第10話 恥ずかしがる幼馴染
俺がコンビニの袋からフルーツサンドを取りだし、プラスチックのカバーをむく。
ふと横を見ると、七海が怪訝な顔をして俺が食べようとするフルーツサンドを見ていた。
「そんなにこっちを見て、どうしたんだ?」
「何でもないよ」
「わかった! 俺が買って来たフルーツサンドが食べたいなら、半分あげるよ」
「遠慮しておく。あたしは別にフルーツサンドが食べたいわけじゃないから」
「いらないの!? さっきからずっとフルーツサンドを見ていたのに!?」
「うん。ところで翼はいつもお昼ご飯ってコンビニで買った物を食べてるの?」
「そうだよ。いつも朝立ち寄ってるコンビニで買うパンが俺の昼食だ」
「嘘!? あれって朝ごはんじゃないんだ」
「あんな遅い朝ごはん、俺が取るわけないだろう」
それこそいつも寝坊している七海とは違う。
規則正しく生活している俺は毎日欠かさず朝食を食べている。
「七海は弁当を持ってきているようだけど、いつも親に弁当を作ってもらってるの?」
「そんなわけないでしょ。これは全部あたしが作ったお弁当よ」
「自分で作った? 冗談だろう?」
「冗談じゃないから!? このお弁当は正真正銘あたしが作りました」
「その割には手の込んだ弁当を持ってきているんだな」
唐揚げや玉子焼きにきんぴらごぼう。手の込んだおかずが多数入っている所を見る限り、とても朝ギリギリに起きる人が作る弁当には見えない。
それこそまだ母親が作ったと言った方がまだリアリティーがある。
「時間がない中でこのお弁当を作るには、ちょっとしたコツが必要なんだよ」
「コツってなんだよ? どんな方法を使ったんだ?」
「知りたい?」
「そりゃ知りたいに決まってるよ」
殆ど時間を使わずにこんな美味しそうな弁当が作れるなら、ぜひともコツを聞いてみたい。
あんな短時間で作るんだ。もしかすると料理が苦手な俺でも、簡単に作れるかもしれない。
「それなら特別に教えてあげる」
「宜しくお願いします」
「このお弁当は前日に作り置きした料理を詰めてるの。夜寝る前に殆ど作って冷蔵庫に保管しておけば、朝バタバタしなくてもいいでしょ」
「確かにそうだけど、七海って次の日の昼食をわざわざ前日の夜に作ってたの?」
「うん。だから朝行く前にレンチンして、ほぼ詰めるだけ完成。簡単に出来るお弁当だよ」
「なるほどな。それはとんでもない時短弁当だ」
「そう。だから朝ギリギリまで寝ていても問題なし」
「そこは誇る事でもないだろう」
「何で翼はそんなに呆れてるの。毎日ちゃんと準備して作ってるんだから、もっと褒めてくれてもいいじゃない」
「そんなことするなら、早寝早起きをしたらどうだ? 下準備は前日でもいいけど、朝早く起きて作った方が美味しいものが出来るだろう」
1度作った物をレンチンして詰めるよりも、朝早く起きて作った物の方が確実に美味しいものが出来上がる思う。
唐揚げに下味をつけるためにたれに漬け込んだり、きんぴらごぼうを前日に作って冷蔵庫に保存するのはまだわかる。
だけど玉子焼きは作り立ての方が絶対美味しいのに、何故そこまで横着するのか俺にはわからない。
「ちゃんとレンチンでも美味しく食べれるお弁当を考えているんだから、それでいいじゃない」
「そこまでして朝ギリギリまで寝ていたいのか?」
「うん」
「そこははっきりと答えるんだな」
「だって2度寝ってもの凄く気持ちいいじゃん。1度体験したらやめられないよ」
「その気持ちはわからなくないけど、平日の学校へ行く日はちゃんと起きた方がいいと思うよ」
七海の努力は認めるけど、その労力を別の事に当てた方が効率的だと思うのは俺だけか。
寝る時間と起きる時間を調整すれば解決する話なのに、何故彼女は2度寝にこだわるのだろう。
「(そういえば七海は毎晩遅くまで起きていたな)」
朝ギリギリまで寝ているという事は、彼女が毎日夜更かしをしている可能性がある。
たまに七海の家を見ると夜遅くまで電気がついているので、部屋で何かしている事は間違いない。
「さっきから翼、あたしの事を色々注意してお母さんみたい」
「そんな変な生活をしていれば、口を出したくもなるだろう」
「むっ!! 酷い!!」
「酷くないだろう。現にその弁当だって、夜作り置きするよりも朝作った方が絶対に美味しいぞ」
どちらも学校に来る時には冷めてしまうとはいえ、夜作り置きしておくより朝作った方が美味しいものが食べられに違いない。
だが俺のそんな抗議はむなしく、彼女は不機嫌な表情で俺の事を見つめている。
「そんなにあたしのお弁当に難癖をつけるなら、食べてみればいいでしょう」
「それは遠慮する」
「何で?」
「七海の弁当なんて食べたら、俺がコンビニで買ってきたパンが食べれなくなるだろう」
「ほぅ。翼はあたしが作ったお弁当がまずいっていうのね」
「誰もそんなこと言ってないよ!?」
俺はコンビニで買ったパンが食べられなくなるっていっただけなのに、何で七海が作った弁当がまずいって話にすり替わってるんだよ!?
そんな事俺は一言も言ってないのに。彼女は大きな勘違いをしている。
「あたしが作ったお弁当を食べないっていうのは、そう言ってるようなものでしょ!!」
「落ち着け、七海。話せばわかる」
「わかってないのはあんたの方よ!! これでもくらいなさい!!」
「むぐっ!?」
七海は自分の弁当箱から玉子焼きを箸でつまむとそれを無理やり俺の口の中に押し入れてきた。
甘味は一切ない塩味のする俺好みの玉子焼きを食べながら、俺は七海のされるがまま玉子焼きを咀嚼した。
「どう? 私が作った玉子焼きは?」
「‥‥‥美味しいな。すごく」
「でしょ」
「どちらかと言えば俺は甘い玉子焼きよりもしょっぱい玉子焼きの方が好きだから、この玉子焼きは俺好みだ」
「そう。それはよかった」
期待していた言葉を聞けて満足したのか、俺の口から箸を抜くと黙って自分の弁当を食べ始めた。
よっぽど自分の作った弁当を褒められたのが嬉しかったのか、彼女は顔がほころんでいる。
「七海」
「何よ」
「俺に玉子焼きをくれた箸を使って食べてるけど、それって間接キ‥‥‥」
「何か文句ある?」
「ありません」
七海が気にしないと言っているのだから、俺も気にしないようにしよう。
変に意識しているとまたその事をネタにされ、彼女にからかわれてしまう。
「(玉子焼きをくれるのはいいけど、少しはこっちの気になってくれよ)」
ここには俺しかいないからいいけど、こんな光景を他の人が見たら絶句するぞ。
それこそさっき俺の事を睨んでいた男子達が見たら、視線だけで殺されかねない。
「どうしたの翼? さっきから私の事をジロジロと見て?」
「何でもないから、気にしないでくれ」
俺達ももう高校生なんだ。今更間接キスぐらいでうろたえていては駄目だろう。
そう思い無心でサンドイッチを食べることにした。
「翼」
「何だ?」
「何でもない。気にしないで」
七海は何か言いたそう表情をしていたが、すぐさま俯いてしまう。
その時俺は先程とは違う彼女の変化に気づいてしまった。
「(なんだ。恥ずかしかったのは俺だけじゃなかったのか)」
俺の横で弁当を食べる七海の頬は、薄紅色に染まっていた。
きっと俺が指摘したことで自分が意図ぜず俺と間接キスしたことに気づいてしまったのだろう。
横目でチラチラと様子を伺う彼女も俺の事を意識しているように見えた。
「何よ。あたしのことをじろじろ見て」
「何でもないよ。俺の事なんて気にしないで、早く食べよう」
「うん」
それから俺達は黙々と昼食を食べ進める。
昼食を食べ終わるまでの間、七海はチラチラと俺の様子を伺っていた。
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続きは明日の朝更新します
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