第四六編 お誘い
放課後になり、一年生フロアに目的の人物の背中を見つけた俺は、善は急げとばかりに声を掛ける。
「おーい、
「あ?」
イケメン野郎こと久世
「お、お前はまさか――【
「誰が【
「『泣く子も黙るほど凶悪な
「『一致するッ!』じゃねえよ。なんで初対面ヅラなんだよ。しかも全部『顔が怖い』としか言ってないじゃん」
「事実だろうが」
俺はこの女とも一応幼馴染みの関係だが、
「今だってお前、殺意を込めた目で俺のほうを振り向きながら『あ?』って言っただろ」
「別に殺意なんか込めてないよ。ただ『ヒトが話してる最中に割って
「
「……バイバイ、小野くん――また明日」
「怖ッ!? やっぱ
「いや知らねえよ。別に私は怖くしようなんて思ってないし」
「お前、今『来世』と書いて『あした』と読ませただろ! 俺には分かるぞ!」
「言い掛かりにもほどがあるだろ」
怯える俺に、半眼を作るギャル馴染み。相変わらず俺のことをバカだとでも思っていそうな表情だった。バチバチと視線の火花を散らす俺たちを見て、久世が「ま、まあまあ」と
「……まあいいや、俺は久世に用があって来たんだ。もう下がってよいぞ、金山」
「アンタは王様か。というかアンタが乱入してきたせいで、まだ私の話が済んでないんだっつの」
「ああ?
「えっ? ま、待ってよ、僕はまだどっちの話も聞かされてないんだけど……」
「何言ってんの? 私の話が
「ええっ? いや、あの……」
「てめえ久世!?
「なんで僕が怒られてるの!?」
理不尽な怒りをぶつけられて嘆く久世をよそに、金山が「じゃあ聞くけど」と言葉を続ける。
「アンタ、久世くんになんの用があるわけ? どうせバイトのシフトとか、そういうしょうもない話でしょ」
「アホか、そんなしょうもない話でわざわざ久世なんかに会いに来るかよ。時間の無駄だ」
「小野くんのなかで
「ふうん。じゃあ言ってみなよ、アンタの用件を」
「ああ、聞いて驚け。俺は久世を映画に誘いに来たんだ」
「結局しょうもない話じゃん」
俺がお嬢様からもらった
「珍しい……というより初めてだね? 小野くんが僕を遊びに誘ってくれるなんて」
「ああ、まあ……たまにはな」
どことなく嬉しそうなイケメン野郎の姿に、打算一〇〇パーセントで彼を誘っている俺は若干の後ろめたさを覚える。そういえば
「……ほら、アレだよ。
「お、小野くん、僕たちのために……!?」
後付け二〇〇パーセントの「言い訳」をあっさり信じた久世は、ジーン、と感極まった様子で口元に手を当てていた。ここまでくると、申し訳ないとかそういう感情を通り越して「こんな適当な言葉を信じるなんてバカか
「じゃあ、僕のほかに
「ああ、そのつもりだ。だから悪いな、金山。この
「いや、別に行きたいとか言ってないだろ。それに……」
「? 『それに』?」
「……いや、なんでもない」
なにか言いかけた金山は、ふるふると首を横に振ってから話調を転換させる。
「まあ丁度いいんじゃない? 久世くんに話そうとしてたことだけど、今日は第二体育館が点検で使えないから演劇部も
「えっ、そうなのかい? 部長から今日は
「へえ、
「あ、あはは……そう言われても仕方ない出席率だけどね」
「朝練と昼練はほぼ毎回参加してるんだからいいでしょ。まあそういうわけだから、映画でもなんでも行ってきなよ。……桃華も、今日は暇してるはずだしね」
チラッ、と二組の教室があるほうへ目を向けた茶髪ギャルが呟く。彼女の一連の様子にどこか違和感を覚える俺だったが、その正体がなんなのか突き止めることは叶わなかった。
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