第20話 大学生④ 妹・真道真都羽参上!

「へんたいへんたいへんたいだよ、おにいちゃーん、」


 両手を上げて叫ぶ妹の姿を目の当たりにする真樋。


 真道真都羽まとは、真樋の二つ下の妹で真樋曰くぴちぴちの現在高校2年生である。


 長い黒髪と薄い胸、小さな顔にミニモニ風の小柄な身体。やや長身である霞ケ浦美浦の小柄版とでもいうべき少女が真樋の妹、真道真都羽である。


 真都羽は「まとう」ではなく、「まとは」である。違う読み方をすれば「まっぱ」である事は親だけの秘密であった。


 そのため、都なんて字を使っているわけで、可愛さの欠片もなかったりする。


 兄が「まとい」のため似たような名前にしようとなり、最低でも同じ真の字を使おうとなり真都羽となったのであった。


 なお、当人達には名前の由来は話してはいない両親である。


 そんな妹である真都羽に、後ろ姿とはいえ夢月とのテレフォンせっせっせを見られた真樋は慌て蓋めく。


「へ、変態じゃないし?こここ、恋人との電波を使った愛の確かめ合いだし?」


 右手の恋人的な筒を掴みながら、それを見られないように首だけ振り返っている真樋。


 上着を始め、ズボンや下着は床面にずり落ちているため、説得力の欠片も存在していなかった。


「とりあえず言ってみた。でもそれはJKに見せるものじゃないとは思うよ。」


 慌てふためいている場合ではないが、真樋は弁明を始める。



「まぁ、前みたいに夢月お姉ちゃんが隣にいるわけじゃないからね。お互い寂しいのはわかるけど……せめてドアはきちんと閉めてね。」


 真都羽の言としては、自分の部屋に入ろうと階段を上がってきたところ、少しだけ開いている真樋の部屋を見かけて閉めようとしたとの事。


 しかし声と灯りと映像が漏れており、何事?と気になって見ていたと言う。


「そんなに見ないでくれってば。大体少し見ておかしかったら直ぐに閉めて退散してくれれば良かったのに。」


 切実な兄の願いであった。出来ればそっとしておいて欲しかったと。


 まともには見られてなくとも、ナニをしていたのかは理解出来る程に見えていたのだから恥ずかしいのは見られた真樋の方である。




「年頃の女子としては気になるんだよ。将来彼氏が出来たらどんなものなのかなーって。」


 真都羽には現在彼氏はいないが、異性からモテないわけではない。


 告白はされているが、そのことごとくを断っていた。


「それでも絶頂シーンは見ないで欲しかった。」


 変な顔をしていただろ……とは言えないが、後ろ姿なのでそこは見られていないと判断。


 


「でもなんで全裸?下だけで良かったんじゃない?」


 首を傾げて真樋を見る表情はとても可愛いものであった。


 妹でなければ頭を撫でているところだっただろう。


「そこはほら……気分の問題でさ。」



「まぁいいや。お兄ちゃん、ゴールデンウィークはお互い楽しんできなよ?」


 真樋は今度の温泉旅行の件は家族に話している。


 泊りがけの二人旅行は両家も認識している事であった。


「それと……混浴だからって、誰もが入る湯船で盛り上がらないでね。」


 宿泊先の事情まで把握している妹であった。


「比べる対象がお父さんと小さい頃の同級生くらいしかないけど……お兄ちゃんマンモスだね。」


 最後に爆弾を投下して妹は自室へと向かった。


 色々なモノを失った真樋である。


 見られていないと思うのは、当の真樋本人だけであった。


 女子の目は昆虫並みに広いのである。






 それから時は流れ、ゴールデンウィークが始まる。


 初めてのバイト代も入り、真樋の懐は少しだけ温かった。


 コスROMの売り上げから既に支払いは前金での振り込みで済んでいるが、黒川や草津も同様でバイト代を当てにした今回のスタジオ撮影である。


 当然のように新しい衣装等を製作しているため、資金は流出している。


 日暮里にある有名な生地屋はもはや馴染の店となっていた。


 その帰りに現在では法的に建てられない、全面鏡張りのホテルでハッスルするのが、黒川と草津の生地買いツアーの一連である。


 バイト代の半分は確実にハッスル代へと消えているため、金の使い道に関しては考え直した方が良いのだが、現在のところはその気はないようであった。


「久しぶりー、夢月!」


「久しぶり、三朝!」


 抱き合う女子二人、夢月と草津三朝。


 たったひと月とちょっとだというのに、随分と長い間会っていなかったかのような感覚の二人である。


 今回のメンバーはコスプレ関係のため、本日再会したのは真樋と夢月のカップルと黒川有馬と草津三朝のカップルの4人だけである。


 大沼雫璃亜は霞ケ浦美浦と捲りめく官能の世界に行っている。


 目的は次巻のネタのために……


 原作であるWEB小説では次の3巻に当たる部分では温泉旅行がある。


 きっとどこかの温泉にでも行っているに違いない、収入のある霞ケ浦であれば高級な温泉宿に行っているに違いないと思う一同である。



「携帯では合わせのやり取りはしてたけど、やっぱり直接会うのとは違うねー。」


 明るい表情で三朝は夢月に話しかける。


 電話ではそれなりに会話をしている二人だが、直接面と向かって会話するのとではやはり勝手も感覚も違うのか、マシンガントークは止まらないようであった。



「相変わらずチラリズムとか絶対領域とか絶妙な構図だよな。」


 カメラマンと照明係に化している真樋と黒川の二人は、若干やらしい構図の女子二人を見て話していた。


 

「この二人が百合になったらと思うと気が気ではないけどな。役ならばとどうにか押さえるのに必死だよ実際は。」



「女子同士はこういう絡み平気だし、寧ろ進んでやるみたいだからな。他のレイヤーのコスROMとか見ててもそう思うよ。」


「中には異性でもそういう写真撮ってたりもするしな。コスプレの世界は奥が深いよ。」


 真樋はカメラの勉強がてら、他のコスプレイヤーの画像を見たりもしている。


 照明の当て方とか、カメラの角度とか、カメラのモード選択とかズームや白黒飛ばし等を学ぶためである。


 大抵はイベントで隣になったサークルとは、自身の創作物同士を交換するのが通例である。


 それは同人誌であったり、CDーROMであったりサークルによって様々であるが。


 そうして得たものだけでなく、自らの足で見て回り購入したものだって当然ある。


 上手い人は年齢や経験年数関係なく上手かった。


 それが真樋の率直な感想だった。


 光もただ当てれば良いというわけではない。


 不自然なく光を当てないと、自然さが出ないのである。


 光がないと、極端な言い方をするとゾンビのようになってしまう。


 それは光の当て方を誤ると影となり、それもまた同様になってしまう。


「この数年で色々勉強にはなったけどな。夢月と進路について話さなければ、カメラの道に進んだかも知れないな。」


 


 午前中の撮影が終わり、昼食タイムへと映る。


 真樋と黒川の手作り弁当であった。



「うちのスタッフは本当に優秀だね。」


 草津三朝が男子二人を指して言った。



「被写体には自然に疲れなくやって欲しいからな。夢月は仕事で大変だろうし。」


 終始真樋は夢月を気遣っていた。恋人というよりは執事に近いものがある。


 過度は触れ合いは避け、筋肉を解したり肩を解したり、水分を程よいタイミングで提供したり……


「それじゃJDが大変じゃないように聞こえるけど?」


 真樋の言葉に三朝が意地悪なように言う。もちろん他意はないのだが、場を和ませるための三朝なりのジョークであった。




「さぁ、午後の本番は……」


 手をワキワキとさせ黒川に近付く草津。逃がさないと速攻黒川の顔を掴んでいた。


「いやだー、俺はいやだー」


 喚き両手をバタバタさせる黒川。一方で真樋は最初から全てを受け入れる事にしていた。


 それは夢月にあまり疲れさせたくないからという想いと……


「わくわく。」


 目を輝かせている夢月をみてしまうと、嫌だとは言えない真樋であった。



「ほらほら別に取って食べるってわけじゃないんだから。」


「いや、三朝になら取って喰われても良いけども、そうじゃない。そうじゃないんだー。」



「真樋は反抗しないんだね。覚悟を決めてるって事?じゃぁ真樋、早速いくよ?」


 覚悟を決めている真樋は夢月に身を任せていた。


 夢月は真樋を、草津は黒川をそれぞれメイクする。


 アイライナーは濃くした方が良いかとか、チークはブラシで良いかとか、呟きながらメイクする女子にされるがままである。


「剃ってはいるけどどうしても男子は髭の毛穴が気になるよね。」


「そんな時はコンシーラーで消せば良いんだよ。」

 

 などと話しながら女子はメイクを進めていく。


 なお、先に衣装には着替えている。メイクをしてから衣装を着替えると、せっかくのメイクが落ちてしまったり、衣装に化粧が付いてしまうからである。


 二人の衣装を用意しているあたり、女性陣のヤル気が現れていた。


 こうして女装子じょそこが女子に代わる瞬間がただ過ぎていく。


 


「ほら可愛い~二人共。やっぱり似合うじゃん、私の眼に狂いはなかった!」


 とあるキャラクターの恰好とメイクをさせられ、4人組魔法少女の2人に扮している真樋と黒川有馬の男子達。


 恐ろしい程に似合っていた。それは決して身内贔屓ではなく、見知らぬ人であれば騙される人続出レベルであった。


 それはメイクの上手い夢月と三朝のおかげというのもあるが、素材が良くなければ光らない。


 


「それで、野郎同士の絡みはこんなもんで良いのか?」


 真樋と黒川が原作に沿って仲良く絡み合っているシーンの撮影は進められていた。


 



「じゃぁ、今度は……」


 真樋と夢月、黒川と草津のツーショットで撮影が進められていく。



「ね、ねぇ、真樋。久しぶりに密着してるからってその……そこ……」


 哀しきかな、真樋の下半身が反応してしまっていた。


 夢月の言う通り、久しぶりに恋人と密着した事で脳が活性化していたようである。


「女の子はそんなものおっ勃たてたりしないの、沈めて真道。」


 カメラを構える草津が恥じらいもなく叫んでいた。



「それにしても……スカートの盛り上がり具合も悪くないね。敵に捕まってフタナリ化したという設定にしてしまえば。グフフフフ。」


 カメラを構えながら漏らしている本音は、紛れもない草津三朝のものである。

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