外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件
霜月雹花
第一章
第1話 【追放・1】
15歳の誕生日を迎えると、人々は神から【スキル】を授かる。
本来、スキルはその人物の才能と努力によって得られる。
しかし、スキルを手に入れるには血の滲む様な努力の末にようやく手に入る。
そんなスキルを人生に一度だけ、神よりスキルを与えてもらえる。
与えられるスキルは様々で、そのスキルによって人生が変わると言っても過言ではない。
そして15歳の誕生日を迎えた俺——アルフレッド・フォン・ノルゼニアはスキルを授かり、スキルの詳細を聞きに神殿へと訪れていた。
「……すまないが、もう一度言ってくれないか?」
父は神官から告げられた内容を聞くと、険しい表情となり聞き返した。
「はい、アルフレッド様が授かった能力は【経験値固定】というスキルが〝一つ〟だけです」
「……」
父からの催促に対して、神官は改めて同じ言葉を口にすると、大きく溜息を吐き、俺をジロリと睨みつけた。
父が落胆して苛立っているのが、俺はその理由が分かる。
「ご、ごめんなさい。スキルを一つしか得られませんでした……」
本来、神より授かるスキルは様々な種類のスキルの中から、大抵一人に対して〝三つ〟のスキルが授けられる。
しかし、俺は三つから二つも少ない、父が落胆するのも理解できる。
「……」
俺の謝罪に対し、父は反応せず神官に礼だけ告げると、神殿から出て馬車に無言で乗った。
その後、帰宅する道中の馬車の中は行きの楽しい雰囲気は無くなり、重く苦しい空気だった。
そして帰宅後、父は無言で馬車から降り、俺は自室へと行くように執事を通して指示された。
「……父さん、明らかに落胆してたな」
アルフレッド・フォン・ノルゼニア。
それが俺の名であり、ノルゼニア家侯爵家の長男という肩書を持っている。
ノルゼニア侯爵家は代々、魔法の名家として知られている。
代々【複合魔法】の力を持っていて、それが〝ノルゼニア家の証〟と言い伝えられている。
「それなのに俺は証どころか、スキルを一つしか貰えなかった……最悪の場合、家から追い出されるな……」
幸いな事にノルゼニア家には、俺以外にも子供がいる。
正直、スキルが一つ以上なら俺以上に後継者として才能はあるという事だ。
「神様も残酷だな、たった一つしかスキルをくれないなら、せめて【複合魔法】くらいくれても良かったじゃないか……」
天井を見上げ、俺はそう呟いた。
それから数日間、俺は自室で謹慎を命じられた。
何も悪い事はしてないが、たった一つしかスキルがもらえなかった子供を外に出したくないのだろう。
貴族の長男として育てられてきた俺は、冷静に判断して命令通り謹慎生活を送った。
「兄さん、大丈夫?」
「クラリス? 俺の部屋には来るなって、言われてるだろ」
「だって兄さんが心配で……」
謹慎生活が始まって一週間が経ち、この生活に慣れて来た。
そんな時に、俺の部屋に従者以外の人物が入って来た。
クラリス・フォン・ノルゼニア。
俺の一つ下の妹で、14歳ながら属性魔法スキルを既に3つも習得している天才児だ。
神から授かるスキルも合わせたら、このままいくと15歳の時点で6つのスキルを習得する事になるだろう。
本当にクラリスは、自慢の妹だ。
「心配だからって、父さん達の命令を無視したらお前まで罰を与えられるぞ」
「兄さんに会えるなら、罰だって受けます。兄さんが謹慎させられてるのって、スキルを一つしか貰えなくて〝複合魔法〟を貰えなかったからなんでしょ? それだけで謹慎っておかしいよ。兄さんは今まで家の掟を守って、凄く頑張ってたのに……」
「……おかしいって思っても、それが父さん達の考えなんだ。子供の俺に抵抗は出来ない」
俺がそう言うと、クラリスは悲しい表情をした。
クラリスも頭では理解しているが、今の俺の現状が許せないのだろう。
「この前、聞いたの。もし私に【複合魔法】のスキルが現れたら、兄さんを家から追い出すって……」
「……まあ、そうだろうな」
自分の考えが合っている事に、多少心が傷ついたが目の前にクラリスが居る為、涙を流したい気持ちを我慢した。
「兄さんを追い出されたら、私達には関わらせないって……そんなの嫌だよ」
クラリスは涙を流しながら訴えかけるが、今の俺には行動を起こす事は出来ない。
悔しさを感じつつ、俺はクラリスの頭を撫でてやる事しか出来なかった。
「クラリス、もし俺が追い出され会えなくなっても、いつかまた会いに来る」
「兄さん……」
「父さん達は、俺達の事をただの家の道具としか見てない。大切に思ってすら無いが、俺はお前の事を大切な家族だと思ってる。追い出され、家族で無くなったとしても、俺はいつまでもクラリスの兄だからな」
その後、俺は部屋の外を見て、誰も居ない事を確認してからクラリスを部屋の外に出した。
それから月日は流れ、クラリスが15歳となり【複合魔法】とは別に5つのスキルを授かったという話を聞かされた。
流石、自慢の妹だ。
その報告を聞いた俺は、心の底からクラリスの事を祝福した。
「まあ、何も持たされない状態で追い出されなかったことが救いだな……クラリスには本当に感謝しないといけないな」
クラリスのスキルが分かってから、父さん達の動きは予想よりも早かった。
俺を呼び出し、直ぐに家から追い出そうとした。
当初、着ている衣服だけで追い出されそうになっていた俺の元にクラリスが現れ、俺をそんな扱いをするなら自分は死ぬと言い出した。
スキルを5つも出現したクラリスの命は、今では一族の中では父達よりも価値が高い。
そんなクラリスが自分の命を盾にして、出来損ないの俺の事を守ってくれた。
そのおかげで俺は少しばかりの金銭を貰い、生活の準備が出来る程度のお金を貰って家を出る事となった。
「今まで育て下さり、ありがとうございました」
「……」
見送りには家族は誰一人現れず、兵士達も特に俺の言葉に反応する事は無かった。
そんな彼らに特に思う事は無く、俺は住んでいた家を背に歩き始めた。
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