第2話 【追放・2】


「……さてと、冒険者ギルドにでも行くか」


 謹慎生活中、俺は追い出された後の事を脳内でシュミレーションしていた。

 今の俺は、スキルを一つ持っているがほぼ無能に近い。

 そんな奴がどう生きていくのか、考え無しで生きていくのか不可能だと察して、色々と考えた。

 その結果、俺は冒険者になって日銭を稼ぎつつ、生活の基盤を安定させるという事に行きついた。


「スキルが一つですか? ……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」


「へ?」


 幸いな事に、元家であるノルゼニアは領地を持つ貴族だったが、俺はずっと王都の家で暮らしていた。

 そのおかげで冒険者ギルドの場所も知っていて、道に迷うことなく冒険者ギルドへとやって来て登録をしようとした。

 しかし、登録を受け持ってくれた受付係の女性は俺のスキルが一つだと目にすると、馬鹿にするような顔つきで折角書いた用紙を破り捨てた。


「おいおい、あいつがスキル一つだってよ。やべーだろ」


「どんな奴でも少なくても3つは持ってると思ってたけど、下には下が居たんだな」


「ああ、それも攻撃系でも防御系でもない能力向上系ってマジで使えないだろ」


「ギャハハハ」


 俺と受付の会話を聞いていた冒険者達は、俺が能力が一つで使い方も分からない能力という事を聞くと、侮辱して笑って来た。

 そんな状態でその場に居続けられない俺は、逃げるように冒険者ギルドを後にした。


「クソッ、なんだよ。聞いてた話と違うじゃないか……」


 冒険者はどんな奴でも登録が出来て、仕事が貰えると思ってのに……。

 これじゃあ、俺は仕事を見つける事が出来ないじゃないか。

 金はあるけど、贅沢しない生活をしたところでもって数日程度だ。


「これからどうしよ……」


 この先の事で悩んでいると、視線の先で老人が苦しそうな顔をして行き成り倒れた。

 街の人達は、倒れた人を迷惑そうな顔をして素通りしていた。

 俺も一瞬無視しようかと頭に過ったが、体が勝手に動いてしまった。


「大丈夫ですか? 何処か悪いんですか?」


「……み、水を」


「水ですね。分かりました」


 老人が欲しいと言った水を俺は直ぐに近くの店に入り、コップ一杯分の水を購入して老人の元に戻って来た。

 俺は苦しんでる老人の口元にコップを近づけ、水を少しずつ飲ませた。

 そして水を飲んだ老人は、喉を「ゴキュッ」と鳴らすと苦しんでた表情が段々と和らいでいき。

 もう大丈夫だろうと判断した俺は、老人をその場に残して店にコップを返して戻ってきた。


「ふぅ~、死ぬかと思った。ありがとうな、青年。助かったぞ」


「いえ、少しだけ無視しようとしたので、気にしないでください」


「気にするなと言われても、儂はお主に助けて貰ったのは事実だからのう……本当にありがとな」


「いえいえ、それにしても何で街中で突然苦しんでたんですか? もしかして、なにかご病気なんですか?」


 何が原因か尋ねると、老人は右手に持っていた串を見せて来た。


「さっきそこで買った串肉を食べながら歩いておったら、喉につまってしまってな。昔なら、一口で食べれてたのに歳はとりたくないな……」


「そうだったんですね。ご病気じゃなくて良かったです」


「心配かけてしまって、すまんな。それで命の恩人にお礼をしたいんだが、何か今困ってる事とかないか? こうみえて、儂はちょっと偉い立場の人間だから、ある程度の事なら解決できるぞ?」


 ニコニコと笑みを浮かべながら、老人はそう言った。

 俺はそんな老人に対して、自分の今の状況を伝えた。


「ふむ、スキルが一つで家から追い出されてしまって冒険者ギルドからも門前払いされたと……それは、さぞ辛かっただろう」


 老人は俺の話を聞くと、涙を流し俺の頭を撫でながら「よく我慢したの~」と言い、俺の事を強く抱きしめた。

 16歳にもなって人に抱きしめられたのなんて、一年前にクラリスを泣き止ます時に抱きしめられた時以来だ。


「よし、決めた! お主、儂の所に来ないか? 儂はこう見えて、とある商会の会長を務めておるんじゃ」


「い、良いんですか? 俺、スキルも一つだし、今まで働いた事も無いんですよ!?」


「心配しなくてもよい。儂はお主が居なかったら、肉を喉に詰まらせて死んでいたかもしれんかった。別に働き手が欲しくてお主を雇うんではなく、お主を助ける為に雇う。命の恩人を助けられるなら、人を一人増やすなんて安い安い」


 そう老人は言うと、俺の顔を見て「どうじゃ? 来るか?」と聞いてきた。

 どうする俺? まだ出会って少しの、何も知らない相手についていくのか?

 もしかしたら人身売買とか、そういった悪い人の可能性もあるぞ?

 でもここで断ったとして、俺が行くところはあるのか? 冒険者にもなれないし、仕事も手に職を持ってない俺を雇ってくれる所なんて……

 俺は三十秒程、老人の誘いに対して迷い「その、安全ですか?」と聞いた。


「ふふっ、そう思うのも仕方ない。これを見たら、儂が危険な相手とは思わないか?」


 老人はそういうと、懐からメダルの様な物を取り出した。

 ……えっ、ちょっと待てよあのメダルの模様って!?


「それって、もしかして国から認められた商会だけが貰えると言われているメダルですか……」


「うむ、どうで。これで儂が安全な商人って事は、わかってくれたか?」


 あのメダルを受け取るには様々な条件が必要とされていて、最低でも三ヵ国の王が認めないともらえないメダル。

 その様々な条件の中には、その商会が犯罪に一切加担していないという条件も当然ある。


「それで、どうじゃ安心してくれたか?」


「はい、疑ってしまい申し訳ありません。まさか、そのメダルを貰う素晴らしいお方とは知らず、犯罪者ではないかと疑ってしまいました」


「いきなり勧誘してきたんだから、疑われても仕方ないと思って居る」


 老人は俺が疑った事に対して、特に気にした様子は無くそう言ってくれた。

 

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