第18話 大学生② 献血とバイトとヲタク研究会
「お前、また献血行ってんだ。」
「ん?まぁな。一度始めたら癖になって。今では趣味と言えるかもしれん。それと、なんだか少しだけ珍しいみたいでな。出来れば継続して献血してくれると助かるって言われて。」
真樋の血液型は若干珍しい。数万人に一人とかいう程珍しいわけではないが、一般的なABO式血液型ではO型に分類される。
ただしRh陰性、つまりはRh-(Rhマイナス)である。
日本人では0.5%がこのRh陰性である。
その中でもO型は大体670人に一人という割合を占めている。
しかし、珍しくはあっても稀な血液とまでは言わない。
稀な血液とは出現頻度が1%以下で、輸血の際にその血液の確保に支障を来たす恐れがあるものを指す。
検出頻度が100人に1人から数千人に1人程度までをⅡ群、これ以上検出頻度が低いものをⅠ群という。
Rh陰性であっても献血された人全員について検査をしているため、輸血の際に困難を来たすという事は少ないため、稀な血液には含まれない。
それでも、ほいほいと存在するわけではないので稀ではなくとも、献血をする分には有り難いことには変わらない。
しかし、これは赤血球の型を表すもので、白血球にも血液がったというものも存在する。
HLA型といい、血小板の輸血にはこのHLA型の適合が大切である。
白血病・再生不良性貧血・血小板減少症・悪性新生物(癌)等で血小板輸血を繰り返し続けると、血小板にあるHLAに対して抗体が出来てしまい、輸血された血小板が拒絶反応により壊されて出血を止める効果がなくなってしまう。
このような患者にはHLAを適合した血小板(HLA適合血小板)が必要となる。
なお、このHLA型の適合する確率は、兄弟姉妹間で4人に1人、非血縁者で数百人から数万人に1人といわれている。
真樋はそこまで考えたり理解したりしているわけではないが、Rh陰性というだけでも少ないのだからと率先して献血に通うようにしていた。
幸い若く健康なため、献血可能な期間を開ける度に献血を行っていた。
昨年18歳になって初めて献血に行ってから継続している。
まるで溜まった精液を放出するマスターベーションのように、真樋は献血を行っていたのである。
例えが卑猥な事はさておき、中学一杯で野球をやめ、高校になってから仲間内でバカをやりながら、昨年には夢月とも相思相愛だとわかり男女の付き合いを始め、ヲタク趣味をこなしながら高校生活は充実した毎日だった。
ルーティーンとまでは言わないが、それまで続けていたものをやめるのも気持ち悪いと思っていたのである。
実は野球はやめていたが、若干の運動は続けていたりはする。
走ったり、壁当てをしたり、素振りをしたりと完全に捨て去る事は出来てはいない。
「そういや献血って、タダでアイスやジュースも飲めるしな。」
黒川の言葉は軽いが、それもまた黒川の良い所でもある。
心を許せるマブダチというのはそんなものである。
ほぼ毎日会える黒川と草津は、真樋の事を気にかけていた。
漸く繋がった幼馴染二人が、会えない距離ではないものの、たまにしか会えない状態となる。
所謂〇〇ロスという形に近い二人の心情を慮って、なるべく一緒にいるようにしていた。
「そんなもんか。」
「俺にはそんなもんだ。」
「あんたら、たまにはサークルに顔出しなさいよ。」
真樋と黒川が歩いていると、後ろから女性に声を掛けられる。
かつて高校2年生の時に、一緒に初詣も一緒にいった事のあるその姿は、黒く長い髪がお嬢様然と彷彿させる人物だった。
漫画研究部や文芸部に所属していた先輩でもあり、現在真樋達が所属しているヲタク研究会というオタク分野全般に視野を入れたサークルである。
オタクではなく、ヲタクとしているのは、創設者がなんとなくその方がかっこいいからという理由である。
なお、元々あった漫画研究会を吸収合併などを経て今の形にしたのが、実はこの人物である。
「霞ケ浦先輩。」
振り返った真樋と黒川は、その声の主である霞ケ浦美浦の姿を捉えて呟いた。
「なにその、うわやべっ見つかっちまったみたいな顔は。」
「まぁ実際見つかっちゃったわけですし?」
「たまにはサークル活動に参加しなさいよ。何もしてないと潰れるわよ。」
何故か霞ケ浦美浦は、真樋と黒川の下半身を指さしていた。
「いや、こえーよ。潰れるってたまたまかよ。サークルじゃないんすか。」
「50人もいないからね、実績がなければ潰れるのも時間の問題かも。」
霞ケ浦はさらりと流した。
昨年このサークルが潰れなかったのには理由がある。
一応は実績があるからだ。
霞ケ浦美浦は自分の性癖を全て文字に起こしてそれを表す術を持っている。
それは高校生の頃から密かに行われていたのだが、大学にも理解者は存在したためその実績にて存続を可能としてきていた。
「へーへー。パイセンの百合官能ラノベが発売されている内は安泰でしょうよ。」
大沼雫璃亜がモデルとなっているヒロインの新刊は、まだ2巻までしか発売されていないが売り上げは好調のようだった。
なお、霞ケ浦美浦がリアルな百合である事は知られていない。
学園祭でサイン会をするなどしているが、訪れるのは男女半々くらいだった。
一応はサークルの成果としては認められている。
集客しており、他の展示物等もあり、当然他のサークル等にも流れるからである。
他の展示物とは、生の原稿の展示や、絵師のラフ画像等である。
他のサークル部員の自主製作本なども展示されているが、霞ケ浦に比べれば人はどうしても減ってしまうが。
「学園祭にはあんたの彼女のコスプレ写真集とかも置いていいわよ。なんなら私もコスプレしたって……」
「それは遠慮しときます。なんかNTRっぽくなりそうで怖い。勃たなくなってしまいそう。」
黒川は想像してしまったのか、首をぶるぶると横に振り現実的ではないなと感じていた。
役作りのためならば、草津三朝という人物は裸での絡み以外なら何でもしてしまいそうだと思っていた。
「流石にそれはなしで。写真集の展示は助かりますけど。」
ただし、その場合いらない周囲からの目は免れなくなるだろう。
際どい写真でもあろうものなら尚更である。
「じゃぁ潰れる程の無実績というのは避けられそうですね。」
「私が卒業した後の実績は貴方達後輩の役目よ?今の内から何か出来るようになっておかないと。」
サークル所属員数人の合同という事にすれば写真集の作製で真樋や黒川の実績にはなる。
スタッフの一員もまた、仕事の成果を得られるべきだからである。
「今年一年は当てにしてますよ、桜川阿見先生?」
霞ケ浦美浦(20)は本名が茨城県の地名にちなんだ名前であるが、ペンネームもまた茨城県の地名であった。
なお、まだ誕生日が来ていないので20歳だが、霞ケ浦美浦は大学3年生である。
真樋は強気に出る黒川の気持ちは理解出来ないが、百合ラノベ作家としての霞ケ浦先輩は当てにしていた。
「いや、あんたらも活動して何か残しなさいよ。じゃないとあんたらの彼女の薄い本、描いちゃうよ?」
描いちゃうという表現の通り、霞ケ浦は絵やイラストも描ける。
同人誌レベルでは上手いが商業だと物足りないというレベルではあるが、それでも素人の場では充分である。
流石に自らの著書は別のイラストレーターが描いているが、最初は自分で描くと言っていた程である。
「想像で勝手に描く分には構わないですが、身元が分からないようにはしてくださいよ。あと本人に許可を取ってください。」
正論で返す黒川である。
自らの彼女である大沼雫璃亜には承諾済でヒロインの元にされている。
しかし、当人を知っている者が見れば、本人だと理解出来てしまうくらいには特徴を捉えている。
「バイトがない日で良ければ参加しますよ。」
「そういや、最初にそんな事言ってたわね。」
真樋はバイトの面接を受けた後、早々に採用通知を貰っていた。
その後、何かしらサークルにも入らないとならない事を知り、慌てて霞ケ浦美浦のいるヲタク研究会に席を入れたのだ。
元々草津三朝が気にしていたサークルでもあるため、芋づる式に真樋と黒川も入会する事になった。
それから真樋と黒川は、講義が終わるとバイトかサークル活動とで日々を過ごしていく。
「資格取得の勉強もしたいんだけどな。」
不動産系の会社に勤めたいと考えている真樋は、今のうちから取得出来るものは取得しておこうと考えていた。
「お前なら将来、地下の秘密基地もある家に住みそうだな。」
「アソパソマソとシャブおぢさんか?」
夕方の幼児向けアニメのパロディを口にする真樋。
真樋と黒川と草津の3人でファストフード店でバーガーとポテトを摘まんでいた。
外は既に暗くなり、帰宅するサラリーマンで歩道は溢れている時間帯である。
「GWに撮影会とかどうだ?温泉旅行ってGW全部ってわけじゃないんだろ?」
「そうだな。夢月の会社の教育度合で疲れも変わって来るだろうし、最終日は家で落ち付いていたいだろうから、最初の頃に1日くらいは可能じゃないか?」
久しぶりに生の声を聞こうと、解散し帰宅した後に真樋は、履歴から夢月を探し出すとコールボタンを押した。
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