんなさい』か? 『ごめんなさい』って英語でなんて言うんだ? そもそもこの子はアメリカ人なのか? い、いや、
焦りで一時的に限界突破された思考能力によってゼロコンマ数秒で結論を出した俺は、ぐっと
「あ、アイムソーリー……えーっと、マイネームイズユウマオノ……アイウォントトゥー……ユルシテクダサイ」
「……? ああ、日本語で構いませんよ。生まれは
「……え?」
自分よりも遥かに
赤っ恥を
「こちらこそ不注意で申し訳ありませんでした。少し道に迷っていたもので、つい携帯電話の画面に意識を集中させてしまいました」
律儀に両手を揃えてお辞儀する少女に、俺も「アッ、ハイ、コチラコソ」とキョドりながら頭を下げ返す。若干カタコトになってしまったのは先ほど思考能力を振り切らせた代償か。
「……あの、あなたはこの近辺にお住まいの
「へ? ああハイ、一応……」
「そうですか……すみません、つかぬことをお伺いしますが」
少女は一瞬だけ目を伏せてから、こちらを見上げる。
「この近くに、綺麗な夜景が見える公園がありませんでしたか?」
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