031 転移門の門番
「いよいよ俺達の番だね」
皆少々緊張した面持ちで頷く。
次にボス部屋の扉が開いたらいよいよ俺達の番なので、装備の点検もし終えて準備万端だ。
ボスはバトルアックスを持ったミノタウロスが三匹。待ってる間に散々打ち合わせしたので、問題無いはずだ。
――そして遂に扉が開いた。
「よっしゃ! いくぜ!」
「「「おう!」」」
俺達は六人なので六人目が足を踏み入れると自動的に扉が閉まる。
六人未満の場合は入った直ぐに宝玉が埋め込まれた台座があり、それに手をかざすと扉が閉まるらしい。
扉が閉まると同時に結界が張られた
「まずは真ん中だ!」
「「「了解!」」」
ハンスの指示に、ミステル、キリムの弓攻撃とサリムの炎の魔法攻撃が真ん中のミノタウロスに炸裂する。
遠距離攻撃開始を合図に俺は向かって左のミノタウロスへ向かい、右のミノタウロスへはトーイが向かう。
そして遠距離攻撃により死に体な真ん中のミノタウロスへは両手剣を構えたハンスが止めを刺しに行く。
「おらぁ!」
ハンスは逆袈裟でミノタウロスを両断して、まずは一匹を仕留める。
ハンスは三倍のパワーになる 【剛力】 ギフト持ちなので、大柄な敵に止めを刺す任に適している。
盾持ち剣士のトーイはハンスとは逆に 【頑強】 という防御型のギフトを持っている。
このギフトはなんと相手の攻撃による衝撃を十分の一まで下げてしまうギフトなので、トーイはこのパーティの重要な壁役を担っている。
現在トーイは右のミノタウロスの攻撃を一人で捌いて、ミステルとキリムが剣に持ち替え援護に来るまで耐えている。サリムは回復魔法の待機だ。
そして俺は今、左のミノタウロスを一人で抑え込んでいる。ハンスがすぐに援護に来るまでのほんの僅かの時間だが。
ミノタウロスは乱戦が一番怖いので、こうやって確実に仕留めていくのがセオリーらしい。
ミノタウロスはこの前戦ったドラゴニア帝国の皇子となんとなく戦闘スタイルが似ている感じだ。
コイツの一撃も当たれば即死級だが、皇子の斬撃よりも遅いので今の俺には問題ない。
俺は剣に紫電を纏わせ、ミノタウロスが振り下ろしたバトルアックスを躱すと同時に、腿へ斬撃を放つ。
雷魔法の威力が加わり、一瞬のマヒ状態になり隙だらけとなる。
「ハンス!」
「任せろ!」
そこに、ハンスが上段からミノタウロスの脳天に叩き込む。よし、これで二匹目も仕留めた。
トーイ達の方を見ると、三匹目はトーイとミステルとキリムの三人の斬撃により体中が傷だらけの状態だ。
魔物は自己回復の能力があるが、とても追いつけないほどの傷が入っており、動きも既に緩慢だ。
そして、キリムが舞うような剣技で風魔法の威力を纏った双剣がミノタウロスの首に連続で入り、首が吹き飛んだ。
「ナイス! 兄さん!」
キリムはサリムの称賛に応えるように剣を掲げる。
これでボス戦終了だ!
「勝った!」
「やったあ!」
「楽勝だったな!」
皆思い思いに歓声を上げ
「……出たぞ!」
ミステルの声に皆が注目する。
四層のボスは三匹なので、なんと宝箱は三つだ!
中身は四層までに出現する宝箱よりも若干良いらしいので、皆期待してしまう。
「早速開けようぜ!」
皆集まり注目する。俺もかなりドキドキだ。
「……まずは一つ目!」
開けると古銭だった。皆思わずガクッと来てしまう。
「古銭かよ! ふざけんな!」
「……まだだ、まだ二つある! 次だ!」
開けた宝箱を皆で覗き込むと、そこには古銭ではなく鍵束が入っていた。丁度人数分六つある。
「おっ! これ六から十層の宝箱の鍵じゃね? 結構当たりじゃねーか?」
「よしっ!……一つ買えば小銀貨三枚はするからな。それが六つ。まずまずだ」
「これ丁度六つあるから、一枚ずつ分けれるね」
「いいね、いいね」
価値あるレア品では無かったが、次に繋がる宝箱の鍵だったので皆それなりに満足だ。
さあ最後の一つ。何が出るか皆の注目が集まる。
「……なんだ懐中時計か。 売れば今回一番の当たりだがつまらんな。 ――誰か欲しい奴いるか?」
時計だと!? 欲しい!
「査定額によりけりだけど、手が届きそうなら欲しいな! 俺まだ時計持ってないんだよ」
「なんだ、おっさんまだ時計持ってなかったのか」
「他に欲しい奴いるか?」
皆首を横に振る。
「じゃ、査定しておじさんが購入という事にしましょう」
「やった! ありがとう!」
「時計は低層で割と出ますからね。ダンジョン潜ってる連中なら早い段階で手に入れるんですよ」
「へぇー。露店で見るとどうしても結構するからな。助かるよ」
これは嬉しい! 査定額によりけりだけど時計が手に入る!
「よし、んじゃさっさと五層を拝みにいこうぜ!」
「行こう行こう!」
「俺
「……俺もだ」
そして俺達は緊張しつつも
魔法陣の中心にある、綺麗な石が転送のトリガーのようだ。
転送されて五層に到達した俺達は呆気にとられた。情報としては知っていたが、本当にフィールドエリアは空があり、外に出たような景色だった。
今回到達した五層は平原がメインのエリアだ。
「おぉー……」
「凄いね……」
「凄いな……、本当に外に出たみたいだ」
俺達が出てきた
そして更に隣にはもう一つの
ここは丁度、下り階段を二つの
これらは遺跡のような外見をしており、世界で唯一ここにだけ文明の跡が残っているかのような佇まいをしていた。
俺達は早速、舞台のような
なんと階段周辺では露店がいくつか見られた。
「こんな所で商売している連中もいるんだな」
「引退した冒険者がやってるみたいですね」
見ると、食べ物や薬、後は雑貨など、ありきたりな物ばかりだった。
儲けになるんだろうか……。
「とりあえず今日はこのままエントランスホールに戻ろうぜ」
「賛成~。なんか今日は疲れたよ」
「だね。今日はこれで戻ろう」
今日はボス戦よりも待っている方が疲れてしまった。変な連中とのゴタゴタもあったしな……。
そのため俺達は下り階段を通り過ぎ、さっさとエントランスホールへと繋がる
この
因みに四層のボス部屋から通って来た方は一方通行だ。
「おっし! 戻って来た!」
「……やっと利用できるな」
「本当、やっと俺達も一つ使えるようになったね」
ついに俺も
どうやら俺だけでなく、皆それぞれ満足しているのが感じ取れた。
俺達が転移門から出ると、深層方面の
「なんかあっちが騒がしいね」
「……人が群がってるぞ」
「あっ! あれ 『紅玉の戦乙女』 よ!」
「おおっ!? マジか!」
『紅玉の乙女』 ってなんだろう? と、俺も皆が注目する方を見てみる。
それはルビーのように深い赤色をした鎧を纏う金髪縦巻きロールな只人の女性を中心に、様々な種族で構成されたパーティだった。
全員が全員とんでもなく美しい女性である。
「あの真ん中の赤い鎧の人が 『紅玉の戦乙女』 なの?」
予想からしてあの鎧を着ている女性の事かなと思い、サリムに聞いてみる。
「んー、一応そうだけど、今はパーティを差してる名称ね。パーティ名ってやつかな?」
なるほどパーティ名か。誰もが名前に劣らぬ感じの強さと美しさを兼ね備えてる感じがする。
構成は、只人、オーガ、虎人、エルフ、水玲人と、あと一人は色白な肌で多分ヴァンパイアかな?
因みに水玲人は水辺に住む種族で、耳が小さなヒレのような形状で、腕や足や腰などにも小さなヒレがあるらしい。
肌は薄っすらと青みがかった色をしており、髪はサファイアのように美しい色。まさに種族名そのまま、透き通る水のように美しい種族だ。
「どうやら 『紅玉の戦乙女』 は深層の二つ目のボスを倒したみてえだな。すげぇ!」
「二つ目って事は五十層到達したのか! 凄いな!」
ダンジョンは一層から十層までを低層、十一層からに三十層までを中層、三十一層から四十層までを高層、四十一から五十層までを深層、それ以降を最深層と呼んでいる。
中層が一番範囲が広い。
最深層に進めるパーティはほんの一握りなので、彼女たちを称える冒険者達でごった返している。
彼女たちはそんな冒険者達など気にも留めず、堂々とした足取りでエントランスホールの出口へ向かって歩いていく。
「かっこいいな……」
「ステキねー……」
「綺麗だなー……」
皆思わず感情が口から出てしまっているのに気が付かないほど見入ってしまっている。
もしかしたら、この聖都のアイドル的な存在なのかもしれないな。
とは言え、いつまでもこうして居てもしょうがないので、俺はパンパンと手を叩き皆を促す。
「俺達もそろそろいこっか?」
「おっ、おう、そうだな!」
「でっ、ですね、いきましょう!」
納品カウンターで今回手に入れた品を査定してもらう。
ありがたい事に懐中時計の査定は普通の相場だったので、俺が皆にお金を払い、買取相場で購入する事になった。
フフフ、俺も遂に時計を手に入れたぞ!
「今日はちゃんとした店で祝勝会やろうぜ!」
「「「さんせーい!」」」」
ハンスの提案に賛成した俺達は、彼らが良く活用しているお店で祝勝会をする事になった。
冒険者ギルド本店に近いそのお店は酒場と言うより料理店だったが、ちゃんと酒盛りもできるとの事。
ハンス曰く、ここは安くて美味いと評判のお店らしい。
俺達は美味しい料理に舌鼓を打ちながら今日あった事を大いに盛り上がり、そして美味しく酒を飲んだ。
いやあ、こういう酒の席って良いよね。
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