第88話 【規格外の兄妹・4】


 それから人の視線を感じつつも耐え抜き、ようやく昼休みとなった。

 レオルドは朝言いに来た時通りに俺を迎えに来たので、俺はアリスに「行ってくるね」と言って教室を出た。

 そしてレオルドについて行った俺は、とある部屋に案内された。


「ここって何に使われてる部屋? やけに私物が多いけど……」


「まあ、言ってしまえば僕の私室かな? この学園には多くの生徒が入学していて、王族や一部の名の知れた貴族は人の視線を集めやすいでしょ? アルフも最近は経験してるから分かるけど、人の視線はかなり気持ちのいい物では無いんだ」


「まあ、確かに……今日は尚の事、それを感じたよ」


「それでそういった人達に特別措置として、この部屋を使う事が許されているんだ。まあ、この部屋を使うには生徒として優秀じゃないと使えないから、本当にごく一部の人間しか部屋は与えられないんだよ」


 成程、そんな特典も成績優秀者には与えられるのか……。


「多分、アルフも申請したら使わせてもらえると思うよ」


「いや俺は言いかな、学園に居る間は基本的にアリスと一緒に行動していて、基本的に教室からは出ないからこの部屋まで歩いて来る方が疲れそうだ」


 レオルドの言葉に俺はそう返すと、この部屋に呼んだ理由をレオルドは話し始めた。


「実はアルフに頼みたい事があるんだ」


「頼み?」


「アルフが放課後、ルクリア商会の寮で訓練をしてるのは聞いて知ってる。もしよければ、僕もその訓練に参加させてほしい」


 レオルドはそう言いながら、俺に頭を下げた。


「えっ、訓練に参加? 別にそんな改まってお願いしなくても、俺は別に良いけど? でもレオルドが来るってなると、陛下とエルドさんの二人の許可が必要じゃない? 後はまあ、アリスが緊張するかもだからもしかしたら時間を分ける事になるかもしれないね」


「……えっ、訓練に参加してもいいの?」


 来ても良いと言うと、レオルドは驚いた顔をしてそう聞き返してきた。


「うん。別にレオルドは友達だし、俺としては教えられることがあるなら教えても良いけど、流石に王子様を俺の独断で寮に連れてはいけないし……」


「いや、迷う所はそこなの? ほら、教える相手が増えて負担が増えるとか思わないのか?」


「ん~、人に教える事が負担だとは思わないよ? 人に教える事で新しい気づきも出来るし、人が多い方が楽しいからね。まあ、アリスがレオルドに緊張したら皆では無理だけど、陛下達から許可が下りたなら週に1.2回レオルドとだけの訓練日を作っても良いだろうからね」


 アリスが緊張するんであれば、そうなるからなと話していると、レオルドは突然笑い出した。


「どうしたのレオルド?」


「いや、アルフは本当に良い人すぎるなって思ってね」


「そりゃ、友達が頼ってくれたんだからそれに応えようとしただけだよ。なに、さっきのは嘘だったの?」


「いや、訓練をつけて欲しいってのは本当だよ。後、父上とエルドさんの許可だけど既に取ってあるんだ。後は、アルフが許可を出してくれるかくれないかで、久しぶりに二人で話したいと思って今日呼び出したんだ」


 昔から用意が良いレオルドの事だから、もしかしたら既に許可を取ってるんじゃないかなと思っていたけど、本当に取っていた。


「レオルドも昔から変わらないね。その用意周到さは」


「これでも王族だからね。先を見据えて行動をしなさいって、そう教えられて育ってるからね」


 自慢気にレオルドはそう言うと、今日の学園が終わったら別の馬車で商会に出向いてアリスと顔合わせをすると言った。


「エルドさんからもアルフが許可を出しても、アリスさんが無理そうなら考えてくれって言われてるから、もしその時点で駄目だったらさっきの日程をずらすやり方になるけど、それでもアルフは大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。アリスの訓練も大事だけど、レオルドも大事な友達だからね」


「ありがとう。アルフ」


 俺の言葉に、レオルドは笑みを浮かべてそう言った。

 その後、一緒に昼食を食べる事になり、レオルドは部屋に食事を届けて貰い、俺はいつも通り弁当を取り出して食べ始めた。


「アルフ。その弁当だけど、本当に自分で作ったの?」


「そうだよ。口に合うか分からないけど、食べてみる?」


「良いの!? じゃあ、その卵焼きを——」


 食べてもいいという言葉を待っていたのか、レオルドは弁当に何個か入っている卵焼きを一つ食べた。


「ッ! めちゃくちゃ美味しい! アルフって、こんなに料理が得意だったの?」


「商会に行ってから勉強したんだよ。口にあったみたいで良かったよ」


「口に合うってレベルじゃないよ? 下手したら、王城で食べてる料理よりも美味しかったかもしれない……冷めていてあの美味しさという事は、出来立てはもっと美味しかった筈だ……」


 レオルドは俺の事をジッと見つめ「本当に冒険者じゃなくて、料理人になるつもりじゃないの?」と聞いて来た。


「冒険者だよ。最近は、レベル上げも頑張ってるんだからね? 料理は、まあ趣味の一つだよ」


「趣味でこのレベルって……」


 その後、満足出来なかったレオルドは料理の交換をお願いして来た。

 俺はいつも食べてるし、レオルドが欲しいならと思ってその日の弁当はレオルドに渡し、レオルドに届けられた料理を俺が食べた。

 それから食事を終えた後、少しだけレオルドと雑談をしてから教室に戻って来た。

 そしてその日の学園生活を終わった後、俺はアリスと馬車で寮に戻ると、既にレオルドの馬車も到着していて顔合わせ会を行う事になった。


「はじめまして、レオルド・フォン・ベリアナです」


 顔合わせ会にはエルドさん、俺、アリス、レオルドの4名が参加する事になり、会が始まって直ぐにレオルドはアリスに自己紹介をした。

 しかし、その自己紹介をされたアリスは挨拶を返せず、椅子に座ったまま微動だにしていない。


「アリス。ご挨拶をしなさい」


「あっ! は、はじめ、まして! あ、アリス・ルクリアです……」


 エルドさんからボソッと指摘をされたアリスは、ピンッと背筋を立ててレオルドに挨拶を返した。

 う~ん……この感じ、クラリスみたいに直ぐには打ち解けるのは難しそうだな……。


「お、お爺ちゃん。何で、ここに王子様が? それに何で私がこの場に居るの?」


「それについては儂から説明しよう。レオルド王子は、アルフの友人という事はアリスも知ってるな?」


 エルドさん言葉にアリスは、頷いて「知ってます」と言った。


「レオルド王子は魔法の伸びに悩んでいるらしくてな、それの突破口としてアルフに鍛えて貰いたいと打診が来た。しかし、アルフはアリスやクラリスに訓練をつけていて、学園が休みの日は自身の訓練を行っていて時間が無い。そこで、今アリス達が訓練をしている時間にレオルド王子も参加したいと申し出をされた」


「……お、王子様と一緒に訓練?」


 アリスは緊張のあまりか小さく震え、その様子を見たレオルドは不安気な表情を浮かべていた。


「だが、この訓練もアリス次第ではレオルド王子とアリス達が一緒に訓練する事は無い。しかし、その場合はアリス達の訓練日を削って、レオルド王子とアルフが訓練をする日を設ける事になる」


「訓練日がこれ以上減ったら、一緒に居られる時間が……」


 エルドさんの話を聞いたアリスは顔を下に向け、聞き取れない程の小さな声で何やらぶつぶつと言うと。

 バッと顔を上げて「一緒に訓練しても大丈夫!」と、いきなり大声でそう言った。


「本当に良いのか? レオルド王子には人見知りは発揮という事か?」


 アリスが許可を出した事に俺達は驚き、エルドさんは再確認と為にもう一度聞いた。


「ううん。王子様には今も目を合わせられない位、緊張してるよ。でも、それを言うと学園でも緊張する相手が居るけど、勉強や訓練に集中してるから王子様が参加しても訓練に集中すれば大丈夫だと思うの」


「確かにそう言われたら、学園ではアルフのおかげで勉強を出来るようになったからな……分かった。たがアリスが無理そうなら、いつでもいうんだぞ?」


 エルドさんはアリスにそう言うと、優しくアリスの頭を撫でた。

 その後、レオルドが訓練に参加するのは明日からで、顔合わせ会で疲れたのかアリスは今日の訓練はお休みにして欲しいと言って来た。

 まあ、あんなに緊張していたら疲れもするか。


「分かった。それじゃ、今日はゆっくりと休むんだよ」


「うん。アルフ君、おやすみなさい」


 そう言ってアリスはいつもはエリックさんが迎えに来るが、少し早めに帰るという事でマリアさんが迎えに来て、俺はアリスを見送った。

 その日はアリスは居ないが、クラリスと夕食まで訓練を行い。

 明日も学園があるから早めに寝た方が良いのだが、クラリスの勉強に付き合ってから俺は寝た。

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