第29話 【ルクリア商会の動き・1】
冒険者登録から数日が経ち、俺は冒険者ギルドの事を忘れて訓練を続けている。
俺が冒険者登録を終えて商会に戻って来てから、ルクリア商会はいつも以上に忙しそうにしている。
俺も何か手伝える事は無いか、師匠に聞いたが。
「今は訓練がアルフのやる事だ」
と言われて、俺は黙々と訓練に集中している。
「おばちゃん、何か新しい事分かった?」
「いや~、それが一昨日から変わらないのよね。何か決め事をしてるみたいだけど、私達も流石にそこまで詳しく調べられないから」
「ごめんね。アルフ君」
師匠達から仲間外れにされている俺は、商会が何をしているのかの情報は食堂のおばちゃん達経由で教えて貰っている。
これまで聞いた内容は、冒険者ギルドを仲介しないで素材や冒険者への依頼をするやり方を考えているらしい。
「でもここ最近、商業ギルドの幹部の人達が何人も来てるみたいだから、もしかしたら商業ギルドも巻き込んで何かするんじゃないかしら?」
商業ギルド、それは冒険者ギルドと並んで有名なギルドで多くの商人がそこで登録して商売をしている。
商会の立ち上げ等も商業ギルドを通して行う為、エルドさんも商業ギルドの会員として登録している。
「商業ギルドを巻き込むって、本当に大事に発展してるな……」
おばちゃん達から情報を貰った俺は、朝食を食べながら自分のせいで色んな事が起こっている事に対して少し不安を感じた。
元を辿れば、冒険者ギルドから嫌な扱いをされたからだけど。
それをされたからと数ヵ国から認められている商会と、更には商業ギルドから敵対される冒険者ギルドが少し可哀想に思えて来た。
「アルフ君、こっちに居たのね」
「エリスさん、どうしたんですか?」
「エルド様からアルフ君を連れて来るように言われたのよ。この後、会議があってそこにアルフ君も出席するようだそうよ」
「俺が会議にですか!?」
エリスさんの言葉に俺は驚き、朝食を直ぐに食べ。
食堂をエリスさんと一緒に出て行き、商会の建物の会議室へと向かった。
そして会議室に着き、中に入ると既に会議室には多くの人達が集まっていた。
その中には勿論、師匠も居て俺の顔を見ると「アルフも呼ばれたのか」と声を掛けてくれた。
「はい。ついさっき、エリスさんに呼ばれてきたんですけど……俺、本当に会議に出席して大丈夫なんですかね?」
周りを見渡すと、商会でも重役を担っているような人達ばかりで俺は場違い感を感じていた。
「エルドさんがアルフを呼んだって事は、出席していいと思うぞ。そもそも、この話の始まりはアルフだしな」
「そ、それもそうですけど……」
「あれ、もしかしてその青年がアレン君の弟子かな?」
俺と師匠が話していると、遠くの方から近くに寄って来たエルフ族の方からそう声を掛けられた。
声を掛けられるまで、俺はその人の容姿が整っていてスラッとした井出立ちから女性かと思っていたが、そのエルフ族の方は男性だった。
「そうですよ。アルフ、この人はルクリア商会の素材管理部の長のラルフさんだ」
「初めまして、アルフレッドです」
「うん。話は聞いてるよ。よろしくね」
ラルフさんと紹介されたエルフ族の方は、親し気にそう言って握手を交わした。
「ねえ、アレン君。君の弟子って、珍しいスキルを持ってるんだよね? どうかな、僕に見せてくれないかな?」
「ずっと忙しそうにしていたので声を掛けれませんでしたが、ラルフさんから頼まれるとは思いませんでしたよ」
「ふふっ、ここ数年新しいスキルと出会ってなかったからね。話を聞いた時点で聞きに来たかったんだけど、どうしてもしなきゃいけない仕事があってこんなに遅くなってしまったんだ」
ラルフさんは少し残念そうに言うと、師匠は俺に「アルフ。ラルフさんにステータスを見せてやれるか?」と聞かれた。
俺はそんな師匠に「大丈夫ですよ」と言い、俺は自分のステータスをラルフさんに見せた。
「他のスキルは見た事があるけど、アルフレッドが貰ったっていうこの【経験値固定】は初めて見るよ……」
ラルフさんはワクワクと楽し気にそう言うと、バッグから大きめの本を取り出した。
「あの、何をされてるんですか?」
「ラルフさんは素材管理部の長って顔とは別にもう一つ、学者としての顔を持ってるんだ。スキルの知識なら、この国でラルフさん以上に知ってる人は居ないと俺は断言できる」
「アレン君からそう言われると、なんだか照れるな~。ただ僕は自分の知りたいから欲が強すぎて、スキルについて色々と調べていたらいつの間にか知識が付いてたんだよね」
ラルフさんは笑みを浮かべながらそう言うと、そろそろ会議が始まりそうだった為、俺のスキルについては会議後に話す事になった。
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