もしかして、師走ですか?私です。初めまして、あなたは。 ~二次創作スレッド「雛見沢物語」の思い出~

四谷軒

01 ひぐらしのなく頃に「公式掲示板」――「魅ぃ掲示板」

 ――もしかして、師走ですか?私です。初めましてあなたは。


 ……そういうやり取りから、始まった気がします。

 「ひぐらしのなく頃に」という同人ゲームがあります。今ではコンシューマーゲームや書籍、漫画、アニメ等いろいろな媒体で出ておりますが、少なくとも、私が最初に触れた時は同人ゲームでした。

内容については、いわゆるホラーゲームでありつつ、ミステリィであり、「泣きゲー」でもある……そんなゲームです。いやちがうだろ、という意見もあるかと思いますが、これは私の「私小説」なので、そう言うことにさせて下さい。


 さて、そのゲームの公式サイトの掲示板にアクセスすると(「魅ぃ掲示板」という名前でした)、SS(short storyあるいはside story)、つまり二次創作を投稿するスレッドがありました。

 思い思いのSSを書き、投稿し、それについて感想を書き、やはり投稿する……そういうスレッドでした。

 こういうところがあるんだ、と感銘を受けたものです。

 当時、「ひぐらしのなく頃に」はまだ完結しておらず、謎の提示のパートが終わったあたりで、これから謎解きだという段階でした。

 だから、こういう謎解きがあるとか、あるいは裏でこういうストーリーがあったのではとか、考察をSSにしていたり、いわゆる「キャラ萌え」といったところで、推しのヒロインと主役のラブストーリーを投稿する方もいました。

 私はと言うと、当時公開されていた「章」はすべて読了していましたので、まだ何かないかという「飢え」を感じておりましたので、それこそ貪るようにSSを読み始めました。

 そこでふと思ったのです。


 ――自分も、書いてみたい。


と。



 最初はユーザ登録から始まりました。

 公式サイトである以上、ユーザとして登録しないと、書き込みはできないという設定です。

 といっても、メールアドレスとハンドルネーム(ペンネーム)を設定するだけの、簡単な登録です。

 そこでみんな、好きな名前を登録しており、たとえば「師走」と登録申請を出してそれが通れば、その人は「師走さん」と呼ばれます。

 そこで、


 ――もしかして、師走ですか?私です。初めましてあなたは。


 というやり取りが発生し、それぞれがハンドルネームで呼び合うようになるわけです。

 ちなみに私は当時、「gyro」というハンドルネームを用いておりました。現在、カクヨムでのユーザーIDもこれによります。


 そんなわけで、私は生まれて初めて、こういうネット上の集まりというかサイトのユーザの登録をしました。登録して即、使用開始というわけではなく、審査機関というか、運営側の登録作業の順番みたいなものがあって、ちょっと待たされる感じになりました。

 その間、SSを執筆していました。文章を書くという体験は、実は公募にいくつか応募していたので、初めてではありません。ただ、こうやってダイレクトに反応が見られるところに投稿するということは、初めてのことです。

 そうこうするうちにSSを脱稿し、推敲しているうちに、ユーザ登録完了の通知が来ました。実際にログインできることも確かめ、いざ投稿という段になります。

 予約投稿という便利な機能が無いので、むろん、パソコンを広げてサイトにアクセスして、予めワードに書いておいたSSを展開して、コピーして、貼り付けます。そして投稿ボタンを押せば、投稿されます。


 ……緊張の一瞬でした。


 誰からも、見られないかもしれない。

 見られても、「何だこれ」とか「何だこいつ」とか思われて、失笑を買うかもしれない。

 いろいろな展開を予想しつつ、目をつぶって、投稿ボタンを押しました。

 すると。

 想像を絶する展開でした。


「な、何……この凄い作品は」


 ちょうど私が投稿した瞬間とほぼ同時に――ただし一瞬前に――凄いSSが投稿されていたのです。

 師走さん(仮名)という、見たこともないユーザ名だったので、おそらく私と同じ、「初めてこのサイトにSSを投稿する者」であることは分かりました。

 つまり、優れた文才を持つ新人のデビュー作……の次に、物理的にはすぐ下に、私のSSが投稿され、載ってしまったのです。

 うああ。

 私は懊悩しました。

 その凄い作品は、一言で言うと抱腹絶倒の内容でした。

 面白い。

 笑える。

 そんな雰囲気に読者様が暖まったところを。

 拙作――バッドエンドというか、哀しい作品が。


「こ、これ……どう考えてもスルーされる……というか、見られても白けられちゃう……」


 もうアカンなぁ、と思いつつ、私はパソコンをそっと閉じました。

 いくら何でも、これは無いだろう――と思いながら。

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