043 海

 今日は海にやってきましたよ!

 俺達は十層のフィールドエリアに行けるようになったので、今日は薬草採取をした後、海で遊ぶために十層へやってきた。

 しっかり水着も買ってきたんですよ、フフフ。


 今回大家さんに頼まれたのは、砂浜に多く自生するリミースという薬草。ぱっと見、浜大根のようだ。

 この薬草は浜辺ならどこでも採れるのだが、聖都アルテリアは内陸なので普通に取り寄せようとしたら結構コストがかかってしまう。

 そのため、この十層の存在はかなり助かっているらしい。


 リミースは根、茎、葉、花全て使えるのでそのまま引っこ抜いて来て欲しいとの事。

 砂地なので簡単に抜けるし、沢山生えているからすぐに頼まれた分は集まってしまった。


「よし! おーわりっと」


「すぐに終わっちゃったね」


「だね。んじゃ、海水浴にいこうか!」


「「おー!」」


 俺達は早速多くの人が楽しんでいる海水浴場の方へ向かった。

 海には勿論魔物がいる。しかも凶悪なヤツが。

 しかし海水浴場としている区間は、水玲人の人達をメインに海好きの有志が集まり、結界を張って魔物が寄ってこれないようにしている。

 まあその分入場料は取るんだけどね。

 周辺には簡易的な海の家が作られていて更衣室や脱衣箱ロッカーがあり、食べ物や雑貨も売られている。

 俺達も勿論脱衣箱ロッカーは利用するのだが、念のため大半の荷物はラキちゃんの亜空間収納へ入れさせてもらった。


 先に着替えて出てきた俺はラキちゃんとリンメイを待つ。

 程なくして出てきた二人はとても可愛い水着姿だった。


「二人とも似合ってるよ。可愛いぞ」


「えへへ」


「う、うっさい。あんましジロジロ見んなスケベ」


 二人の照れる姿がまた可愛い。

 リンメイは初めて会った頃よりも大分、体が引き締まってきていた。本人曰く、以前の状態までもうちょいとの事。

 ラキちゃんはこのような軽装だと額の第三の目が目立ってしまうように思えるが、サラス様がくれた認識阻害の機能を持ったサークレットを付けているため問題無い。


 この世界では水中眼鏡は必要無い。魔力マナを目の部分に集中させレンズのような層を作る事で水中眼鏡の代わりができるからだ。

 魔力マナってやっぱり凄い!

 ラキちゃんもリンメイも泳いだ事が無いそうなので、一応俺が泳ぎ方を教える事になった。


「目の周りに魔力マナの層を展開できたら、とりあえず顏を水につけて海の中を覗いてみようか」


「はーい」 「おっけー」


 俺も目の周りに魔力の層を展開し、水の中を覗いてみる。

 おお、海も綺麗な事もあって鮮明に見える!


「きれーだな!」


「おさかなさんいた!」


 顏を上げて感想を述べてくれる二人の様子からして、全然水に対する恐怖心は無さそうだね。


「んじゃ次は浮かんでみようか。全身緊張せずにだらーんとしてこんな感じにすれば、普通に浮くから」


 そう言って俺はうつぶせになり、ぷかりと水に横たわって流れに身を任せた。


「アハハ、おっさん水死体みたいだな!」


 二人はセンスの塊なので、すぐに水に浮かぶ事を覚えてしまった。

 もうここまでくれば、後は普通に手足を動かせばいいだけだ。

 俺はこちらの世界の泳ぎ方を知らないので、クロールや平泳ぎなど、自分の知っている泳ぎ方を教えてあげた。


 二人はあっという間に習得し、自由に泳ぎ回っている。

 仕舞には水魔法を使って自分で流れを作り、魚のように泳ぎだした。

 更には超電磁スピンみたいに水中をグルグル回転して泳いでいる。


「こらソコ! 魔法使って派手に泳がない!」


 突然笛の音が鳴り、監視のお姉さんに怒られてしまった。


「怒られちゃったね」


「しゃーねーな」


 注意されても二人はケタケタ笑って楽しそうだった。……まーいっか。


 俺達は泳いだり潜ったりして十分に海を堪能したので、次は海の幸を堪能しようという事になった。

 海の家では様々な海産物の網焼きが売られているので、俺達はあれこれと購入し、舌鼓を打つ。

 ソルジャークラブの爪もあったから初めて食べたが、結構美味しかった。


 腹も膨れた俺達はデッキチェアを借りてまったりとくつろいでいると、突然ラキちゃんがハッとして顔を上げた。


「どうしたの?」


「救難信号が聞こえる……」


「救難信号? なんだそれ?」


 救難信号をこの世界で出せるのは魔王様の配下である魔族の皆さん位なものだ。

 このフィールドエリアに来ている? 何かあったのか?


「とりあえずその場所に向かってみようか」


「うん」


 まだよくわかっていないリンメイにとりあえず納得してもらい、急いで着替えて救難信号の発信源へ向かう事にした。

 ラキちゃん曰く、どうやら海水浴場から結構離れた浜辺との事。


「ちょっと急ぐね!」


 人目が無くなった辺りでラキちゃんは六枚の光の翼を展開して右手で俺の左手を、左手でリンメイの右手を繋ぎ、俺達をぶら下げる形で一気に飛んで向かった。

 人目に付かないように、海岸沿いを低空に飛んでいく。


「わ! わ! わ! ラキって飛べるのかよ! すげーな!」


「えへへ」


「そりゃ大天使ラクス様の妹君だからな。何でもできちゃうぞ」


「なんでそんな天使様がおっさんと一緒にいるんだよ?」


「お兄ちゃんが私と家族になろうって言ってくれたからなんだよー」


「ふーん……。ラキさぁ、あんまし悪い男に騙されないように気ぃ付けろよ」


「失敬な!」


「あははっ! おにーちゃんはだいじょーぶ! それーっ!」


 目の前にいたカニの魔物を飛び越えた。

 地上の魔物は飛び越えて、空から来る魔物はラキちゃんの第三の目から放たれるビームで撃ち落とす。

 ラキちゃんはギリメカリスに放ったビームを極小に抑えた感じの出力で、縦横無尽に打ちまくっている。まるでシューティングゲームのような状況だ。

 俺達も一応抜刀していたが、全く必要は無さそうだった。


 結構な距離を移動した辺りで、ラキちゃんが目標を見つけたようだ。


「あそこ!」


 浜辺に流れ着いていたのは、やっぱり魔族だった。

 角と翼がなければ、まんま普通の電気工事のおじさんな見た目の魔族は、海の魔物にやられたのか全身ボロボロの状態だ。

 ラキちゃんは急いで神聖魔法を掛けてあげる。


「なっ!? コイツ魔族じゃねーか!」


 そういえば魔族は魔王の配下で人類と敵対しているって設定だったなーと、余りに慣れ過ぎてて忘れてたよ。

 思わず身構えたリンメイに、とりあえず説明しとかないとまずいな。


「ああ、魔族はなんというか、敵じゃないんだよ」


「はぁ!? 何言ってんだおっさん!」


「ううーん、どう説明したら良いのか……。とりあえず今から話す事は秘密にしといて欲しいんだけど、魔族は大天使ラクス様の部下なんだよ」


 うわ、何言ってんだコイツって顏してる……。まあしょうがないんだけどさ。


「もーお兄ちゃん説明がヘタ! 魔王様は私とお友達なの。だから魔族の人達も大丈夫なんだよっ!」


「えぇ~……」


 ラキちゃんも俺とあんまし変わらない気が……。リンメイ今度は困惑してるよ。


「う……、うーん」


「あっ、目が覚めたみたい」


「あれっ? 私は助かったのか……? ややっ! ラキシス様ではありませんか!」


 怪我もラキちゃんが治してくれた事に気が付き、魔族のおじさんは頻りにお礼を言っている。


「おじさんは何でこんな所にいたんですか?」


「いやー、フィールドエリアの定期点検に来たんですが、ゲートの出現座標を間違えてしまいましてね。そのまま海に落っこちちゃったわけですわ。ワハハッ!」


 随分とおっちょこちょいだなあ……。

 にしても定期点検? ダンジョンは魔王様が作ったのか?


「あのー、ダンジョンてもしかして魔王様が造ったんですか?」


「そーですよ。そのため私たちはこうして定期的に異常が無いか点検に来てます、ハイ」


「へぇー。ってそもそもダンジョンて何のためにあるんです?」


 こんなトンデモ施設がなんのために存在するのかとても疑問だったので、思わず聞いてしまう。


「んー、一番の理由としては地上から魔物を減らすためですかねぇ。そのままだと農業などの発展が不可能なほど魔物がおりましたから」


 あーそうなのか。どうりで地上だと人の生存圏にそれほど魔物がいないわけだ。


「世界各地のダンジョンは、様々なエリアに点在している転移門から魔物をおびき寄せてるんですな。いちいち狩って間引くのは大変手間ですし」


「あーなるほどねぇ。分かりました。教えて頂きありがとうございます」


「いえいえ、これくらいお安い御用ですよ」


 それからおじさんはよっこいしょと立ち上がり、魔道具の端末をいじりだしたのだが。


「ありゃ、ゲートキーが壊れちゃってる。まさか通信端末も? ダメか……。参ったなぁ……」


 魔族のおじさんは魔道具が壊れて困っているようなので、ラキちゃんが助け舟を出してあげた。


「おじさん、サラスお姉ちゃんに連絡入れた方がいい?」


「おおっ! お願いできますか?」


「はーい。ちょっとまってね」


 それから暫くして、 『ピンポーン』 と軽快な音が鳴った後、空間に光の筋がドアの形に走って行き、光の扉が開いた。

 まるでどこでもドアのようだ。

 出てきたのは魔族のお姉さんだった。


「もー、トリスさん何やってんですか! 気を付けてくださいよね! 心配しちゃったじゃないですか!」


「アハハ……ごめんよミラちゃん」


 ミラちゃんと呼ばれたキャリアウーマンな感じのお姉さんに、トリスさんはタジタジだ。


「ラキシス様、そして御一緒のお二方、この度は誠にありがとうございました。ささやかではありますがお礼の品としてこちらをお受け取り下さい」


 それからお姉さんはパチンと指を鳴らすと、三つの宝箱が出現し、自動的に蓋が開いた。


「システムの都合上、この階層での最上位品しかお出しする事ができないのが心苦しくありますが、よろしければご活用くださいませ」


 ずっと俺の背中からおっかなびっくりな感じに静観していたリンメイが歓声をあげる。

 中を覗くと、小さなウエストポーチがそれぞれ入っていた。最上位品がこれということは!


「こっ、これマジックバッグだっ!」


 リンメイが目を見開いて驚いている。

 おおお! やっぱりマジックバッグだ!


「それでは皆様、本日はトリスを助けて頂き誠にありがとうございました」


「皆さんありがとうございました」


 トリスさん達二人は深々とお辞儀をした後、ゲートを通って帰って行った。

 俺達は手を振り見送った後、早速マジックバッグを取り出す。


「いやー!、魔族っていい奴等だな!」


 リンメイのあまりの現金な物言いに思わず吹き出しそうになる。君は本当に可愛いな。

 ラキちゃんも亜空間収納があるけど 『それはそれ、これはこれ』 といった感じのようで、とても喜んでいる。

 たしかにデザインも良いしね。


「このサイズでも白金貨三枚はするからなー。まさかこんなに早くマジックバッグ持ちになれるとは思わなかったから嬉しすぎてやばいな」


「あたいもだぜ!」


「これでアイアンニードルの針の持ち運びが楽になるのが嬉しい」


「あっ、それいいな! あたいもそうしよーっと」


 そんな感じでウキウキ気分での帰り道だったのだが、半分ほどの道程まで帰ってきた辺りで突然 【虫の知らせ】 スキルが発動する。


「何か危険が迫ってるようだ。気を付けてくれ」


 リンメイにも俺のギフトの事は伝えてあるので、状況を判断し、切り替えてくれた。


「……うん、臭うな。この国の人間じゃない」


 リンメイは誰かの臭いを嗅ぎつけたようで警戒を引き上げたようだ。


 暫く進んだら島側の林の方から数人の冒険者が現れた。

 リンメイの言った通りだ。身なりからして異国の冒険者のようだ。

 そいつらは現れたかと思うと抜刀して迫ってきた。


「そちらの聖女、貰い受ける」

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