ごめんあそばせ魔力ゼロのモブ令嬢は乙ゲー攻略ゼッタイ致しません
花月
第1話 絶対関わりたくない乙女ゲーム 1
ある風の爽やかな初夏の午後だった。
いつもはお仕事で常に邸宅にいらっしゃらないお父様が、
珍しく私のお部屋に来られた。
「…ジェニ―。お前の縁談が決まった」
「エロジジイの後妻はいやですわよ」
実に憂鬱そうに告げるので、わたしは読んでいた小説で口元を隠しながら
先にクギを刺させてもらった。
父―エフォート伯爵候は
「ああ…一体どうしてこんなに歯に衣着せぬ発言をする娘になってしまったのか…」
『仕事ばかりであまり構ってやれなかった為か』
と憂える様子が素敵で、実の父でなければ狙いたいくらいのいい男なのだが、神さまは本当にイジワルである。
(違いますよ!お父様!別人が入っているからなんですよ)
と慰めてさしあげたかったが信じてもらえないでしょうしね…と、わたしは盛大にため息をついた。
わたしは、ひきこもり令嬢ジェニファー・エフォートだ。
そして…いわゆる転生者である。
オレンジ色の髪は今はかろうじてゆるやかにカーブしているが、濡れると
すぐくるくるとなってしまい、なかなか厄介ではある。
瞳の色は夏の葉の様に濃いグリーンだ。
肌は唯一自慢できるくらい真っ白なもち肌だが、残念なことにすでにソバカスが鼻の頭に
ボン・キュッ・ボンのスタイルといえば聞こえはいいが、貴族の子女はコルセット着用が当たり前のご時世、細さが美しさの基準になるのだから、わたしはいわゆる小デブの範囲のなるだろう。
(ついでにいうと、その他大勢のモブの一人である)
この貴族の子女らしからぬ鼻息に父はさらに絶望したらしい。
「なぜ、この娘を小公爵様はお望みになったのか…」
失礼ね。どういう意味だ。
ここの世界は乙女ゲーム『プレシャス・ラブ・オブ・シークレットガーデン』らしい――多分。
実は私自身、このゲームをやっていた訳ではない。
やっていたのは高校生だったわたしの妹だ。
ス○○トゥーン2にはまっていた私の隣で、彼女はこのゲームと登場男子に夢中になっておりバイト代を注ぎ込みウン万の課金までして、まるでホストに入れ込む女子のようだった。
彼女はエロいちゃラブシーンにたどり着く度に、どうやって攻略したか、どうやってこの台詞を引き出したか、分岐ポイントの場所やシーンまで(頼んもないのに)事細かく教えてくれたのだ。
自分でイベントをこなしたりしたわけではないので、~ルートが何通りあるかはわからない。ただヒロインの名前、お相手の名前なら何となく覚えている。
「第一皇子 ルードヴィッヒ=デルヴォー」
「シークレット・ガーディアン騎士団長のヒューゴ=パネライ」
(実は彼はわたしのゲーム中では最推しである)
「宰相の息子でギルドのトップ エアリス=オーギュスト」
「魔法管理省副長官 アベル=バランタイン」
この4人のはずである。
ヒロインのローゼリットはこの他に裏ルートで、『皇帝』となんと『魔王』を攻略できるルートがあるらしいが、やっていないわたしには良く分からない。
話は半年前に遡る。
通っていた魔法学園「シークレットガーデン」の最終日、卒業パーティに出席した際に、沢山のひとだかりのむこうの方で最終イベントの弾劾裁判が行われた
『らしい』というのには訳がある。
わたしは実際に見ていないのだ。
それを見ているひとが多すぎて見えなかったのと(私は背が低いのだ)
久しぶりに履くドレスシューズのヒールで爪先と踵が痛すぎて、一歩も
動けなかったし、パーティのお料理とデザートがビュッフェスタイルながら素晴らしく美味しくて、もりもり夢中で頂いていたからである。
まあ平たく言うと(こほん)、もう既に終わった修羅場には興味がなかったのだ。
「ああ…これ美味しすぎるわ。もっと食べようっと」
ミートソースとホワイトソースをマッシュポテトを薄く敷して交互に
重ねたこちらの世界のラザニアが最高に美味しくて、三度目のおかわりに舌つづみをうっている時に、うしろの方で正装した男性が二人話しているのが聴こえた。
「…さっきの騒ぎ…あいついったいどうするつもりなんだ」
他の男性より背の高い彼は、話相手の男性にぶつぶつ言いながら、グラスのお酒を煽っている。
(因みにこの世界、結婚関連で成人年齢は男性18歳女性16歳だが、お酒は13歳から堂々と飲んでよい)
濃い青色の生地のタキシードは高級そうな仕立てのもので、それをさり気なく着こなしている。髪をくしゃりとかき上げる仕草も様になっている。
少し浅黒い肌、彫りの深い顔立ち、栗色の癖毛、目付きはちょっと悪いが、キレイな濃いブルーアイ。
(…おっと、これは…)
現宰相の息子 エアリス=オーギュストじゃないの。
(わあ、やば…)
スチールの絵よりずっとずっとかっこいい。
「そんなことよりアタマの痛い事態が発生してるっつーのに…」
エアリスはブツブツと言った。
「今のルートヴィッヒに何を言っても無駄だよ。…僕達の話しを聞ける状態じゃない」
向かいに立っていたお連れの男性が少し疲れた様子で首を振って答えていた。
ちらりと見えたお顔は女性と勘違いするほど美しかった。
サラサラのプラチナブロンド、そこから覗く切れ長の瞳は神秘的な夕焼け色だ。
スラリと伸びた手脚は細身の渋い銀色のスーツによく似合っている。
頭の小ささも相まってファッション誌のモデルのようだ。
「それに事態は考えていたより深刻だ。…ヒューゴにも相談しなきゃダメだろうな。父上も急ピッチで
綺麗な形の唇からでる声は意外にハスキーで低い。
(じゃあ、彼がアベル=バランタイン…)
2人の小公爵様は何やら深刻な話をしているようである。
後ろから聞こえたワクワクするような会話にすっかり気を取られた
わたしは、ラザニアの皿に乗せていたフォークを下に落としてしまった。
(カランッ!)
フォークが床に落ちる音が響き渡った。
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