038 覚悟

 声の方を見ると、そいつらは豹や獅子や虎といったネコ科タイプの獣人で構成された五人組のパーティだった。

 リンメイは引きった顔をしている。

 もしかして……こいつ等がリンメイを襲った連中か!?


「リンメイちゃん久しぶり~。この前はどうして逃げちゃったのかなー?」


「なんかちょっとぽっちゃりした? 俺、今のが好みだから嬉し~」


「俺達すっげぇ会いたかったんだよー」


 連中は馴れ馴れしくリンメイの方へ寄って来た。俺とラキちゃんは眼中に無いようだ。

 俺は、怯えるも気丈に振る舞おうとしているリンメイに手を伸ばそうとする獣人の男の手首を掴み、殺意剥き出しの顏で言い放つ。


「俺も会いたかったぜぇー!」


 俺は油断して近寄って来たそいつに最大限に身体強化して更に紫電を纏った下突きのボディーブローを決めて浮き上がらせ、くの字になって崩れ落ちる頭にブラジリアンハイキックのような上段回し蹴りを放って床に叩き付けた。

 更にそいつの頭を踏みつける。


「お前らよくもうちの大事な仲間を襲ってくれたなぁ! ギッタンギッタンにしてやる!」


「なっ!? てめぇ!」


 一番近くの奴が抜刀しようと柄に手を掛けたタイミングを狙い、紫電を纏った右の後ろ蹴りを放ち剣の柄を握った手首を折る。

 そのまま体を捩じりながら左の下段回し蹴りを放ち、相手の腿をへし折った。


「ぐあぁぁ!」


「野郎! ぶっ殺してやる!」


 あと三人。向こうは武器を構えた。

 今日は何となくぶん殴りたい気分だから徒手で叩きのめしてやる。

 俺は四肢に紫電を纏わせ、不敵な笑みを浮かべて構える。今の俺はサイヤ人のナッパな気分だ。


「リンメイ! 丁度いい練習台が来たぞ!」


 俺はリンメイに発破を掛けると、俺が二人を沈めたのに呆気にとられていたリンメイがハッとして答える。


「おっ、おう! やってやらあ!」


 言葉とは裏腹に、まだ覚悟ができていない感じだ。もう一息かな?


「お姉さんに憧れてんだろ! こんな所でつまずいてる暇なんかねーぞ!」


「う、うるせぇ! おっさんに言われるまでもねえよ! ――お前らなんかぶっ殺してやる!」


 そう言い武器を構えたリンメイは殺意を剥き出しに吠えた。


「おらぁ!!!」


 そこからは覚悟の決まったリンメイの独壇場だった。

 俺に向かってきていた三人は、ギフトを発動したリンメイの猛攻により成す術もなくズタズタに切り裂かれ、あっという間に立つ事もできなくなった。


 周りの冒険者や露店の連中も騒ぎを聞きつけ集まってきだしたので、俺は急いでこいつ等の冒険者証ギルドカードを奪い取った。


「てっ、えめえ! 返しやがれ!」


「おぅ、すぐ返してやるからちょっと待ってろ」


 そう言い、リンメイにこいつ等の冒険者証を渡す。


「リンメイ、こいつ等の名前や情報を覚えておけ」


「えー、なんでだよ?」


「いいから!」


 リンメイは嫌な顔をするも渋々覚えてくれたようだ。

 そして再び冒険者証を受け取ると、連中に放ってやる。


「ほらよ、返してやる」


「くそっ! てめえら覚えてやがれよ!」


 コテンパンにされて転がされてる状況でよくそんなセリフが言えるな。


「お前らさあ、リンメイが 『紅玉の戦乙女』 のメイランさんの妹って知ってた?」


「あ?」


「これからもリンメイにちょっかい出すようなら、とりあえず 『紅玉の戦乙女』 ファンクラブにお前らの討伐依頼出しとくから」


「えっ……」


 何となく連中も俺の言ってる意味が分かってきたようだな。


「毎日が狩りの時間だ。楽しいぞー」


 俺はとびっきりの笑顔で連中に教えてやる。

 狩られるのは勿論お前らだがな。


「ちょっ、まっ……」


「まあ、メイランさんはめちゃくちゃリンメイを溺愛してっから、どの道彼女の耳に入ったらお前ら終わりだけどな」


 深層到達パーティの一人にして 【氷の女王】 ギフト持ちの恐ろしさをこいつ等も知っているようで、途端に青ざめだした。


「まっ、まってくれ! そんな事されたらここで生きていけない!」


「わっ、悪かった! もうリンメイには関わらない! 約束する!」


 先程の威勢はどこへやら。どいつも必死に懇願してきた。


「約束だぞ」


 暫しの間を置いてから俺はそう言い、ラキちゃんに目配せする。

 ラキちゃんに神聖魔法を掛けてもらい動けるようになった連中は、一目散に転移門ポータルへ逃げて行った。

 約束は守ってやる。ただ、騒ぎを耳にしてしまった野次馬連中の事は……知らんけど。


「おっさん小狡こずるい事考えんなー」


「ああいう奴等には、こういうのがいいんだよ。念のため、連中の情報は控えておけよ」


「分かった」


「それで……どうだ、吹っ切れたか?」


「うん……、もう大丈夫。――ありがとう」


 わだかまりが無くなったようにさっぱりした顏で微笑むリンメイを見て、俺はホッとする。


「おぅ。――んじゃ、気分良くスイーツ食べに行こうぜ」


 俺達も野次馬を躱すように、そそくさとその場を後にした。




 約束通り二人に今話題のスイーツを振る舞うため、繁華街の小洒落たカフェに入る。

 先程の荒事で色々と吹っ切れた感じのリンメイは、やけに饒舌だ。

 ギフトが戦闘でも上手く使いこなせたのも嬉しかったんだろう。色々と説明してくれる。

 俺とラキちゃんはそんな楽し気なリンメイに相槌を打ちながら、今話題のスイーツを楽しんだ。


 暫くして、美味しそうにスイーツをパクついていたリンメイが、俺達の下宿先を見たいと言い出した。


「別にいいけど。まあ大家さんの本業は薬師でお店もやってるから、場所を覚えておくのも良いかもしれないな」


「そうなんだ」


「大家さんの腕はその界隈ではかなり有名みたいで、他所の国からわざわざ買いに来るお客さんもいる位なんだよ」


「へぇー」


 それからお持ち帰り用のスイーツを手土産に購入し、リンメイも一緒に俺達の下宿先へ帰る事となった。

 ミズナギの株を見つけてくれたリンメイに代金を支払うのにも都合が良かったし、丁度いいかな。




「うゎー、なんか絵本の中みたいだ……」


 大家さんの家を見て感嘆の声を上げている。やっぱり皆思うよね。

 お店の方の入り口から入ると、大家さんは丁度お店の方で商品の在庫確認をしていた。


「ただいま帰りました」 「ただいま帰りましたーっ!」


「お二人ともお帰りなさい。――あら、そちらの方は?」


「こちらは最近よくパーティ組んでもらってるリンメイです」


「リンメイです。よっ、よろしく……です」


「はい、よろしくお願いします。二人とパーティ組んでくださってありがとう」


「えっ、あっ、はい……」


「大家さん、今日リンメイがミズナギの株を見つけてくれたんです。彼女に報酬をお願いできませんか?」


「本当ですか!? 勿論です。リンメイさんありがとう!」


「偶然見つけただけだから……」


「その偶然に感謝ですねっ」


 そう言い、大家さんはニッコリと微笑んだ。


 土で店内を汚してはいけないので、庭で確認してもらう事に。

 ラキちゃんに亜空間収納からミズナギの株を取り出してもらい、大家さんに見てもらう。


「間違いありません、ミズナギです。株の数も多く状態もよろしいですね。……早速植えておきますので少々お待ちを」


 そう言うと大家さんは精霊魔法を使い、あっという間に薬草畑の隅に植えてしまった。

 そして少々の肥料とたっぷりの水を掛けておく。


「お待たせしてごめんなさいね。では中に入りましょう」


 お店に入り、早速大家さんはリンメイにミズナギの報酬を支払う。

 予想以上の収入に、リンメイは驚いていた。

 その間にラキちゃんがお茶の準備をしてくれたので、応接間で一息入れる事に。


「これ、今話題のスイーツ……です」


 リンメイはそう言い、先ほど購入したスイーツの包みを大家さんに差し出す。

 なんとなくリンメイから大家さんに渡した方が良いと思い、来る前に預けておいた。


「あら、ありがとうございます。気を遣わせちゃったみたいでごめんなさいね」


「いっいや、大丈夫……です」


「今日はリンメイが俺達の下宿先を見たいって言うから、連れてきたんですよ」


「そうでしたか。どうぞゆっくりしていってね」


「あっ、はい」


 リンメイは返事をした後、なぜかもじもじしている。どうしたんだろう?


「――あのっ! あたいもここに下宿したいんだけど、ダメ……ですか?」


「えっ? ええと、こちらに下宿する条件はケイタさんから聞いているかしら?」


 俺の方を見た大家さんに、俺は慌てて首を横に振る。

 まさかリンメイがここに下宿したいなんて思ってもみなかったから驚いてしまった。


「いや別に……」


 どうやらリンメイは下宿には条件があると思ってなかったようで、驚いている。


「私の家に下宿を許可している冒険者さんには、私に優先して薬草を卸してもらったり、薬草畑の手伝いをしてもらうって条件があります。

 時には今回ケイタさんとラキちゃんに依頼したように、必要な薬草の採取をお願いしたりもしますし、この家でのルールにも従ってもらいます。それでもよろしいのかしら?」


 リンメイはどちらかというとお姉さんに憧れて迷宮探索に重きを置いている感じだから条件的に合わないと思うんだが、どうなんだろうか?


「えっと、ルールって?」


「大した事じゃないですよ。お風呂当番などの家事や炊事のお手伝いをしてもらったり、家屋かおくを無暗に傷つけないだとか、変な人を連れ込まないといった、家族として当たり前の行動です」


「えと、全然問題ないので、お願いします!」


 そう言い、リンメイは頭を下げた。

 大家さんはじっとリンメイを見つめ、ふっと笑顔になり、


「はい、了承いたしました」


 と、リンメイの下宿を許可した。


「やった!」


 リンメイは喜色満面となり、大喜びだ。

 それからリンメイは大家さんから細々こまごまとした説明を受け、今日は帰って行った。

 明日、今の宿から引っ越すと言うので、俺達は明日リンメイの宿まで迎えに行く事にした。

 引っ越しを手伝うのもあるが、キリム達に会っておきたかったから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る