042 九層ボス攻略

 次の日、今日もカイト達と一緒にダンジョン探索だ。

 俺達が待ち合せの場所で待っていると程無くしてカイト達も来たので、とりあえず最新版のマップを購入して昨日の確認をする事に。

 ラキちゃん作成のマップと最新版のマップを見比べると、昨日の探索は結構良い線行ってた感じだった。


「あー、ここから曲がって行けば良かったのか」


「ホント、惜しかったわね」


 皆でマップを確認した後、今日の方針をカイトが告げる。


「おっし! んじゃ今日は九層ボス部屋前までの到達を目標に行ってみようか。それで可能ならボスに挑みたい」


 パーティメンバー全員が了承し、早速六層から進んで行く。

 やはりボス部屋前までの最短ルートが記されたマップが売られる日は人が多い。

 ボス部屋に向かうパーティ、最短ルートを避けて宝箱を探すパーティなど様々だ。


 俺達はボス部屋に向かうため最短ルートを移動中なのだが、見える範囲に他のパーティが先行しているので全く魔物と遭遇しない。

 昨日の間にソルジャークラブにある程度慣れる事ができたのは良かったと思う。

 今日だったら、わざわざ最短ルートから外れて魔物が潜む場所まで赴く必要があったから。




 なんというか、あっさりボス部屋の前まで着いてしまった。


「うわ、もう着いちゃった」


「一度も戦闘しなかったな」


「ホントだねー」


 俺だけでなくリンメイやラキちゃんも、あまりのあっけなさにビックリしてしまっていた。

 四層のボス部屋前に向かった頃よりも楽に感じたくらいだ。


「なんかもうマップが発売された日にさっさと来てボス倒した方が良い気がしてきたな」


「でもこれができるのは低層だけだからなぁ」


「まぁなー。でもこれならさ、昨日見たギルドの依頼は楽勝そうじゃん?」


「あー、たしかに」


 低層がなぜ低層と分類されているかは訳がある。それは上り階段下り階段が一つずつしかないからだ。

 そのため、階段さえ見つける事ができれば、確実に次の階へ進んで行く事ができる。

 これが中層以降となると、上り下りいくつも存在し出し、酷い時には一旦ボス部屋のある階層まで降りてからまた上に何層か上がって再び降りないと、ボス部屋に辿り着けないなんて時もあるんだとか。

 そのため移動距離も大幅に増えてしまう。場合によっては宿泊用の装備も持ち歩かないといけない。

 だから基本的に中層以降でボス部屋までのマップは販売されない。作成時間がかかり過ぎて儲けにならないからだ。

 なので中層以降で売られるマップは、フィールドエリアの階段を下りてから一日で往復できる範囲のみとなる。そこを狩場にする冒険者用だ。


 マップを頼りに来ているパーティが多いだけあって、やはりボス戦待ちの順番が出来てしまっている。

 パーティメンバーの誰もがボス戦に挑むなら早く並んだ方が良いと感じ、臨時パーティのリーダーであるカイトに注目が集まる。


「今日は戦闘も無くかなり早く着けたし、このままボスに挑みたいと思う。皆どうだろう?」


 勿論、誰も異論は無い。


「よし! じゃボスに挑もう!」


「「「おー!」」」


 と言う事で、俺達はボス戦を待つ列に並ぶ事にした。

 待ってる間に、まずは全員でボス戦の攻略手順の打ち合わせをする。

 まずは真っ先にソルジャークラブ四匹を倒したいので、右の二匹はリンメイとジェシカが受け持ち、左の二匹は俺とマイアが担当する事となった。

 リンメイ達の方はジェシカの攻撃魔法で弱らせ、リンメイが止めを刺すそうだ。

 俺達の方は一人一匹ずつ受け持つ予定。

 その後ジェシカがボスに向けて再び攻撃魔法を放ち、その後前衛三人で仕留めにかかるという感じ。

 カイトはボスが後衛に向かわないように壁役を受け持ち、ラキちゃんは回復役だ。


 とりあえず役割も決まった事だし、弁当でも食べながらのんびりと待つ事にする。

 今日のお弁当はラキちゃんとリンメイで詰めてくれたそうで、とても美味しそう。


「なあおっさん、アイアンニードルの針何本かおくれよ。開幕に昨日覚えたおっさんの技使いたいからさ」


「おぅ、いいぞ。今日は俺も開幕やるつもり」


 リンメイにはとりあえず六本渡した。まだ慣れてないだろうから、魔力マナを練って一本ずつ確実に投擲した方が良いだろうと伝えておく。


「おっけーおっけー。ありがと」


「それにしても、おじさんついこの間まで身体強化すら使えなかったのに、色々とできるようになったんだね」


 俺達のやり取りを見ていたジェシカが話しかけてきた。


「まあなー。これでも頑張ったんだぜ」


「えっ?、おっさん身体強化できなかったのか?」


「そうなんだよ。ギルドの講習でおっさんが魔力マナ使った事が無いって言ってて、周りの奴等皆ビックリしてたもんな」


 驚いているリンメイに、カイトが言わなくてもいい説明をしてくれる。あれは俺の黒歴史なんだから掘り返さないで……。


「アハハ! なんだそれ」


「ふふん! 今はバッチリできるぜ! どうだ? 俺の成長速度の素晴らしさは?」


「はいはい、凄い凄い」


 他愛もない雑談をして時間を潰していると、やっと次が俺達の番となった。

 今回左側二匹のソルジャークラブを担当とする俺とマイアは手順を確認し合う。


「おじさん、頑張りましょう!」


「おぅ! よろしくな。俺がなんとか雷魔法で敵をマヒさせるから、一匹止めを刺してくれ」


「わかりました!」


 マイアは今回前衛としての戦闘をあまりしなかったせいもあり、緊張した面持ちだ。これは俺が頑張らないと。

 リンメイの方もジェシカと確認している。


 そうこうしているうちに、ボス部屋の扉が開いた。

 いよいよ俺達の番だ。俺達が早速ボス部屋に入ると、いつものように扉が閉まる。

 真ん中に一つの大きな魔法陣とその左右に小さな魔法陣が二つずつ現れ、ボス達が出現する。

 ボス達が実体化したら、俺とリンメイはそれぞれアイアンニードルの針を投擲した。

 リンメイはソルジャークラブの足元に一本ずつ打ち込み、氷魔法を発動させてソルジャークラブの足と床を固定してしまった。


「ナイス! リンメイ!」


 二匹がばらけないうちに、ジェシカが二匹を巻き込む攻撃魔法を打ち込む。


 俺の方は今回も両手に三本ずつアイアンニードルの針を持ち、フルパワーの身体強化で投擲した。

 二匹に対し三本ずつの投擲をして、なんとか一本ずつは当てる事ができたので透かさず雷魔法を打ち込む。


「いまだ!」


「はいっ!」


 俺とマイアは駆け出し、マヒ状態のソルジャークラブを仕留めに行く。

 普段マイアは前衛も務めているので、問題無く身体強化をした短槍の一撃で止めを刺してくれた。

 リンメイも二匹に止めを刺したようだ。


 ボスのピンククラブの方を見るとカイト達に突進していた。


「まずいぞ、回避しろ!」


 カイトは自分一人では突進を抑えきれないと判断して後衛二人に叫ぶ。

 しかし回避する必要は無かった。


 ――ガイィィン!


 ラキちゃんの結界魔法がピンククラブの行く手を阻んだからだ。


「いいね! 皆下がって!」


 ジェシカはそう言い、攻撃魔法を放った。


 ――ガガガガガッ!


 ジェシカの魔法は風と土の複合魔法のようで、魔法で生み出した石を含んだ風魔法だった。

 まるでミキサーのようなそれは、ピンククラブの甲羅に次々と抉ったような傷を負わせていく。


「いくぞ!」


 カイトの掛け声と共に、前衛の俺達は魔法により抉られて弱くなった箇所を狙い、一気に畳みかける。


「任せろぉ!」


 最後はリンメイの一撃により、見事にピンククラブを倒す事が出来た。


「やった!」


「よし!」


 ボス達が消え、その後にはお待ちかねの宝箱が出現する。

 今回は五匹いたので五つ出るのかと思ったが、そこまで甘くは無く、今回も三つだった。


「よーし! 早速開けようぜ!」


「おっけー!」


 皆が注目する中、ジェシカが一つずつ宝箱を開けていく。

 最初の箱には魔力マナポーションが三本ほど入っていた。


「なーんだ、ポーションかー」


 しかしポーションは結構高値で売れる。宝箱から出るポーションは全て小瓶に価値があるからだ。

 小瓶には中身を保存するための魔法がかかっており、長期保存が可能という特性を持つ。

 因みに中身は至って普通だ。大家さんの作る方が性能が高かったりする。


 二つ目の箱は魔導石が入っていた。以前手に入れた物よりも若干大きい。


「なんだ二つ目もパッとしねーな」


「でも結構良い値段で売れますね」


「確かにそうだけどさ。もっとレアアイテムがでねーかな」


「まだ低層だしそれは厳しいだろー」


 そして最後の宝箱に期待が集まる。

 中にはなんと剣が入っていた。剣は長いので縮小されたサイズで入っている。

 でもこの剣、とっても見覚えがあるんだが……。


「これおっさんの剣と同じじゃねーか?」


「ホントだ。そういえば俺の剣は店の人が低層の迷宮産て言ってたな」


「てことはショートソードかよ。いらねー」


「じゃ、あたいが買い取っていいか?」


 暫く眺めていたリンメイはニヤリとして、買い取りを名乗り出た。

 その笑みが気になるんですけど……。俺達の知らない何かが見えてるのか?

 結局他には誰も名乗りを上げなかったから、リンメイが買い取る事となった。


「じゃ、この剣はあたいの物だな!」


 そう言い宝箱から取り出した剣は、リンメイが使っている剣と同じくらいの長さとなって出てきた。

 えっ!? ショートソードじゃない?


「あれれー? ショートソードじゃないぞー?」


 何だよその少年探偵みたいなわざとらしい言い方は……。

 まさか俺の剣、ドワーフ辺りの小柄な人が手に入れたからショートソードの寸法だったのか!?


 リンメイは、後ろで 「何だよそれー!」 と文句を言ってるカイトに見えないように、俺とラキちゃんに向けてペロッと舌を出して見せた。

 全くもう……。


「ちぇっ、しょうがねえな。――んじゃさっさと十層いこうぜ」




 転移門ポータルを抜けると、そこは海だった。

 潮の匂いが懐かしい。昔海水浴をした記憶が蘇ってしまった。


「わー! すごーい!」


 メカリス湖でも感激していたラキちゃんは、更に大きな海を見て大喜びだ。


 十層の転移門ポータルは海の見える浜辺の近くにあった。

 五層と同じような作りと配置がされているので、十一層へ下る階段は転移門ポータルのすぐ隣にある。


 浜辺の方を見ると、海水浴をしている人達がちらほら見えた。

 水着は地球の水着と大して変わらないんだなー。

 セクシーな水着姿のお姉さん達に思わず見とれてしまっていたら、 「そんな顏して見ちゃダメ!」 とラキちゃんに怒られて帰りの転移門ポータルに促されてしまった……。


 砂浜で遊ぶ事もなく戻ってきた俺達は、早速冒険者ギルドで精算する事にする。

 その後、皆で祝勝会をする予定だ。


「あたしらはここで待ってるから、カイトとおじさんで精算お願いできない?」


「おお、いいぜ」


「了解だ」


 ジェシカに頼まれたので俺達はそれぞれのパーティメンバーの冒険者証ギルドカードを受け取り、精算に向かう。

 また、リンメイの買い取った剣も査定に出して値段の確認をするために、一旦預かる。


 リンメイの剣は俺が買った値段よりも高い査定を出してしまっていた。うそーん、長さが変わるだけでこんなに価値が変わるの? もしかして性能も何か違う?

 ポーションと魔導石は査定してそのまま売却だ。

 精算時、受付のお姉さんにリンメイとラキちゃんはそろそろ黒曜級に昇級できますよと言われた。

 後で二人には昇級審査を受けれるよと伝えておかねば。


「じゃ、とりあえず今日の儲けをパーティ毎に分けておくか。――これがおっさんのパーティの分な」


「確かに。――そうだ、リンメイの剣の分はとりあえず俺が立て替えておくよ」


「分かった」


 俺はリンメイが買い取る事となった剣の代金を、向こうの取り分だけ立て替えてカイトに支払う。


「なんだ? ……なあおっさん、うちの連中がなんか揉めてるぞ」


「えっ?」


 何気なくパーティの方を見たカイトは、何か異変に気が付いたようだ。

 俺もパーティの待つ場所を見ると、どうやら俺とカイトのパーティで言い争っているようだ。




「あんましあたいらを虚仮こけにすんじゃねーぞ。あたいらは望んでパーティ組んでんだ!」


「うんうん!」


 俺とカイトが戻ってきたら、何故か険悪なムードになっていた。

 リンメイだけでなく、ラキちゃんまで頬を膨らませてお怒りのご様子。


「どうしたんだ?」


「おう、おっさん! 祝勝会はあたいらだけでやろーぜ。いくぞ!」


「いこいこっ!」


 ラキちゃんもリンメイの言葉に同意し、俺の背中を押してこの場から離れるよう促してきた。


「おっ、おい? どうしたんだ?」


「いいから!」


「別にあたしはそんなつもりで言ったんじゃないんだけどなー。またねー」


 ジェシカはやれやれといった感じで言い、マイアは 「すみません」 と頭を下げた。


「もう次はねーよ!」


「イーだ!」


 なんて顏してるのラキちゃん……! 怒った顔もカワイイけどそんな顏されるとお兄さん心が痛むよ。


「えーっと……、何があったの?」


「あの女、あたいらがおっさんにお情けでパーティ組んであげてるの勿体ないから、自分たちのパーティ来ないかって言いやがったんだ!」


 リンメイはプンスコ怒りながら教えてくれた。


「お兄ちゃんと一緒だと先が無いって言ったんだよ! お兄ちゃんだけ除け者にしようとして許せない!」


 ラキちゃんも大変ご立腹だ。こんなラキちゃん初めてかもしれない。


 あー……、ジェシカは二人だけ向こうのパーティに引き抜こうとしたのか。

 その事に対し、二人は本気で怒ってくれたんだ。俺のために……!

 やばい、ちょっと泣きそう。


「二人ともありがとな……! ――よっし! 今日は俺が何でも奢っちゃう! 美味しいもの食べて嫌な事忘れちゃおうぜ!」


「「おー!」」


「あたい肉がいい! それもとびっきり分厚いの! もう 『ガーッ!』 と食べたい!」


「おぅ、いいぞ!」


「私はねー! クリームたっぷりのパンケーキ! 私も 『ガーッ!』 と食べる!」


「了解だ!」


 そうして、俺達はアレ食べようコレ食べようと話しながら、繁華街の方へ向かって行った。

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