111 迷い道

 昨晩のカードゲームの勝者に与えられる 『水神の御守り』 は、なんと俺の首に巻かれていた。

 まあ、俺が勝ち取ったんじゃないんですけどね……。


 実はコレ、優勝したラキちゃんから贈られたものだったりする。遠慮したのだが、なかば強引に渡されてしまった。

 なぜか皆も俺が身に付けているのが一番無難だなと、妙に納得している始末。……色々と気を付けます、はい。


 朝食を済ませた俺達はキャンプを撤収すると、空っぽのまま残っている宝箱に、遺留品である壊れた武器を入れて蓋を閉じる。

 すると作動音と共に、折り畳まれた階段が元の位置に戻っていった。少々不安だったが、問題無く入口が開いたのでホッとする。


 さて、今日でダンジョン探索三日目。

 本日は 『迷路の大回廊』 から外へ伸びているルートを一つずつ探索して、次の大回廊へと続く正解のルートを探す予定となっている。

 ここまでは思わぬ協力者達のおかげでスムーズに進んでこれたが、もうそんな助けは無い。ここからは地道に探索して、俺達自身が正しいルートを探すほかなかった。


 そんなボス部屋に至るまでに通過しなければならない大回廊の数は、実は固定ではなかったりする。

 その数は再構築ごとに変化し、早ければ三つ、多い時は六つ以上なんて場合もあるんだそうだ。

 因みにその六つを経験した運の無い冒険者パーティは、結局ボス部屋に辿り着く前にダンジョンが再構築されてしまい、踏破を断念したらしい。




「よいしょっと……。――それでは一つ目の通路に向かいますねー」


 ラキちゃんが乗りカゴを掴んで舞い上がると、ヘロヘロンの巣からゆっくりと目的地に向かって降下して行く。今回俺は、その後を 『大鷲の外套』 で滑空しながら追いかけていた。

 この外套は思っていたよりも非常に扱いやすく、まるで鳥になったかのような気分で滑空できてしまうので、とても気持ちが良かった。これは……素晴らしい!


 大回廊の高さは高層マンションより少し高いかなという程度なので、下に広がる迷路までは意外とすぐに下りてしまう。それでも、風に乗って自在に滑空するのはとても楽しかった。

 俺は乗りカゴを地に下ろしたラキちゃんの横に、ふわりと着地する。勢い余って止まるのにバタバタと数歩進んでしまう事も無く、まるで鳥のように狙った場所へ着地できたので内心驚いてしまった。


「いやコレ凄いな。しかも楽しい……!」


「いいなー……。なんかおっさん見てたら、あたいも欲しくなってきちまったよ。――よしっ、今度どっかの店に入荷してないか探してみよーっと」


「むっ……。リンメイ、その時は私にも一声掛けてくれ」


「あの……、わたくしも……お供いたします」


 王子様に続いて、エルレインもおずおずと手を上げる。


「あははっ、いいぜっ」


 どうやら俺が飛ぶ姿を見て、三人もこの外套が欲しくなってしまったようだ。帰ったら早速、露店や防具店などを見に行こうなんて話している。


 リンメイ曰く、この外套は意外と店に並ぶらしい。

 ダンジョンでの活動をメインとする冒険者は魔物との戦闘を重視して、もっとゴテゴテに耐性の盛られた外套を好む傾向がある。だからさっさと売ってしまうんだと。


 それにこの外套は需要があるので結構良い値で売れる。浮島で暮らす人には都合の良い外套だし、お貴族様なんかも娯楽のために欲しがるんだそうな。

 だから露店で見つけられなくても、最悪は少々お高めな、お貴族様御用達の店ならば取り揃えているだろうとのこと。


 えー……、俺にとって初のネームド品装備、三人は早々にお金でポンと買っちゃいそうなんですけど……。ちょっと複雑な気分……。

 なんて思ってたら、大家さんに優しく肩をポンポンと叩かれてしまう。


「まぁまぁケイタさん。皆さんが欲しくなるほどの素敵な外套を手に入れたんです。それでいいじゃないですか」


「あっ、あははっ、……ですねっ」


 ぐはぁっ、思わず顔に出ていたのか!? こんな事で大家さんに慰められてしまうなんて、めちゃめちゃ恥ずかしい……!




 はぁ……。気を取り直して、本日の迷宮探索開始です。


 俺達は今回ラキちゃんのマップを頼りに、それほど奥行きが無さそうなルートから探索していく事にした。

 その先に転移門ポータルがなければすぐにハズレルートと分かるため、早めに正解のルートの目星を付ける事ができるんじゃないかと踏んだから。


 そんな感じで一つ、二つ、三つ……と進めて行ったのだが……。進んだ先に転移門ポータルは一つも見当たらず、只の行き止まりばかりだった。


 そんな中、途中で一つだけ宝箱を発見する。中身は魔法士の纏うローブだった。

 ネームド品では無いけれどそれなりに性能の良いローブだったのだが、大家さんやラキちゃんの装備と比べるとかなり劣る。そのためこれは売却一択となった。


 四つ目に選んだ出入り口辺りから、徐々に複雑なルートとなっていく。

 複雑となっても何処かに転移門ポータルがあるかもしれないので、脇道などは全て虱潰しらみつぶしに確認しないといけない。そのため、一つのルートを探索するのに物凄い時間を取られてしまっていた。


 結局ここでも先に進むルートを見つけられなかったので、俺達は大回廊まで戻って来てしまった。


「うーん……。時間的に、今日はあと一本の探索が限界かな……」


 懐中時計を見ると、結構な時間が経っていた。

 何度も成果無く振り出しに戻ってくると、精神的な疲労も大きい。次が今日の限界だろう。


「なあおっさん、その前にどっかで休憩しよーぜ? 腹減ってきちまったよ」


「あっとそうだな、ごめんごめん。――じゃあ手頃な場所を見つけて休憩しよう。何ならヘロヘロンの巣に戻るか?」


「あっ、でしたら次はこのルートはどうでしょう? ここに階段エリアっぽいのがありますよ?」


 ラキちゃんの示したのは、かなり広範囲に伸びているため後回しにされていた、まだ全体像がはっきりとしていないルートだった。

 しかし作成されているマップの範囲には、割と近い所に階段エリアと見られる階層の別れる箇所が記されている。


「ホントだ。ここならそんなに遠くねーし、あたいは全然オッケーだぜ?」


「そうか?――じゃ、ラキちゃんの案を採用して、ここに行ってみようか」


 全員の了承を得たので、俺達は再び大回廊から脇道へ入って行く。暫く進むとラキちゃんの予想通り、階段エリアがそこにあった。

 まさかこんなに近い所に階段エリアがあったとは……。しくじったなぁ、もっと早くラキちゃんに聞いておくべきだったよ。




「ふむ……、場合によっては、ここが今日の宿泊場所になるかもだなあ……」


 昼食のサンドイッチを頬張りながら、俺はラキちゃんによって新しく書き加えられたマップを眺めていた。

 この先を探索して正解のルートが無かったら、多分ここが今日の宿泊場所となるだろう。……なんて思ったのだが、リンメイが難色を示す。


「……うーん、それでもいいんだけどさ。ここに泊まるんだったら、昨日のトラップ部屋まで戻らねぇ? あっちのが安心して眠れるしさ」


「ああー、そうか」


 そうだった。普通に階段エリアで宿泊するとしたら、どうしても交代での見張りが必要になるんだった。

 うちは女性陣が多いからな。少しでも安全を考慮するなら、やはり昨日のトラップ部屋まで戻った方がいいかもしれない。

 皆に確認を取ると、やっぱりここよりも昨日のトラップ部屋の方が良いとの答えだった。


 休憩を終えた俺達は階段エリアを通過すると、その先の複雑な地形を隈無くまなく探索しながら最深部まで進んでいった。

 ……しかし残念な事に、ここでも次の大回廊へ繋がるルートは見つからなかった。


 今日一日が徒労に終わってしまったので、もうみんな肩を落としてガッカリしている。

 結局この日は、再びトラップ部屋で一夜を過ごす事となってしまった。




「ぃやっほーぃ!」


 只今大喜びで 『大鷲の外套』 を使って滑空しているのはリンメイさん。昨晩せがまれてしまい、貸してあげたのだ。

 リンメイは片足二歩ずつ空中歩行可能なブーツがあるため、途中で高く跳躍して滑空距離を伸ばしたり、天空を蹴って急な反転をして加速したりしている。

 ヘロヘロンの巣から下へ降りるまでの僅かな間だったが、存分に楽しんだようでニコニコ顔だった。


「おっさんありがとー! すげー楽しかった!」


「おうっ、それは何より!」


 俺は外套を返してもらうと、リュックに仕舞わずにそのまま羽織る事にした。風の耐性が付いているので、マントとして身に付けているほうがいいかなと思ったから。

 この辺になってくると魔物も普通に魔法を放ってくる。だから、念のための対策としてだ。


 さて、本日も昨日の続きでボス部屋へと繋がる道の探索だ。今日こそは次の大回廊までのルートが見つかってくれると良いのだが……。


 今日最初に選んだ脇道は、大回廊壁面の少々高い位置にあった。河川にあるような擁壁階段を上り、俺達は通路へ入って行く。

 このルートも意外なところに枝分かれする道があったりして結構いやらしい構造なんだけど、俺達も辛うじてそれを発見する事ができている。

 ここまで来た経験からか、どうやら俺達にも少しずつ観察眼が養われているような気がした。


 今回のルートはかなり長い。未だに道が途絶える事無く、奥へと進む事ができていた。

 暫く進むと、比較的大きな地下河川に辿り着く。パッと見は、以前俺が大ネズミ狩りをした聖都の地下水路のようだ。


 上流は落差工となっており、その先に見える穴からは水が勢いよく流れ出しているため上流へ行く事はできない。下流は水路の遺構となっていた。

 とりあえず俺達は川から飛び出してくる魔物に注意しつつ、川べりの細い道を辿って下流へ向かっていく。


 ――ドドドドドドッ……。


 ……遠くから、水の流れ落ちる音が聞こえてくる。この先に滝でもあるのだろうか?

 徐々に下り坂となっている足元に注意しながら暫く進むと、突然視界が開け、俺達はその音の発生源である全容を目の当たりにする。


 そこには、まるで 『肉抜きをされた巨大な歯車』 が幾重にもずれながら積み重なっているかのような縦穴が、下へと延びていた。


「うぉー、なんかすげーな」


「すごーい」


「これ、かなり下まで続いてるな……」


 このダンジョンの玄関口ほどもある縦穴が、いびつな形をしながら下へと続いている。

 水路から流れてきた水は、歯車のような段差ごとに流れる向きを変えながら、下へ下へと流れ落ちていた。


 下へと続く歯車のような段は、一段ならば普通に飛び降りれる高さだ。しかし、うっかり足を踏み外して連続で下まで落ちようものなら、怪我だけでは済まないだろう。

 そのため、ここでも大家さんが俺達に精霊魔法を掛けてくれた。今回は先日のように空中を踏み込める効果ではなく、俺の手に入れた 『大鷲の外套』 と同じ、ふわりと滑空する効果だった。


「皆さん、ケイタさんの 『大鷲の外套』 にとても興味がおありのようでしたからね、今回は滑空する効果にしてみましたよ」


「わーい! サリアお姉ちゃんありがとー!」


「ありがと大家さん! ――よっしゃ、行こうぜラキ!」


「うん!」


「おーい、気を付けろよ!」


「おう!」 「はーい!」


 何故か空の飛べるラキちゃんが大喜びで、早速リンメイと一緒にひらりひらりと下へ降りて行ってしまう。

 ふわりと滑空するのは、また別の楽しみがあるようだ。


 残された俺達はやれやれといった感じに破顔してしまうと、二人に続いて下へ向かう事にした。




 縦穴の最下層では、既にラキちゃんとリンメイがオオサンショウウオのような魔物を蹴散らしてしまった後だった。

 そんな二人は、幾つかある出入り口の内の一つの前で俺達を待っている。


 見れば、上から流れ落ちてきた水の流れも、二人がいる出入り口の方角へと流れていた。

 最下層に貯まった水は、水路からスクリーン(格子状の柵)の付いた壁の中へと流れて行ってる。


「来た来たっ。――あったぜ、次の大回廊!」


「この先にありました! 今度は 『雨の大回廊』 ですよっ!」


「おっ、次は 『雨の迷宮』 かぁ……。こりゃまた少々厄介な大回廊が来ちゃったね」


「そうなんですー」


「あらら……。こればっかりは仕方がありませんね」


 ダンジョンの再構築ごとに、様々な大回廊がランダムに選ばれて出現する。比較的楽な大回廊もあれば、少々厄介な大回廊まで様々だ。

 残念な事に 『雨の迷宮』 は、少々厄介な部類とされていた。


 二人に促されてそれほど長くはない通路を進むと、すぐに広い空間が見えてきた。

 俺達はすぐにその先へは入らず、警戒するように入口の脇から、そっと顔を覗かせて中を伺う。


 綺麗な正方形の石畳で整えられた大回廊の床は、一面にくるぶしほどの高さの水が張られた状態となっていた。……うん、間違いない。ここは 『雨の大回廊』 だ。

 ここは冠水した道路のように、常に水が張られた状態となっている。そして所々がまるで落とし穴のように、とても深いプールのような構造となっていた。


 そのため、うっかり進んでしまうと岡山県にあるガードレールの無い用水路のように、落っこちてしまう危険性がある。

 更に、この深い箇所には大回廊の主をはじめとした様々な水生の魔物が、獲物を待ち構えて潜んでいた。


 だから間違っても深い箇所へ近づいてはいけないし、ざぶざぶと派手に進んでしまうと、音や波紋によって魔物が俺達の進入に気付いてしまう。

 そうなると困った事に、次々と水生の魔物や、果ては主までもが襲い掛かってきてしまうのだ。


 そんな感じなので、ここを安全に攻略するには水上歩行の魔法が必須であった。――ただ、もしも水魔法の得意な魔法士がいなくても、実は攻略方法は有る。

 それがこの大回廊の名を冠している 『雨』 の存在だ。

 この大回廊は時間と共に天井から雨が降る。その雨が降って水面に振り落ちている間なら、辛うじて魔物に気付かれる事無く進む事ができた。


「ここの魔物は相手するだけ時間の無駄だからな、さっさと抜けるのが吉だぜ」


「だな。――リンメイ、ここは深い箇所を避けて進んで行きたい。君のギフトで最適なルートを見つけてくれるか?」


「おう、任せろ!」


「ケイタさん、ここはまた私が、精霊魔法で水の上を歩けるようにします。その方が安全です」


「ありがとうございます。……でも大丈夫ですか? 先程から大家さんの精霊魔法に頼ってばかりなので、大家さんの魔力マナが心配です」


「大丈夫ですよ、問題ありません。でも……、そうですね、念のため魔力マナポーションを飲んでおきます」


「分かりました。無理はしないでくださいね。――そうだラキちゃん、また解る範囲でいいので、今のうちに大回廊から外へ向かう脇道の確認をお願いできるかな?」


「はいっ! 少々お待ちください~」


「はい、よろしくお願いします。――では万全を期して雨が降り始めてからの移動にしたいので、それまではここで小休止にしよう」


「「「了解」」」


 今はまだ雨は降ってはいない。ここはセーフティゾーンではないので魔物が来ないか周囲に警戒しつつ、小休止を取る事にした。

 大家さんは大丈夫と言っているが、なるべく休んでもらいたい。それに、ラキちゃんにもマップの作成に集中してもらいたかった。




 ――パタッ……、パタッ、パタパタパタ……ザアァァァ……。


「降ってきたか……」


 雨が降ってくると次第に大回廊は薄暗くなっていき、辺りはもやが立ち込めて視界が悪くなってゆく。

 ここでの戦闘を少しでも回避するために雨の降っている間を選んだのだが、こうも視界が悪いとは……。これは……判断を誤ったか……?


 そんな事を考えていたら、唐突に俺のギフトが発動した。


「皆そのままで聞いて欲しい。ギフトが発動した。――どうもギフトは、 『罠に気を付けろ』 って警告しているようなんだ」


「えっ、罠ですか?」


「罠とは具体的にどんな罠だ?」


「それが、いまいち分からないんだよ。ただ……、とにかく注意しろって頭ん中で警鐘が鳴ってる」


「ふむ……」


「罠ってアレじゃねーか? ここの今回の主の……ほら、アレ!」


 リンメイが大回廊の方を指差す。

 視界の悪くなってしまった薄暗い大回廊の先に、ポツリポツリと提灯のような明かりが幾つも点き始めた。


「あれは……ランタントードか?」


「そう! 罠ってきっとアレだよ! 寧ろ主がランタントードなんてラッキーだぜこれ!」


 ダンジョンには基本的に、脅威となるような罠は存在しない。勿論このランタントードだったり、スライムやミミックのように冒険者を狩るために擬態するなどして罠に嵌めようとする魔物はいくらでも存在する。

 また、迷宮自身が冒険者を惑わせるような作りをしている場合なら幾らでもある。

 しかし、毒ガスや槍を仕込んだ落とし穴、釣り天井や毒矢などといった明らかに冒険者を仕留めにくるような罠は、ダンジョンの迷宮には存在しないというのが通説だった。


 ランタントードとは、まるでチョウチンアンコウのように舌の先を光らせ獲物をおびき寄せる、どでかいカエルの魔物だ。今回の 『雨の大回廊』 の主は、どうやらコイツらのようだった。

 何も知らずにあの明かりに引き寄せられ向かってしまうと、その大きな口でパクリとされてしまう。しかし逆に分かってさえいれば敢えて避けて通ればよいだけなので、非常に安全にやり過ごす事ができる魔物だった。


 だが……、本当にギフトはこんなに単純な罠に気を付けろと警告しているのか? ……どうも腑に落ちない。

 何故か分からないが胸騒ぎがするので、今回は先頭を行くリンメイの後に俺が続き、周囲を警戒しながら進む事にした。そのため、今回殿しんがりは水魔法士でもある優秀な盾役のエルレインに任せる。

 この水で満たされた大回廊だと、俺の雷魔法よりも彼女の能力の方がうってつけだ。安心して殿しんがりを任せられる。




 雨の降る薄暗い中を、リンメイは的確にランタントードのいる場所や水深のある場所を避けて進んで行く。

 俺達は大家さんの精霊魔法のおかげで水の上を走っていたので、魔物に気付かれない程度まで水の波紋を最小限に抑えていた。


 水上歩行をしているんだから水深のある場所を通っても良いだろうと思うかもしれないが、実際は深い場所を通ろうとすると、俺達の影を見つけた魔物が水底から襲ってくる。

 そのため俺達はリンメイの通った場所を間違えないよう、彼女の後ろを電車ごっこのように一列に進んでいた。


 暫く進むとラキちゃんのマップが示す、大回廊から抜け出せる最初の通路の入り口が見えてきた。

 その入口は俺達が入ってきた通路と同様に小さな階段の上にあり、周辺にはそこへいざなうかのようにポツリポツリと、水から顔を出した石畳が庭園の飛び石のように点在していた。


「おっ、やっと水の上じゃない所に下りれるぜっ」


 リンメイの気持ちはよく分る。俺も何故か、水に浸かっていない足場があると妙に安心してしまう。

 しかしリンメイが水面から顔を出している正方形の石畳に下りようとした時、突然ぞわりと肌が粟立ち、俺のギフトが何に警戒しろと言っていたのかを漸く理解してしまう。

 いや、そんなバカな!? 有り得ない! だが……!


 ――迷宮にブービートラップだと!?


「リン――」


 俺は力の限り跳躍するとリンメイの名を言い終える事もできないまま、石畳に足を付けてしまったリンメイを弾き飛ばした。


「えっ……!?」


 ――ドゴオォン!!!

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