039 新しい技

 今日はリンメイが俺達の下宿先へ引っ越すので、手伝いにやってきた。

 受付で宿のおばさんに断りを入れ、上がらせてもらう。


「ラキちゃん、俺ちょっとキリム達の所に行ってくるから、先にリンメイのお手伝いお願いできるかな?」


「はーい」


 そうして二手に分かれ、俺はキリム達が宿泊している二人部屋に向かった。

 ノックをするとキリムの返事が聞こえたので、今日はまだ居るようだ。


「おはよう、ケイタだけど」


 名乗ると扉を開けてくれた。サリムもいたようで、一緒に迎えてくれる。


「おじさんおはよー」


「おはようございます。今日はどうしたんですか?」


「朝からゴメンな。えっと、ちょっと話がしたいんだけど中に入れてもらえる?」


「いいですよ、どうぞ」


 それから、昨日リンメイが自分達の所にやってきた経緯を話した。


「あちゃー、おじさん達巻き込んじゃったようでゴメンね」


「なんかすみません」


 申し訳なさそうに謝る二人。


「いや、その事はいいんだ。――そこでなんだけど、俺達の方でリンメイを受け入れるよ。恐らくだけど、キリム達の活動に支障が出てるんだろ?」


 今日先にキリム達の所へ来た理由を持ち出す。

 すると、図星だったのか二人は驚いた後、ばつの悪そうな顔をする。


「実はそうなの……」


 ポツリとサリムが呟いた。


「だと思った」


「でも、いいんですか?」


「それに、リンメイは納得するかしら?」


「その辺は大丈夫だと思うよ。実は昨日、彼女が俺達の下宿先に住みたいって言いだしたんだ。だから、キリム達さえよければリンメイをこちらの固定パーティに迎え入れるつもり」


「そうですか。俺達は勿論構いません。――では、すみませんがリンメイの事よろしくお願いします」


「ごめんねおじさん。あの子の事お願いね」


「ああ任された。その代わりと言っちゃなんだが、俺達とたまにはパーティ組んでくれよな」


「それは勿論!」 「ええ!」


 それから俺はリンメイの引っ越しの手伝いに来た事を伝えると、二人も部屋まで付いて来てくれた。

 リンメイの部屋に行くと、元々荷物は少なかったのか、もう既に片付いていた。


「おはよう。もう片付いたんだな」


「おはよ。荷物は全部ラキが預かってくれたんだ」


 リンメイの後ろでラキちゃんが手を振ってた。

 なるほど、ラキちゃんが荷物を亜空間収納に入れてくれたのか。


「おはよー。昨日はごめんね、確認もせずパーティ決めちゃって」


 後ろから様子を伺っていたサリムがリンメイに声を掛けた。


「あっ、おはよ……。あたいこそ勝手に抜けてごめん……」


「おはようリンメイ。君は別に謝る必要は無いよ。悪いのは俺達だ」


「そうそう。それより聞いたよ、おじさん達と同じ所に下宿するんだってね」


「うん。それで……、あの……」


 リンメイは何か言いたそうにしていたから、俺が先に言う事にした。


「そうそうリンメイ、折角だし、俺達と固定パーティ組まないか? 俺達へなちょこだからさ、君がパーティーに入ってくれたら心強いなー」


「うんうん、へなちょこだからリンメイお姉ちゃん入ってくれたら心強いなー」


 俺とラキちゃんの言葉に、リンメイはぱっと表情を明るくする。


「しょ、しょーがねーな。おっさんのパーティに入ってやるよ!」


 つい先日と同じような俺のセリフを皆覚えていたようで、皆で ふふふ と笑ってしまった。

 それからキリムとサリムに見送られ、俺達は宿を後にした。




 こうしてリンメイも大家さんの家の下宿人となり、夜にはリンメイの歓迎会が行われた。

 ミリアさんはトマス君からリンメイの事を聞いていたらしく、とても好意的だ。

 臨時職員に前向きな事も聞いていたようで、 「制服も準備しとかなくちゃね」 と張り切っていた。


 これで下宿人の部屋は満室となった。

 そのため食事面で大家さんの負担が増えてしまうのではと心配になったが、ラキちゃんとリンメイが手伝ってくれるので問題無いとの事。

 すみません大家さん。俺は炊事ダメなので他の部分で頑張ります。


 ともかく、これで俺達も三人パーティだ。

 これを機に、暫くはダンジョンの攻略を頑張ってみてもいいんじゃないかと思っている。

 ただキリム達は暫くは他のパーティとの探索で忙しいらしく、残念ながら都合が合わないようだけど。




 今日はダンジョンの再構築の日。

 俺はムジナ師匠の所へ投擲術を習いに来ていた。リンメイはラキちゃんを連れてダンジョン周辺の露店へ出かけて行ってる。

 ミリアさんにも勧められてその気になったのか、リンメイは 【鑑定技能】 の強化をするために露店巡りをして、色々と売られている迷宮産のアイテムを見て回るんだとか。

 目標であるお姉さんに少しでも近づきたいけど道が見えず鬱屈としていた頃から一転して、自分のギフトに希望を見出したリンメイは前に進んで行けているようだ。


 今日教えてもらった技はまさに奥義とも言える、これまでの悩みを一気に解消してくれる性質を持っていた。

 俺は新しい技を試してみたい衝動に駆られながら、いそいそと帰る。

 どうしよう、物凄く試したい。これから五層に行って練習してこようかな?

 そんな事を考えながら帰っていたら、不意に 【虫の知らせ】 ギフトの警鐘が頭に鳴り響く。


 暫くすると、先日コテンパンにした獣人の五人組が現れた。

 ……大人しくはしてないだろうとは思ったが、随分と早いご登場だな。


「よぉ! 待ってたぜ」


「リンメイにはもう関わらないと言ったがお前は別だ」


「只人が舐めやがって」


「ぶっ殺してやる」


「先日は油断したが俺がギフトを使えばお前なん……」


 どいつもこいつも鬱憤が溜まっているようでダラダラと喋ってくれる。

 こんな隙を生かさないわけがないだろう。

 俺は素早くアイアンニードルの針を両手で三本ずつ引き抜き、フルパワーの身体強化と風魔法を使って連中に向かって投擲した。


 ――ドス!ドス!ドス!ドス!ドス!


「ぐあっ!」


「くそっ!」


「いっでぇ!」


 致命傷には程遠いが、全員の体のどこかに打ち込む事に成功した。

 フルパワーで投げたので、革鎧や腕でガードされた籠手にも突き刺さっている。

 今回教えてもらったのはここからだ!


「ドン!」


 俺は当てた針を避雷針のように紫電を誘導させ、全員に雷魔法をお見舞いしてやる。

 パシーン! と良い音がして全員焼け焦げ、マヒ状態となり動けなくなった。


「「「がぁぁ!」」」


「ギフトなんか使わせるわけねーだろ!」


 俺は抜刀しながら距離を詰め、先ほどギフトがどうのと言いかけた奴の首を落とす。

 前回遭遇した時ですら見逃すのは甘いなと思ってた位だ。二度目は無い。


「まっ、まっでぐれ!」


「待つかよ馬鹿」


 問答無用。俺はさっさと全員の首を落とした。

 それにしても上手くいったな。思っていた以上の手ごたえがあり、嬉しさでかなり興奮している。この技は使えるぞ!


 今回教えてもらったのは、投擲した得物に魔力マナを糸のように繋いだ状態にしておき、その魔力マナを辿って刺さった対象に適性魔法を打ち込むというもの。

 以前アイアンニードルの針に魔法を纏わせて投げる事ができないかと試した事があったが、体から離れるとどうしても魔法の効果が霧散して属性攻撃にはならなかった。

 だがこの方法ならば適性魔法を遠くの敵に当てる事ができる。


 ムジナ師匠は風魔法の適性があるので、的に針を打ち込んだ後に術を発動させると、風魔法により的がズタズタに切り裂かれた。

 俺の場合は雷魔法に適性があるので、今回のように雷魔法を打ち込む事に成功した。

 本来雷魔法に指向を持たせるにはラキちゃんのように天候を操れるくらいの強大な力が無いとできないが、これならば俺でも狙った場所に当てられる!


「おぅ、見事だケイタ」


 そんな声と共に影からムジナ師匠が現れた。


「あっ、ムジナ師匠。さっき教えてもらったの、上手くできましたよ」


「まったく、いきなり使う羽目になるとはな」


 周りの惨状を見回し、ムジナ師匠はため息をつく。


「教会の方まで聞こえちゃいましたか?」


「アホぅ。こんだけ血の臭いがしてりゃ誰だって分かるわ」


 そう言いつつも、死体漁りを始めた。


「こいつらの死体どうしましょう?」


「あぁ、ほっときゃいい。こういうのを片づける奴等に銭稼がせてやれ」


 そんな連中もいるのか。


「ほら、行った行った。俺も帰る」


 そう言ってムジナ師匠はまた影に潜って行ったので、俺も急いでこの場を離れた。

 やはり法で守られてもいないこの世界では、禍根を残す行為は危険だ。

 甘い考えのままじゃダメだなとつくづく思いながら、俺は帰路に就いた。

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