第11話 高校生⑦ 括弧内(心の声)を声に出さないと危険

 山﨑雲母の提案により、真樋・夢月・黒川・草津・大沼・霞ケ浦と山﨑の新しい彼氏の8人は温水プールに来ていた。


 町の市民プールではあるのだが、隣町の動物園と遊園地が一緒になっている施設内にあるプールよりは大きい。 


 定番の流れるプールやウォータースライダー、大きな波が出るプール等がある。


 他にも小さな子供も可能なファミリー向けのプールや疑似サーフィンを楽しむプールもある。



 流れるプール等でまったりと流れに身を任せて遊んでいた8人であるが、時間と共に団体はバラバラになり真樋と夢月の二人は巨大波が発生するプールへと来ていた。




 ピーという大きな合図と共に、前方の並発生装置から大きな波が押し寄せる。


 その強い力を持った波に押され、床面から足が離れ思うように動けない真樋と夢月。


 周囲のカップルや親子達も同じようで、流れに身を任せていた。


 漸く立て直した一同であるが、ピッピッピーと更なる警告音が鳴ると一際大きな波、離れていても数メートルもある事が理解出来る波が、利用客を飲み込んで行く。


 それはまるで海の海獣、リヴァイアサンの大海嘯を彷彿とさせる波である。


 人々を飲み込んだ波は、多くの人や水着戦利品を飲み込んで行き……


 

「あ、私のブラが!」


 なんて声が周囲にいくつか木霊する。



「大丈夫か?」


 無事に水面から顔を出した真樋と夢月の二人は当然水に塗れていた。


 凹凸のほとんどない胸元の水着が吸い取るプールの水の重みが、ブラのラインを若干下げていた。


 そしてさらなる追い打ちの並が二人を襲う。


「きゃっ」


 可愛らしい夢月の小さな悲鳴と共に、真樋は夢月の身体を自分に引き寄せ、抱き留める。


 殆ど全ての並を真樋は背中に受け止め、夢月への被害を最小限にしようとしていたのである。


 波が去った後には、ただの抱き合う二人の構図が出来上がっていた。


 それは周囲のいくつかのカップルも同じようで、彼氏が彼女を守っている、なんだこれという構図となっていた。


 ところどころ、水から生えたつくしんぼうといった様子である。


「何か固いのが当たってるよ?」


 唐突に真樋に話しかける夢月。


 夢月の臍の下あたりには真樋の下半身である水着が触れていた。


 水生生物にでもなって、水の中から様子が見れればわかる事であるが、真樋の水着は何やら先端が尖っている。


 

「あ、当ててるんだよ。」


 普通こういうのは男女逆である事が多い。


 背中におぶされた女子が、男子の背中に胸を押し当てて、『あ、当ててるのよ。』というやつである。


 それの男女逆で下半身バージョンである。つまりは……


「私で反応しちゃったって事だよね?」


 真樋は恥ずかしそうに「そ、そうだよ。」と返した。



「ねぇ?(どうせ周りからは見えないし)触っても良い?」


 突然の告白に驚く真樋であるが、今のチャンスを逃したら男女の関係へはまだまだ到達出来ないと思い決断する。


「(周りにバレないように、水着の上からなら)良いよ。」


 真樋としても一大決心である。小学生の頃は一緒に風呂に入る仲でもあったために、お互いの身体については神秘的な印象を抱いていた。



 括弧の中を声に出していないのは真樋も夢月も同じなのだが、声にしていなかった事で夢月は大胆な行動に出る。


 実は先日、山﨑がしていた夢月へのアドバイスの一つだったのだが、夢月は大胆にも真樋の水着の中に手を入れた。



「ちょっ」


 突然の感触に纏いは戸惑いを隠せない。三こすり半状態は避けねば、公衆の面前で出してしまうのは避けねばと考える。


 直の感触を味わっている夢月も平常心ではない。


 密着しているせいもあるのだが、顔は真っ赤である。


「しょ、小学生の時とは違うね。わ、私でこんなに反応してくれるんだよね。」


 夢月は棒を、犬や猫の顎を撫でたり首元を撫でるように、にぎにぎ・さわさわと感触を味わうと、水着から手を抜いた。


 幸いにして真樋は発射を免れる。プールの塩素の臭い以外が、周囲に発生させる事だけはどうにか避けられたのである。



「っはぁ。夢月……自分だけ触れるのはずるい。俺もお前(の)に触れたい。」


 

「ちょ、な、何を言って……ん、あ、でも私もやっぱり(真樋に)触れて欲しい。」


 この言葉達も一部が括弧が形成され、その中が声になっていないため正しくは伝わっていない。


 夢月の意図としては、下がりかけの水着ブラが目に入っているため、胸に触れて欲しいと考えていた。


 人の感情と身体とは不思議なもので、手と指が相手に触れていただけなのに、自らの下半身がきゅんというかじゅんとしているのが感覚として湧き上がって来る。


 夢月の子宮が間接的に真樋の受け入れ準備を進めていたのである。


 そのために反応していた夢月であるが、男性の勃起とは違い、プールの中にいる女性が見た目で感じているのはわかり辛い。


 ましてや性行為未経験の真樋と夢月であれば、そこに気付くのはほぼ不可能であった。


 時間にして20秒に満たない。あのカップル何やってるんだ?という疑問すら抱く事すら与えられない短い時間。


 つくしんぼうのように立ち尽くす二人の次なる行動は……


 真樋の右手が動き出し、胸ではなく下半身へと向かったのを確認すると、夢月は……


「(あそこの中に指を無造作に指をいれなければ)良いよ。」と答えていた。


 未経験であっても、準備の整っていない神秘の道がデリケートな事は夢月も知っている。


 保健体育の授業で習う性教育でも、ある程度は教えてくれる。


 ただし、具体的なセックスという名称での性行為についてまでは、教えては貰えない。


 いきなりの実戦経験を迎える事がほとんどの人である。


 そして、今回も括弧の中を声にしていなかったため、真樋は夢月の水着の中へと指を差し入れていく。


 最初は水着越しになぞるものだと思っていた夢月は意表をつかれ、「ひゃいっ」という可愛い声をあげてしまう。


 本来水着越しに窪みをなぞるはずだったが、直に侵入したために真樋は夢月の反応を見届けながら、ゆっくりと窪みから深海へと指を潜り込むように侵入していった。



 不勉強な真樋であるが、すんなりと侵入出来た事に違和感を感じたが、プールの水で濡れているからかと思う事にしていた。


 実際は、真樋のモノに触れ、真樋の指が触れ、夢月自身が真樋を受け入れる準備が出来ていたからである。


 受け入れ準備である分泌液が、真樋の侵入を助けていたという事を、二人はまだ知らない。


 未経験である事と、プールの中であるという事が、幸か不幸か侵入を助けていた。


 

「んっ。まとい……みんながみて……」


 真樋の指が、侵入不可な高度なセキュリティ処女膜に阻まれ、それ以上の侵入を今はまだ駄目と夢月の身体が遮った頃、それならばとざらざらした周辺の岩礁を真樋の指という名の削岩機が押し広げていた。


 いきなり上級コースである中指の侵入であったが、追加で人差し指という少し小型船舶が侵入を果たしていた。


 小型船舶がスクリューを回転させるかのようにとはならないが、人差し指と中指が絡み合い交差するように重なり、ジャイロ回転を始める。



「ちょっ、ま、真樋。それ以上は駄目っ。」


 夢月の顎が真樋の肩に乗り、夢月の声は真樋の耳元傍で木霊する。


 耳の管が反響を強め、真樋の脳には夢月の拒否反応を捉えた。


 このダメが本当のダメなのか、もっとシテのダメなのか。それを判断するには経験が足りていない。


 功を焦るあまり、夢月に嫌われたくないと判断する事が出来た真樋は、そっと夢月の深海から船舶2隻……指2本を抜き去った。



「こ、この続きは二人っきりの時に。」


 力の抜けた夢月は真樋にもたれ掛かり、触れ合った身体の影響で上の水着がずり上がってしまい、先端の突起同士が小鳥の啄みのように擦れ合っていた。


 それだけでも感情が高ぶってしまう夢月であり、性的興奮は寧ろ夢月の方が強くなっていた。




「そういうのは、別の機会に二人っきりの時に頼むな。」


 どこから現れたのか、黒川が真樋の後ろからポンと肩を叩いて呼び止めていた。



 目線と首を傾けると、黒川と草津の二人が立っていた。



「慌てない慌てない。(身体の)準備は大丈夫大丈夫。」


 囁くように草津三朝が反対の肩に乗っている夢月の頭を軽く撫でていた。




「大人の階段上るのは、どっちかの家でな。そこまで仲が進んでるんなら間違いや問題はないだろ。」


 少し離れたところからは、大沼・霞ケ浦カップルや山﨑カップルが微笑ましく見守っている。


 知らぬは本人達のみであるが、一歩進んだ真樋達の関係に一応の納得はしたようで、頷いていた。




「というか、こういう公衆の面前でお前らNGすんな!」


 水中で見えないだろうと思われているかもしれないが、密接状況などを鑑みれば気付く者がいてもおかしくはない。


 黒川と草津が元々、真樋達に注視して行動していた事を除いても、要注意事項であった。


 幸い、監視員や家族連れが真樋達には目が向いていないため、今回は友人達だけに見つかったに過ぎないが、二人の行動は痴漢・痴女そのものである。


 そして、真樋と夢月はまだ、性行為は未経験である。


 果たしてこれを大人の恋愛ABCのBとして良いモノかどうか。


 何はともあれ、幼馴染という関係で停滞足踏みしていた二人は、限界突破するまで経験値が蓄積されたままの状態で、いざ限界突破したら一気に解放されたソーシャルゲームキャラのレベルアップのように、留まる事を知らずに進み始めていた。

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