第4話 【追放・4】


 エルドさんの仕事部屋に移動してきた俺達は、まずエルドさんは女性の事を紹介してくれた。

 女性の名はエリス。

 〝ルクリア商会〟の副会長であり、長寿族と呼ばれてるエルフ族の方だと紹介された。

 種族に関しては、見た目から何となく察する事が出来ていた。

 エリスさんは長い金色の髪結んでおり、耳が少し尖っていた。


「それでエリス。この子は、儂の命の恩人のアルフレッドだ」


「……エルド様。命の恩人というのは、どういう事でしょうか?」


 命の恩人というフレーズに対し、何があったのか詳しく説明を求める彼女に対してエルドさんは言い難そうな顔をした。

 そんな顔をして当然だ。

 だって、死にそうになった原因が買い食いして食べていた串肉が原因だなんて、そんな人に言いふらせない。

 だがそれを言うまで、エリスさんは逃がさない様子だった。

 エルドさんは遂に諦めたようで、深く溜息を吐いて話し始めた。


「……串肉を喉に詰まらせたんだ」


「……え?」


「だから、串肉を食べていたら肉が喉に詰まってしまって死にそうになったんだ! そこを通りかかったアルフレッドに、水を運んで来て貰って助けてもらったのだ! これでよいか!」


「は、はい!」


 エルドさんの勢いにエリスさんは、後ずさりしながら返事をした。


「……って、待ってください。今、串肉を買い食いしたと言いましたか? 記憶が正しければ、買い食いはしないとシエナ様とお約束してませんでしたか?」


「……なんの事だ?」


「わかりました。ご確認の為、後程シエナ様にご連絡をしますね」


「まっ、待つんだ! シエナには言うんじゃないっ!」


 シエナという人の名前を聞くと、エルドさんは慌てた様子でエリスさんを止めようとした。

 しかし、止める前にエリスさんは部屋から出て行ってしまった。

 シエナさんという人は、エルドさんにとって怖い人なのかな?


「あの、エルドさん。大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。ただ家に帰ったら、妻から怒られる事が確定しただけだ……」


 乾いた笑みを浮かべるエルドさんは、ドサッとソファーに座った。


「まあ、儂の事は置いといてお主の事を進めるとしよう」


「は、はい。よろしくお願いします」


「まず初めになんだが、お主は身分証は持っておるかの?」


「……一応、家名から追い出された時に家の名だけ無くなった身分証を貰いました。妹が居なかったら、これも貰えなかったと思います」


 謹慎生活の間、身分証について一切触れてこなかった父達が家を出るときに捨てるように渡してきた。

 その際、俺はクラリスが動いてくれたんだなと察した。


「ふむ、お主の妹は他の家族とは違いお主の事を大事に思っていたようだな」


「はい。俺が無能と分かって直ぐに、父達に見つからなように俺に会いに来る位に俺の事を想ってくれてる大事な妹です」


 そうハッキリというと、エルドさんは「よい兄妹愛だな」と笑みを浮かべた。


「ふむ、身分証はあるなら面倒な手続きは踏まなくて済むの、身分証の作成はかなり面倒じゃからな」


「そうなんですか?」


「昔、お主と似た境遇の者を商会に連れて来た事があるが、その時に身分証を作るのが面倒で時間が掛ったんだ」


 エルドさんは昔の事を思い出したのか「あやつも、あの頃は可愛気があったのにな……」と言うと、立ち上がり棚から資料を取り出した。

 その資料は商会へ入る手続きのようなもので、俺は書き方をエルドさんに聞きながら資料を記入していった。


「……エルドさん、ここおかしくないですか? 俺の仕事、何も無いですよ?」


「儂の手伝いをするだけだからの、決まった仕事は無い。偶に儂のお願いを聞く仕事と思えばよい」


「それなのに、月の給料がかなり高い気がしますが……」


「気にする必要はない。その位なら、儂の貯金から払えるからの」


 月の給料が金貨3枚ってやばいだろ。

 金貨1枚でも贅沢しなかったら、平民は一月は暮らせるって本で書いてあったぞ……。

 俺はもう色々と考えるのをやめて、取り合えず手続きを進めた。


「うむ、ちゃんと書いたみたいだな。後は儂の方で処理をしておくから、お主はもう儂の部下の一人だ。これからよろしく頼むぞ、アルフレッド」


「はい、至らない点はあると思いますが頑張ります」


「そう気張らずとも良い。偶に儂の話し相手になってくれるだけでも良いからの」


 その後、エルドさんに俺が住む部屋に案内してもらった。

 俺が住むのは、商会の建物の裏手にあるルクリア商会の寮で一階部は食堂や風呂等があり、2階部と3階部が部屋となっていた。

 そして俺は、その寮の3階部の角部屋に案内された。


「本当にこんないい部屋を使ってもいいんですか?」


 その部屋は寝室とリビング、そして物置として使えそうな部屋の3つの部屋があった。

 一人で住むには広すぎる部屋に俺は驚いてそう聞くと。

 エルドさんは「好きなように使って良いぞ」と笑顔でそう言葉を返してきた。


「しかし、少し埃っぽいな……」


 エルドさんはそういうと、寮の管理人を呼びこの部屋を掃除するように頼んだ。


「さてと、儂は手続きの続きをしてくるからお主は建物を見てくるとよい」


 そうしてエルドさんと別れた俺は、寮の中を散策する事にした。

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