第56話 【アリスと魔法訓練・4】


 それから一日の学園生活を終えて、商会に帰宅した俺達は訓練場には直行せずにエルドさんの所に向かった。

 しかし、俺達が行くとエルドさんは仕事の最中だったので、別室でエルドさんの仕事が終わるのを待つ事にした。


「すまんな、待たせた。それで、どうしたんだ?」


「すみせん。お忙しい中、時間を取らせてしまって」


 最初に俺はまずエルドさんにそう謝罪をして、今朝アリスとの会話の事を伝えた。


「訓練を始めて二日でスキルが現れたのか……それはおかしい現象だな」


「そんなにおかしい事なの? アルフ君も同い歳だけど、沢山スキル持ってるよ?」


「アルフの場合、特別なスキルがあるからな。アリスはアルフの様に成長系のスキルを持っておらんのに直ぐにスキルが現れた。そこがおかしいが……」


 エルドさんは何故、アリスがこんなにも早くスキルを獲得したのか分からず悩んでいた。


「もしかしたらですけど、俺の【経験値固定】が何かしら効果を発揮したのかも知れません。スキルの中には、他者にも影響を及ぼすスキルもあると聞いた事がありますから、可能性としてはゼロでは無いと思います」


「ふむ……確かにそれが一番妥当な線だろうな。一先ず、今回の事は儂の方からアレンに伝えておく、アレンなら何かしら気付くかも知れんからな」


 そうエルドさんが言った後、俺とアリスはエルドさんに時間を作ってくれたお礼を言って部屋を出て訓練場へと向かった。

 本当だったら今日も同じ内容の訓練をしようとかと思っていたが、俺が想像していたよりも早くにアリスは【魔力制御】のスキルを獲得した。

 だから今日から、別の訓練方法をアリスにやってもらう事にした。


「今日は別の訓練をアリスにはしてもらうね」


「別の? 昨日までの桶の中で水を動かすんじゃないの?」


「うん。あれは【水属性魔法】のスキル上げ兼【魔力制御】のスキル獲得の為にやってもらっていたんだけど、先に【魔力制御】のスキルを獲得したから、それなら少し難しい訓練方法を試してもらおうと思ってね」


 そう俺は言って、いつも使ってる桶を二つ用意して一つには水をギリギリまで入れた。


「アリスには今から、この桶に入った水をもう一つの桶の中に移し替えて欲しい。最初は少しずつでも構わないから、丁寧にしていって慣れてきたら移す量を増やして行って、最終的には一回で移し替えれるようになってほしい」


「なんだか難しいそうだけど、やってみるね」


 説明を聞くと、アリスは早速訓練に取り掛かった。

 既に【水属性魔法】と【魔力制御】のスキルを持っている為、この訓練方法が一番効率が良いやり方だ。

 実際、この訓練方法は自分で考案して師匠に見てもらうと、かなり効率が良い訓練だと評価してもらった。


「桶の外に水が出るから、全部を綺麗に移し替えるのさえ難しいね……」


「それを綺麗に移し替えれるようになっていけば、より魔力の制御が出来るようになって魔法の扱いが今より格段に良くなるんだ。だから、少し難しいけど頑張って」


「うん。頑張る」


 アリスは俺言葉にそう返事をすると、それから集中して訓練を続けた。

 そんなアリスを俺は近くで見守りながら、俺は【土属性魔法】のスキルレベル上げを行った。

 そうして訓練は順調に続き、訓練を始めてから五日が経った。

 俺の予想よりも早くに成長したアリス事をエルドさん達に見せようと、俺はルクリア家の方々に成果報告の場を作ってもらった。

 成果報告はルクリア家が見守る中、寮の訓練場で行われる事になった。


「アリス。緊張はしなくて大丈夫だから、いつも通りだよ」


「はい」


 アリスは俺の言葉に返事をすると、深呼吸をして魔法の構築を始めた。

 以前までならかなり時間が掛っていたが、アリスは数秒で魔法を構築し、用意していた的に向かって魔法を放った。

 訓練では魔法の構築時間、魔法の制御を主に訓練していたアリスは的のど真ん中に魔法を命中させた。

 そんなアリスの魔法を見たルクリア家の人達は、アリスの成長を見て驚いていた。


「魔法が苦手だと、泣いていたアリスがこんなに上手に魔法を……」


「アルフ君、本当にありがとう……」


 アリスが成長した事をルクリア家は喜び、そしてそんなアリスを育てた俺に対してルクリア家の人達は感謝の言葉を並べた。

 アリスは今まで心配かけていた家族に成果を見せる事が出来て、アリス自身嬉しそうに家族と話していた。

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