逃亡者からの手紙ではない

エリー.ファー

逃亡者からの手紙ではない

 記された内容について、補足情報はない。

 所詮、落書きである。気にするべきではないだろう。

 誰かの愚痴や、誰かの告白があったとして、そんなものは無視するに限る。

 哀れな心の形を知っておくことで、自分が何者に近づくのかを感じることができる。

 これは、魂に問いかけるための合言葉である。事実と照らしあわせることで、文字と記号の間に存在する定義の違いを見抜けるようになる。

 この手紙があなたの手元に届く時、もしくは、あなた以外の、誰かの目に触れた時。すべては終わっていると考えて間違いないでしょう。しかし、それが平和を連れてくるかどうかについては、語るための知性を持っていないことを謝らなければなりません。

 香水と一緒です。

 つけるものではなく、まとうべきもの。

 その違いが分からないなら、香水に手を伸ばすべきではないのです。

 言葉の違いではなく、魂の違いであり、身分が違うと言ってもいいでしょう。

 王子と呼ばれるような存在から見えてくるのは残酷さの象徴であり、未来への進軍です。

 逃げ回ってこそ見える世界があると思いたい人が一定数いることは確かですが、事実とは全く違います。


 逃亡者のことを忘れてはなりません。

 世界はいつだって偽物によって彩られているのです。


 手紙に言葉は必要ないのだ。

 健全からほど遠い。

 球体から生まれた悩みが髪の毛に近づいていく音を響かせなければならない。

 香水をふきかけて。

 文字と文字の間に命を込める。

 手紙なんて、誰の手元にも届かない。

 死を待つために、詩を待っている。

 行き過ぎた正義に鉄槌を下せるのは、モラルのある逃亡者だけだ。

 革命は僅かばかりの幸運によって支えられている。

 逃亡者を人間に変えて、手紙を犯罪の一部にする。

 もうすぐ、殺人事件が起きる。

 気を付けなければならない。


 帰りたい。

 この場所から出たい。

 逃げ回る人生なんて最悪だ。

 僕は、私は、あたしは。

 ここから外に出たい。

 お願いします。

 どうにかしてください。

 

 逃亡者は伝説に近づいていく。

 君の姿が美しい。

 風を見たい。

 哀れなまま死にたいのだ。


 完全からは程遠いが、逃亡をするなら夜がいい。

 朝日によって世界が変わる。

 白い道を歩かせてくれ。

 何でもいいから、私に近づいて笑ってくれ。

 僕を失わずに道を歩いてくれ。

 悲しみに暮れて殴り飛ばしてくれ。


 逃亡者は手紙を出さない。

 手紙を出す者は追跡者にもなれない。

 逃げ続ける限り、人は文化人との差を理解することができる。

 送られてくる手紙に目を通さない人間は、存在価値が薄い。

 手紙にはサインが必要だ。

 何もかも失って、ようやく人間になることができる。


「逃亡者がいます。どうしますか」

「殺すしかないな」

「何か手紙を持っているようですが」

「ラブレターだろうな」

「何故、知っているのですか」

「なんとなくだ」

「信用や、信頼といった言葉で説明できるものですか」

「さあ。どうだろうな。詳しくは分からん。だが、そうであるといいな」

「世界が変わる予感がします」

「いつだって、世界は変わっている。気づかない間抜けが多いだけだ」

「ボス。この後はどうされますか」

「ケーキバイキングに行こう。安っぽい甘さが最高だ」

「ボスのそういうところが大好きです」

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