第五五編 あの頃、あの場所
クリスマス
「真太郎、こっちはもう終わったか――って、なに一人で
「! すみません、
後ろから声を掛けてきたのは先輩アルバイトの新庄
外見はやや
「新庄さんのほうはもう終わりましたか?」
「おー、今日のところは一通りな。終わったんならさっさと上がろうぜ」
頭の後ろで両手を組む新庄のあとに続き、「STAFF ONLY」と表示された扉をくぐって
「ぐ、うおおおおおっ……!」
「うああっ!? い、
「なに
「や、やっとクリスマスケーキの準備が一段落した……スポンジの用意は終わってるし、トッピングの材料も予定通り明日の朝一にはすべて揃う……ああ、でも明日からいよいよ販売が始まっちまう……予約だけでも相当な数だし、当日販売分も用意しないといけないし、今年のクリスマスは土日だから去年以上に店も忙しいだろうし、その上で限定ケーキとカップル用ケーキも作らなきゃいけないし……あああああっ、今年も寝る暇もない地獄の聖夜が始まるうううううっ!? くたばりやがれキリスト、くたばりやがれリア充どもおおおおおっ!?」
「一色店長!? や、やめてください、机に頭を打ち付けないでっ!?」
「気にしなくていいぞー、真太郎。
「いや気にしますよ!」
ガンッ、ガンッとデスクに繰り返し頭突きをかます一色を羽交い締めにして制止する真太郎。すると一色は「く、
「格好悪いとこ見せちゃってごめんな……久世ちゃんや
「真太郎、違うことは『違う』って言っていいんだぞ」
「クリスマスの季節はいつもバタバタでな……商品の考案から試作から仕入れから宣伝から、とにかく忙しすぎる。おかげで素敵な彼氏とクリスマスデートに行くことも出来やしない」
「どっちにしろ店長はデートなんて出来ないでしょ、彼氏居ないんだから」
「でもアタシは
「いや、俺は二四日の夜から彼女と出掛ける予定ですけどね」
「さっきからうるさいんだよ
「一個前の彼女にはフラれましたよ。そんで、そのすぐあとに四個前の彼女と復縁しました」
「四個前の彼女と復縁!? あ、相変わらず恋人を取っ替え引っ替えしやがって、この女タラシが!? うわぁんっ、久世ちゃぁんっ!? アタシの心の
「す、すみません、一色店長。僕たちも二四日の夜は約束をしていて……」
「うえええええっ!?」
心の拠り所にも裏切られ、衝撃のポーズを取ったまま石化する一色。そんな彼女に構わず、新庄は「あー」と思い出すように呟く。
「そういや昨日、
「はい。といっても三人とも
「ふーん? その時間からでもイルミネーションくらいなら見に行けそうだけどな。この辺で高校生に人気なとこっていうと……やっぱ中央公園とかか?」
「ああ、毎年すごく綺麗だって学校の友だちも
「へえ、じゃあせっかくだから行ってきたらどうだ? 〝
「あはは、確かにそうですね」
新庄の言葉に苦笑に近い笑みを浮かべた真太郎は、おぼろげな当時の記憶を探るように瞳を細める。
「中央公園のイルミネーション、か」
確かにあの時、あの場所には何物よりも美しい輝きが
それ以外の記憶が霞んでしまうほど
――彼は今でも、忘れることが出来ない。
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