第36話 【悩みの解決に向けて・4】
あの後、一時間程準備に時間が掛ったが無事に王都を出発した。
エルドさんにも一応、ウィストの街で活動をしてくると伝えると、試験日の前日には戻ってくるように言われた。
「さてと、まずは今日は先に俺の家を紹介しておくか。アルフの事を嫁にも伝えないといけないしな」
王都を出発して数時間後、ウィストの街に到着すると師匠はそんな事を言った。
「……えっ、師匠。結婚してたんですか!?」
師匠の衝撃の発言に俺は驚いた反応した。
「言って無かったか?」
「聞いてませんよ。えっ、それじゃお嫁さんが居るのにずっと俺に時間を使ってくれてるんですか?」
「まあ、仕事の一つだし、弟子にするって言ったのは俺だからな。アルフの面倒を見るのは当然だろ?」
師匠はそう言うと、それから師匠の自宅へと移動して来た。
師匠の家は近くの家に比べて少し大きく、家の前には門番をしている人も居た。
「師匠って、貴族じゃないですよね?」
「門番を見てそう思ったのか? あの兵士達は俺の嫁を守る為に俺が雇ってるんだよ。エルドさんに頼まれて、家を空ける事が多いから嫁の安全の為にな」
「そうだったんですね。師匠って、お嫁さん想いなんですね」
「まあな、そうじゃなきゃ結婚とか俺はしないつもりだったからな」
少し照れた顔をしながら師匠はそう言い、俺を家の中に連れて行った。
「あら、アレン君? 今日は早いね。って、誰か連れて来たの?」
「ほらっ、前に言ってただろ俺に弟子が出来たって、今日から暫くこっちで活動するから家で面倒を見る事にしたんだ」
「はじめまして、アレンさんの弟子にしてもらいました。アルフレッドです」
「あら、はじめまして。私はアレンの妻のリアナよ。よろしくね」
リアナと名乗った師匠のお嫁さんは、この辺では珍しい黒髪黒目で綺麗な人だった。
それから俺は師匠に家の中を案内してもらい、俺がこれから数日間暮らす部屋も案内してくれた。
「こんないい部屋を使っても良いんですか?」
「良いよ。客室として一応作ったは良いけど、家に殆ど人を呼ばないから使ってなかったからな。アルフ専用の部屋だと思って、自由に使っていいからな」
「いや、流石にそれは図々しいのでちゃんと綺麗に使わせてもらいます」
師匠の言葉に俺はそう言って、一通り案内を終えてリビングに戻ってくるとリアナさんが淹れてくれたお茶で休憩をする事にした。
「アレン君が気に入った子が出来たって言ってたから、どんな子なのか気になってたけどアレン君が気になるのも分かるわ。アルフ君、とんでもない才能を秘めてるわね」
休憩をしていると、リアナさんは俺の顔をジッと見つめそんな事を言った。
「リアナさんも師匠と同じで力を見る事が出来るんですか?」
「ううん。私の場合は、勘ね。この人は、強くなるだろうなって勘は大体あたるのよ。アレン君とはじめて会った時も、この人は強くなるって感じてたら本当に凄い速さで成長していて当時はいつも驚かされていたわ」
「あの頃は強くなることに貪欲だったからな」
昔の事を思い出しながら、師匠はそう言うと。
リアナさんは「あの頃のアレン君は獣の様だったものね」と笑みを浮かべながら言った。
「獣って、酷い言われようだな」
「あら、そうかしら? 目つきが怖いアレン君が強くなろうとしてる姿が獣見たいって、私や他の人達も思ってた事よ」
「マジでそう思われてたのか?」
リアナさんの言葉を聞き、師匠は確認する様に聞くと。
「本当の事よ。信じられないなら、エリスさんに聞いてみるといいわよ」
「……」
師匠はリアナさんからそう言われて、少しだけ落ち込んだ。
「今の話の流れ感じからして、リアナさんと師匠って商会で出会ったんですよね。でも、リアナさんは今は商会で働いてないんですか?」
「まだ働いているわよ。だけど、今は休暇中なのよ」
リアナさんはお腹を触りながらそう言い、俺はその行為で察したが確認の為に聞く事にした。
「もしかして、妊娠中なんですか?」
「そうなのよ。予定では、一ヵ月後の予定よ」
「そうなんですね。おめでとうございます」
そう俺はリアナさんと会話をしていて、ふと俺は今は師匠を独占している事を思い出し、罪悪感を感じた。
「師匠。奥さんが妊娠してるのに、俺の訓練に付き合うのって大変じゃないんですか?」
「別にアルフが気にする事じゃないから、心配しなくても大丈夫だぞ。ずっと離れてる訳じゃないからな、俺が居ない時は門番やリアナの友達。それに商会の人間も様子を見に来てくれてるからな」
「ええ、アルフ君の事はエルドさんからも説明をされてるから大丈夫よ。今は私の事は気にせず、強くなる事に集中して欲しいわ」
師匠とリアナさんは、心配する俺に対して気にするなと言ってくれた。
しかし、俺としては妊娠中の奥さんが居るのに師匠を独り占めするのは申し訳ない気持ちになった。
それから俺は、早く強くなって師匠が奥さんとの時間を確保できるように頑張ろうと気合を入れ直した。
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