第101話 【冒険者活動・1】


 師匠の紹介してくれた鍛冶屋は、少し通りから離れた所にあった。

 外から見た感じ、入り辛い雰囲気が漂っていた。


「し、師匠。ここが本当に師匠のお世話なってる鍛冶屋なんですか?」


「少し怖い感じがすると思うが、ここの店主の腕は本物だ。気に入った相手にしか装備を作らない、偏屈な奴だがな」


「誰が偏屈だ」


 店の前で師匠と話していると、店の扉が開いて中からドワーフ族のおじさんが出て来た。

 背丈は俺よりも少し小さいが体格はガッチリとしていて、右手には仕事道具と思わしきハンマーを持っていた。


「そいつか? 前に言ってた弟子ってやつは?」


「初めまして、師匠の弟子のアルフレッドと申します」


「ほ~、弟子はちゃんと礼儀正しい奴なんだな。俺はドワーフ族の鍛冶師ドゥ・ヴォルグだ。よろしくな」


 ヴォルグさんはそう言うと、ゴツゴツした手を差し出し俺はその手を握り握手を交わした。


「それで、何でヴォルグは外に出て来たんだ? この時間はいつも鍛冶場にこもってるだろ」


「俺だって偶には、外の空気を吸いに外に出るんだよ。それで、丁度外に出ようと思ったらお前等の声が聞こえんだ。それで、話を少し聞いていたが俺に弟子の装備を頼みに来たのか?」


「そうだ。お前の腕は俺の知る鍛冶師の中でトップだからな、弟子の為に良い鍛冶師を紹介するのは師匠の務めだろ?」


「冒険者の師弟関係なんて知らんが……まあ、アルフなら良いだろう。見た感じ、ちゃんと努力出来る奴みたいだからな」


 それから店の中へと入ると、早速俺の身体測定が始まった。


「あの、そう言えばさっき〝努力出来る奴だから良い〟と仰ってましたが、何か理由があるんですか?」


「簡単な話だ。俺は努力が出来ない奴には、俺の装備を使わせたくないんだ。偶にいるんだよ。装備だけいい物を使って、自分の力が無い奴が……俺はそういう奴等が嫌いなんだ」


 ヴォルグさんの考え、何となくだけど俺も理解は出来る。

 装備だけで力を付けようと思えば、お金を沢山使えばある程度の強さは保証できる。

 だけどそんな事をして得た力は、俺もちょっと嫌いだ。


「その考え、俺も分かります。装備だけよくして自分自身が強くならないと、いざという時に戦えませんからね」


「おっ、アルフは分かってる奴だな。やっぱり、俺の勘は正しかったみたいだな」


 そうヴォルグは笑顔を浮かべて言うと、身体測定が終わったので武器を見て回る事にした。


「防具はオーダーメイドになるが、武器の方はどうする? こっちもアルフに合わせた武器を作る事も出来るぞ?」


「う~ん……師匠。どうしたらいいですかね?」


「まあ、俺としては全部オーダーメイドで作った物が良いと思うが、今すぐに剣は変えておいた方が良いから、予備用として使う剣を普通に売られてるのを買うのはどうだ? 普段使い用を別個で注文する位には、アルフも金はあるだろ?」


「そうですね。お金はあるんですけど、いきなりこんな沢山買い物して大丈夫ですかね……」


 今までの人生で個人で持ってるお金は今が一番多い。

 しかし、その貯金の殆どを装備に投資しようとしてる現状に対し、少しだけ迷っている。


「今のアルフはどちらかと言えば、本人は強いのに装備が劣ってる状態だ。さっき、身に余る装備を使うのは駄目だと言っていたが、悪すぎても逆に装備の状態が直ぐに悪くなるから、俺は買っておいた方が良いと思うぞ」


「店主だからって意見じゃないが、確かにアルフの剣の状態はもう大分使い込まれてるから、新しいのに変えておいた方が良いだろう。それに、上位の冒険者は予備の装備も持ってる奴のが多いから、二つ武器を買うのも良いと俺は思うぞ」


 師匠とヴォルグさんからそう言われた俺は、迷ったが「わかりました」と返事をして、予備の剣とオーダーメイドの二つ買う事にした。


「注文の武器の方だが、そっちも片手剣で良いんだよな?」


「はい。片手剣でお願いします」


「分かった。盾はどうする? 本来、剣士は片手剣を使う場合は盾を装備しているが」


「う~ん……俺の場合、魔法も使って戦うので盾は必要ないと思うんですけど、師匠はどう思いますか?」


 今の俺の戦い方から盾は必要では無いが、一応師匠に確認をした。


「そうだな、アルフの戦い方だと盾はいらないな。その分、防具の方に防御を任せる形になるな」


「了解。魔法使いって事も考慮して、ちょっと考えてみるよ」


 それから予備の片手剣と、オーダーメイドの装備の代金を払い、俺と師匠は店を出た。

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