第110話 【狂剣の教え・2】
「ねえ、アルフ君って本気で怒った事ある?」
「怒るですか?」
訓練が始まって一時間程経った頃、休憩時間になってベンチに座るとフローラさんからそんな事を聞かれた。
「最近は無いですかね? 昔、まだ俺が小さい頃にクラリスの事を馬鹿にした相手に怒った事はありますけど、それ以外は無いと思います」
その時の事はあまり覚えてないし、その現場を見ていたクラリスもその時の事は覚えてないと言っていた。
「そこでもクラリスちゃんの事が出るって、本当にアルフ君は妹想いなのね」
「まあ、家族で唯一信頼できる相手でしたからね。それで、何でそんな事を聞いたんですか?」
「実は私の使う剣術って、感情が高ぶればより強くなるのよ。だから感情の中で一番上がりやすい怒りをコントロールできるなら良いかなって思ったんだけど、アルフ君はそもそも怒らない感じね」
「まあ、そうですね。そういう風に躾けられたというのもありますけど、感情が乱れる程に怒った事とかは無いですね」
ハッキリとフローラさんに伝えると、他の案を探さないといけないわねと言って考え始めた。
その後、特に良い案は思い浮かばず訓練を再開して、夕方まで俺は剣術を教えて貰った。
「ねえ、アレン君。アルフ君の物覚えの早さって普通じゃないわよね?」
「当たり前だろ、アルフの覚えが早いだけで本来はあんなに早さで色々と覚える訳ないだろ」
一日の訓練を終え、師匠が食堂で食事をしていたのでフローラさんと一緒に師匠と食事をする事にすると。
フローラさんはそんな事を聞き、師匠は真顔で言葉を返した。
「えっ、俺ってそんなに変ですか?」
「変では無いが、教えた事を理解する能力がアルフは優れてる。俺もアルフ以外に弟子を取った事はないが、今まで色んな奴を見て来てその誰よりもアルフは物覚えが良い」
「私もそう思うわ。こんな才能あふれる弟子を今まで一人占めしていたなんて、アレン君は酷いわね~」
「そもそもアルフの事は数ヵ月前の時点で、ルクリア商会の者達には通達が行ってるはずだ。それを見なかったのはお前だろ? それにお前が教える前は、剣術はエリスさんが教えていたんだから一人占めもしてないだろ」
フローラさんの言葉に対し、師匠は呆れた表情で論破すると正論を言われたフローラさんは悔しそうな顔をしていた。
「昔からその嫌味な性格は治らないわね……」
「お前が馬鹿なだけだろ? 少しは考えてから喋れ」
何となくだけど、師匠とフローラさんって合わないんだろうなとは思ってたが、ここまで仲が悪かったのか。
今にも二人が言い合いになりそうな雰囲気でいると、食堂にエリスさんが現れてフローさんは一瞬で大人しくなった。
「あら、フローラちゃん謹慎中なのに喧嘩を起こそうとしていたかしら?」
「そ、そんな事はありません! ただちょっと、アレン君と意見が合わなくてほんの少し言い合いになっていただけですよ」
「ふ~ん……まあ、いいわ」
そうエリスさんは言うと、食堂のおばちゃんから食事を受け取り俺の隣に座った。
「アルフ君、フローラちゃんの剣術はどうだったかしら?」
「そうですね。感情云々という話を聞いた感じですと、俺には合わない感じもしましたが戦い方自体は動きやすいなと思いました」
「ふふっ、正直ね。まあ、でもフローラちゃんからも言われたと思うけど、私達の剣術を覚えて新しい剣術にする事が今のアルフ君の目標ね」
「はい。その為に明日もまた訓練頑張ります」
その後、エリスさんから訓練での事を聞かれながら食事をした。
食後、風呂に入り部屋で休んでいると、クラリスが部屋にやって来た。
「クラリス。もう普通に受付で仕事をしてるのに、まだこの勉強時間は必要なのか?」
「必要だよ。受付に入ったと言っても、覚えないといけない事は沢山あるんだよ? それに折角の兄妹だけの時間を、兄さんは必要じゃないの?」
軽い気持ちで勉強時間は必要ないかもと言うと、クラリスは突然涙を浮かべてそう聞いて来た。
「わ、悪かった。軽い気持ちで言っただけだから、そんな泣きそうな顔で言わないでくれよ!」
必死に弁明すると、クラリスはチラッと俺の方を見て来た。
……って待てよ? クラリスは確かに涙を流しているように見えるが、目は全く赤くなってない。
「クラリスちゃん、もしかしてだけど魔法で涙を流したように見せてたのかな?」
「兄さんが酷いを事言うからだよ」
「……全く、昔はもっといい子だったのにな」
「今も良い子だよ?」
笑みを浮かべて、クラリスはそう言った。
それから勉強を終えた後、クラリスは部屋を出る際に「兄さん、本当に勉強時間止めるの?」と心配した様子で聞いて来た。
「クラリスがこの時間を俺が思っている以上に、大切にしてる事は分かったから無くさないよ。明日も来て良いよ」
そう言うと、クラリスは嬉しそうな表情を浮かべて「兄さん、お休み!」と言って自分の部屋に戻っていった。
その後、俺は自室に戻りベッドに横になった俺は、一日訓練していたからか直ぐに眠りについた。
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